第13話忍び寄る最悪の敵
「リッテル先生。前の職場で人間関係に疲れて、学園に再就職したというのは本当かい?」
ハデアは、学園長室でにやにやと笑っていた。リッテルは自身の苛立ちを顔に出さないように、背筋を正すことだけを考える。
アシアンテの勘違いは、いまや学園中に広まっている。学校というのはそういう場所だから文句は言わないが、真実を知っているハデアにまで揶揄われるのは癪に障る。
「それよりも重大な報告があります。メレナーデの魔法が、森で発動しませんでした。彼女の魔法が発動しなかった事例は、過去に一度しかありません」
メレナーデが、分隊長だった頃に遭遇した敵である。彼女を辱めようとした敵の名は、たしかセバッテという名のはずだ。
リッテルもその場にいたが、体格の良い男だったと記憶している。身長も高くどこもかしこも筋肉に覆われた姿は、自分が強者であると宣伝して歩いているようだった。
彼の魔法は、他人の魔法を無力化すること。
メレナーデは、その魔法で追い詰められてしまった。一方で、ユアには魔法は効力を発揮しなかった。そのため、セバッテの魔法は発動に何らかの条件があると思われる。
魔法使いには、珍しくはないことである。リッテルも声を出せない水中では魔法を使えないし、メレナーデも三体以上の動物を操ることはできない。
「セバッテは捕虜として捕らえられているので、類似の魔法を使う人間が学園内に入り込んでいると思われます。ご存じのとおり、ユアは魔法を無力化する魔法使いと異様なほどに相性が悪い。なにかしらの対策を講じるべきだと思います」
リッテルの言葉をハデアは制した。
「セバッテは、一か月前に逃げ出していたらしい。彼は自分の魔法については多くか語らなかったから、彼の魔法の条件や効果は分からないままだ」
ハデアとしては、セバッテの魔法が単純な無力化とは考えていないようだ。魔法使いが使える魔法は一種類だが、その魔法が違う効力を発しているように見えてしまうというのはよくある事だ。ユアの魔法も一見すれば身体強化だが、実のところは違う。
「ならば、なおさら撤退を考えるべきです。セバッテは、ユアに執着するような言葉を残していました。ユアがここにいることで、他の生徒が危険にさらされる可能性があります。これは、この学園の教師としての意見です」
敵が潜んでおり、その標的がユアやその部下ならば生徒にも危害が及ぶ可能性がある。ユアの正体を知っている教員は、自分たちだけなのだ。だからこそ、進言する必要があるとリッテルは判断したのである。
「ユアは学園に残ってもらうよ。学園には、警備の兵士を増やそう。兵士の勤務先を斡旋しなければならなかったから、むしろ助かったぐらいだ。メレナーデが魔法で使用する動物たちの檻も森に隠しておくことにしよう」
ハデアの返答の呑気さに、リッテルは違和感を感じた。抜け目ないハデアらしくない反応である。
「……ユアを囮にして、セバッテを捕獲するつもりですか」
魔法を無力化するという魔法は非常に珍しい。そのため、魔法の研究機関ならば口から手が出るほどに欲しい人物のはずだ。セバッテが殺害対象から捕縛対象に変わったのも、それが関わっているからなのかもしれない。
「魔法の研究機関には借りがあるからね。それに、せっかくユアの運用が上手くいっているんだ。彼にも、そろそろ後輩が出来ても良い頃合いだろう」
ハデアは研究機関に恩を売って、ユアのような子供を融通してもらおうとしているようだ。ユアも研究機関の出身であると聞いているので、きっと掘り出し物を探したいのだろう。
「ところで、ユアの様子はどうだい?君が危惧していたよりは、長持ちしているんじゃないかな」
たしかに、ユアはリッテルの予想を超えて学園に馴染もうとしている。結果は芳しくはないが、ユア自信は望んでトラブルを起こしていない。
ユアが熊と戦った一件に対しては、カザハヤやアシアンテは周囲に話していないようだ。クラスメイトが熊と戦って勝ったなんて言ったら、リッテル同様に頭がおかしいと思われると考えたのかもしれない。
「ユアは、もう吐いています。夜中にひっそり吐いていたんで、気が付くのが遅れました」
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