第15話未来の最強軍人が勝負を挑んできた


「ユア、勝負しろ!」


 食堂の真ん中で、そんなことを叫んだのはカザハヤだった。ユアが熊を倒した際に助けられた生徒の一人の出現に、リッテルたちは食べ物を詰まらせるところであった。ユアもパスタを食べる手を止めて、ぽかんとしている。


「あー……、ごめんなさい。こいつはカザハヤって言って、脳みそまで筋肉で出来ている軍人志望です。さっきの『勝負しろ』っていうのは、先日のユアさんの活躍を見て感銘をうけたから是非とも指南してくれって意味です」


 カザハヤの後ろで通訳のようなことをやっているのは、アシアンテである。ユアに切られた前髪は、まだ回復途中のようだ。


「……断らせてもらう」


 ユアは、カザハヤの挑戦を拒否した。挑戦を受けたところでユアに得るものはないので、当然であろう。だが、それはカザハヤの精神を逆なでしたようである。


「少し強いからって、俺を舐めるな!俺は、最強になる男なんだよ!!」


 鼻息を荒くするカザハヤの隣で、アシアンテが冷静に通訳した。


「腕が大変たつようなので将来は軍で活躍したいボクに戦い方の指南をしてください、とカザハヤ語で言っています。悪いけど、協力してもらえないかな。こいつは、こんなんだから友達が僕以外いないんだ。ユアも友達がいないみたいだから、これを機に仲良くなれるかもしれないと思って相手をしてくれたら嬉しいし」


 気弱そうに見えるアシアンテだが、言いづらいことを言えるタイプの人間らしい。だからこそ、直情型のカザハヤとの友好関係が続いているのだろう。


「断る。それに、まだ魔法の使用は本格的な授業が始まっていない」


 つれないユアの態度に、カザハヤが拳を突き付ける。さすがに、その行動にはユアも驚いた。


「俺は、入学前から魔法の練習をしていた!もうすでに、それなりの使い手だからな。お前が来なくたって熊ぐらいは、簡単に倒せて……」


 勢いの良いカザハヤの言葉が消えたのは、ユアが持っていたフォークを突き付けたからである。自分も拳を突き付けたとはいえ、まさか先のとがった金属でお返しされるとは思わなかったのだろう。


「勝てる勝負は、あまりやりたくない」


 そういうとユアは、立ち上がろうとした。


 そんな彼の肩を押さえつけたのは、いつの間にかユアの背後に周っていたメレナーデだった。いつの間にか、メレナーデの姿に焦ったのは、リッテルとファレジである。今度は何をやるのかとリッテルはハラハラしていた。


「友情を育むためにも模擬戦は良いと思う。ユア君だって、友達と遊んで見たほうが良いに決まってる」


 メレナーデは、模擬戦を通してユアとカザハヤの仲を深めたいらしい。あるいは、コテンパンにされたカザハヤにユアの実力を実感させたいのか。


「怪我をしてもファレジ先生が責任をもって治してくれるし、オリエンテーションみたいな気楽さでやってみたらい良い」


 ユアが、メレナーデを一瞬だけ睨んだ。しかし、生徒という立場に甘んじているために反論するわけにもいかないと判断したのだろう。


「分かった。すぐに準備をするから、屋上で待っていてくれ」


 ユアは立ち上がって、空いた皿を片付けようとする。勝負を引き受けたユアの言葉に、一番驚いていたのはアシアンテだった。


「えっと……今からでいいの?」


 アシアンテの言葉に、ユアは何てことないように答える。


「手合わせを頼まれたんだ。すぐに答えるのが、筋だろう」


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