第25話同僚がまた全裸になった
その日の夜、リッテルはユアの部屋を訪れた。
カザハヤの事もあり、ユアの事が少しばかり心配になっていたのだ。あれぐらいで揺らぐユアではないとは分かっているが、今の状況は彼が慣れ親しんだものではない。なにかしらの思いや悩みがあれば、家庭教師として対応するべきだと思ったのだ。
「お前も、ユアのことが気になったのか?」
リッテルは、ユアの部屋の前でファレジと合流した。彼もユアのことを心配していたのだろうとリッテルは察して、なんだか微笑ましい気持ちになる。教育方針は違っていてもユアのことを見守りたい気持ちは、ファレジも自分と同じなのだ。
「メレナーデも男子寮に入ることができたら、ユアを訪ねていただろうな」
ファレジの言葉に、リッテルは同意した。
男子寮に勝手に入るなと注意したばかりである。メレナーデがいくら心配したとしても、さすがにユアの部屋には入り込もうとはしないだろう。
「入るぞ」
ユアの部屋入れば、リッテルの想像を超えたものが映り込んできた。ベッドで横になっているユアの上に、全裸のメレナーデが乗っている。この光景には、さすがのファレジも言葉を失った。
「何を考えているんだ!!」
夜であるにも関わらず、リッテルは大声をだした。そして、目にも止まらぬ速さでメレナーデに跳び蹴りをくらわす。メレナーデは、白い壁に叩きつけられた。
「こんなことをしたら、分隊長が起きる。可愛い顔ですやすやと寝ているのに」
メレナーデは、うっとりしながらユアの寝顔を見つめる。
ユアの寝顔を一瞥したリッテルは、わざとらしくため息をついてみせた。ユアは、狸寝入りをしている。
メレナーデに襲われたが、魔力が切れて身動きが出来ないので寝たふりをしていたのだろう。あるいは、女性の裸を目の前に緊張しすぎてしまって動けなかっただけなのか。
ユアの年齢を考えれば、そのどちらも考えられる。
「メレナーデは服を着ろ。お前の全裸は見慣れているが、思春期のユアには刺激が強すぎるんだ」
リッテルは、ユアの予備のシャツをメレナーデに投げつけた。
女といえども仲間の裸に欲情をする気はリッテルにない。メレナーデは、あくまで命を預ける仲間だ。だからこそ、リッテルは女というカテゴリーにメレナーデを入れていない。ファレジだって、そうであろう。
しかし、やはり男としての本能から目が引きつけられてしまうのも事実である。だからこそ、隠してほしいのだ。逆の立場ならば、メレナーデだって気まずい思いをするだろう。
「傷ついた分隊長を慰めることが出来るのは、私だけだ。ここは、まかせて欲しい」
ユアのシャツを着たメレナーデは、大威張りで胸を張る。痩せたユアのシャツでは、メレナーデの大人の胸部を隠すことが出来ていない。彼女にユアの世話を絶対にまかせてはいけないとリッテルは思ったし、まかせるつもりもなかった。
「俺の部屋に寄って、衣類を貸すからな。それで、女子寮に帰ってくれ。男子寮で全裸にいるところを見られたら、ハデア隊長だって庇いきれないぞ」
全裸の女が夜な夜な寮を徘徊しているなどと保護者の耳に入ったら、学園の信頼に関わる大事件に発展する可能性が高い。教師という立場で学園にいるのだから、生徒たちの教育だけではなく評判も気にするべきだ。
「分隊長を慰めようとしただけなのに……」
メレナーデは不満そうだったが、リッテルとしては彼女の行動を許すわけにはいかない。大人の行動は、子供をひどく傷つけることがあるのだ。だからこそ、注意をはらわなければならない。
しかも、メレナーデはユアの部下である。メレナーデが無抵抗のユアを襲ったとしても、何かがあったときに軍で罰せられるのは分隊長という立場であるユアの方だ。
それはメレナーデだって分かっているだろうが、行動を改めるつもりは微塵もないらしい。恋は盲目とはいうが、大人なのだから理性を取り戻して欲しいと願うばかりだ。
「人の足音だ。生徒たちかもしれない」
ファレジの言葉に、ユアの部下たちは目配せをした。全員が押し黙って、部屋の外にいるらしい生徒たちをやり過ごそうとする。
学園にいる間は、ユアはあくまで生徒である。そんな彼の部屋に、三人もの教師がいるのはおかしな話なのだ。
だが、リッテルたちの努力は無駄に終わった。ユアの部屋のドアが、叩かれたからである。
「カザハヤだ。アシアンテも一緒なんだけど……開けてもいいか」
カザハヤの言葉に、リッテルたちは慌てた。この場に教師が三人いる事も不味いが、ユアが動けない状態なのはもっと不味い。さらに言えば、メレナーデはシャツ一枚の姿だった。よく考えたら、彼女の状態こそ一番危険だ。
メレナーデを窓から投げ捨てようかとリッテルは本気で考えた。それだったら男子の部屋に男教師が二人いるだけの光景なので、シャツ一枚の女教師がいるよりは圧倒的なマシな絵面になる。
「メレナーデは、ベッドの下に隠れて。リッテルは僕の隣に座って、体を後ろから支えろ。ファレジはメレナーデがいた痕跡が残っていないかを確認」
ユアの命令に、部下たちは敬礼で返事を返す。そして、各々が指示通りに動いた。
リッテルはユアを抱き起すと、ベッドに座らせる。自分の隣に座って、力が入っていない体を肩を抱くことで支えた。
「痕跡はない」
ファレジの言葉に、緊張感が走る。カザハヤとアシアンテを迎え入れる準備は整ったのだ。後は、彼らを上手く騙すだけである。
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