鏡の中のわたし?

なるるん

発進!


 ばたん


 ドアを閉め、シートに着いてシートベルトを締める。


 カチッ。


「さて……っと」


 キーをして、イグニッションを回す。


 きゅきゅきゅきゅきゅ…


 ブォン


 ドッドッドッドッド……


「ん。いい音」


「アイドリング回転数、よし」


「フェールメーター、ん。満タン、よし」


 ブォン、ブォン、ブォン。


「エンジンの吹け上りも上々。アクセルの反応も良い感じ。うんうん。よしよし」


 キュ、キュ


「クラッチも……いけるね。ヘッドライト、は? 、と……」


 カチっ


 ブイーン


「ちゃんと上がる、と」


 カチっ


 ブイーン


「そんでもって、ちゃんと下がる、と。ワイパー、ワイパー」


 カチっ


 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドドドドド。


「あはは。速すぎ」


 カチっ


「ブレーキペダルも……」


 キュっ、キュっ


「固すぎず、柔らかすぎず」


 カチっ


「サイドブレーキレバーも。ん、スムーズに動くね」


「クラッチを踏み込んで、シフトレバーを、ロゥに入れて……」


 カチっ


「アクセルを、ゆっくり、そぉっと踏み込みながら、クラッチを戻す……」


 ブゥーン


 じゃりっ


 駐車場の砂利をタイヤが踏む音と共に、その感触が車体を通して身体に伝わってくる。


「んじゃ、行きますかー!」


 わたしは、買ったばかりの車に乗り込んで、これから試運転。


 新車じゃなくて、中古だけど整備はばっちり。




 学生時代。勉強もそこそこにアルバイトに明け暮れて溜め込んだお金で、やっと買った車。


 マニュアル操作のスポーツタイプ。古い型の中古だけど、状態はかなりいい。


 その分、かなりいい値段だったけどね。


 頭金半分突っ込んでローン四十八回。


 とほほ。


 

 ヘッドライトは収納式。ライトを使う時にせり上がって来るタイプ。


 今は夜。ヘッドライトは上げてある。


「おっと、信号」


 クラッチを踏み込んで、クラッチレバーで一速戻す。


 ブォーン


 クラッチを少し戻すと、僅かにエンジンブレーキがかかってエンジンの回転数も上がる。


 エンジンブレーキを効かせながら、ブレーキも半分。


 さらに一速落として、エンジンブレーキとブレーキ。


 キュッ


 信号手前の白線ピッタリ、停止。


 どうせすぐ信号は変わる。


 ニュートラルには入れずに、クラッチとブレーキを両足で踏み込んだまま、一速で待機。


 ピポ、ピポ、ピポ、ピポ……


 視覚障害者用の歩道メロディが流れる交差点。


 歩行者は誰もいない早朝の公道。



 信号、青。左バックミラー、左側方ヨシ。バックミラー、後方よし。


 クラッチを放し、アクセルを踏み込む。あくまでも、ゆっくり。


 回転数が上がり、クラッチがギアに噛んで、タイヤが路面を蹴る。


 重力加速が、わたしの胸を押す。


 ドキドキ。


 この瞬間が一番、緊張する。


 クラッチが早くても、アクセルが早くても、少しでもタイミングが狂えばエンジンがストップしてしまう。


 エンスト。


「それだけは勘弁!」



 幸い。


 わたしの愛車はスムーズに加速を続ける。


 クラッチを切って、一速上げる。


 クラッチ・アンド・アクセル。


 加速して、もう一速。


 おっと、いけないいけない。


 ぼーっとしてると、つい、法定速度を超えてしまいそうになる。


 キューン。


 エンジンブレーキを効かせて、速度調整。


 ふぅ。


 誰も見てない、とは言え。


 もっと速く走れる、とは言え。


 安全安心法定速度順守。ん、コレ、あたりまえ。


 後ろから煽られても、知らんぷり。


「先に行きたければ、行けばいいわよ」


「どうぞ、お先に」



 さて、緑色も鮮やかな、高速道路の入り口の案内が出てきた。


「あれか」


 右に寄って、高速道路の入り口のスロープに入って減速。


 きゅるきゅるきゅる。


 右手でハンドルを回して窓を開ける。


「こんばんは~」


 料金所のおじさんにご挨拶しながら、料金を支払って、領収書をもらう。


「いってきま~す」



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