【コール・ミー・カオルーン】 #3 前編
「はァァッ!」闇を裂くが如き裂帛が轟いた!血色の閃光が閃き、青白い冷気とぶつかる。闇をも吹き払うまでの衝撃が迸り、赤と青は交錯する!炎熱めいた滾りを纏う拳。大気を凍て裂く程の蹴り。激突する鬼と修羅! 1
「はッ!」グレンマキナーの肘鉄をいなし、於炉血は上段蹴りを見舞った!グレンマキナーはウィービングで風鳴らす円弧を躱すと、逸らされた手で於炉血の首を掴む!「ふッ!」そして軸足を刈り引き倒した!「はッ!」於炉血は倒れる己を左手で支えると、そのままにウインドミル回転蹴りを繰り出す! 2
「ちッ…」グレンマキナーはバク転で、蹴り足を躱しながら距離を取った。最中、投擲された氷刃を於炉血は叩き落とすと、回転蹴り足で地を打ち、跳んだ!怪鳥音も高らかに躍り掛かる於炉血をグレンマキナーは強く睨むと、深く腰を落とした。そして、冷気の尾を引きながら跳ね上がった! 3
…その肩に、刃が刺さった。「グ…!?」驚愕し、眉を顰めるグレンマキナー。「はァァッ!」その顔面に情け容赦ない踵が落ちた!「ごブあッ!」撃墜されバウンドしたグレンマキナーに向け、於炉血は距離を隔てたままにをナイフを揮う。当然、それは空振りし…於炉血の手からも消える! 4
『時を駆ける魔弾』!先にグレンマキナーが死合ったデリリウムの片割れにして歯車探偵社社長・タイムリープの魔術!超光速の早撃ちが過去へと着弾するそれを、於炉血は投げナイフで模倣したのだ!「んッん〜」吐息に鼻歌を混じらせる於炉血。それと同時にグレンマキナーの体をナイフが埋め尽くす! 5
「ほらァ!ほらほらほらほらほらァ!」於炉血は次々と、過去に向けてナイフを投擲した!その勢いは留まるところを知らず、それでも立ち上がろうとしていたグレンマキナーの瞳が、ついに裏返った!だがしかし、於炉血は何かを訝るように目を細めると、攻撃の手を止めた…。 6
グレンマキナーのダウンはブラフである。ここで迂闊に止めを刺しに行けば、殺されるのは自分だ。全てのナイフは全く急所を外れており、彼女の戦闘能力に然したる翳りはない。彼女が躱した?それもある。だがそれ以上に、自身のコンディションが落ち込んでいることに、於炉血は気付いていた。 7
ディーサイドクロウに負わされた傷は、ロシュ限界の迷宮より九龍を引き上げた際、自身の真我を繕うことで補っていた。しかしそれは全く開き、力が流出を始めている。1秒、また1秒と力が抜け出、もはやグレンマキナーと同程度の実力しか出し得ぬことを、彼は実感していた。 8
そして間もなく、グレンマキナーに劣る程になるだろう。彼女に絶対終末要塞は万に一つも落とせない。だが、可能性はゼロではないのだ。潰す。情報圧潰で世界を滅し、己が知識欲を満たす為に。如此、於炉血は命を賭すことを強いられたのだ…! 9
「ようやくご理解頂けたようで」グレンマキナーが立ち上がり、於炉血を強く睨んだ。「誰も彼もが全力で、命賭けなのです。そもそも貴殿は、貴殿が利用したその全てに最初から届いていなかった」「…ああ。どうやらそのようだ」於炉血は脱力し、肩をぐるぐると回した。その手には、ポケットWi-Fi。 10
「僕もここに全てを賭けよう。そして君を斃す」グレンマキナーの顔に、口吻じみた氷の嘴が生まれた。そしね冷気の傷を大気に刻みながら、氷の鉤爪を上向け手招きした。「来るがいい、於炉血。これが最後の斗いだ」 11
空間のヒビが広がる。世界を圧するその証が。ヒビはラリエーそのものに伝播し、玉座の間をに致命であろう瑕疵を刻み始めた。ここは、正しく必殺の場。決死の時は、近い!二人の間に走ったヒビから赤い光が漏れた。その瞬間、二人は同時に動いた! 12
「貫け!」於炉血は『音』をルーターより漏れでるWi-Fiに乗せた!音を含まれた電波は空間を犯し、円く抉るような穴を次々と周辺に穿つ!驚愕に目を見張るグレンマキナー。これなるは、滲み探偵社・真壁 亮太の扱いし魔法!ロシュ限界の迷宮にて彼を引き上げた際、模倣したのだ! 13
殺人電波に乗じ、於炉血はバックスピンキックで急襲した!目の前、グレンマキナーは体に穴を開けながらそれを迎え撃たんとし、しかし遅い!「はァァッ!」破城槌めいた蹴りはグレンマキナーの水月に吸い込まれ、彼女を粉砕した!不敵な視線を保ったまま、崩れ落ちるグレンマキナー! 14
「ふッ!」「グワーッ!?」於炉血の背中をグレンマキナーが襲った!瞬間、於炉血は理解した。氷の鏡で於炉血を惑わしたのだ!電波も反射し、彼女へのダメージはゼロ!「チイーッ!」舌を打つ於炉血の背より、刃持つ節足じみた8つの脚が飛び出す!「ぐッ…!?」グレンマキナーは弾き飛ばされる! 15
於炉血は刃の脚に鋭い刃鳴りを立てさせ、疾走した!火花の跡が線となり、散り黒ずんだ火花は蝿のような存在へと変ず!「ぶぶぶぶぶぶ」胸を悪くするような音と共に湧き上がるそれを、グレンマキナーは一瞥した。地面に凍ての跡を刻みながら深く身を沈めるように着地。その勢いのまま、回転する! 16
回転は瞬く間に勢いをいや増し、冷気を撒き散らすと共に溢れる黒を換気扇めいて巻き込んだ!ごうごうと風鳴り立ち上がる黒き竜巻!於炉血、近づくこと能わず!「ふゥアァァァッ!」裂帛と共に、竜巻は爆散した!SMAAAASH!闇に押し広げられる凍てついた黒!於炉血は成す術もなく押し潰された! 17
ZOOOM……崩れ始めた玉座の間に、沈黙が横たわる。しかしグレンマキナーは、目でそれを真っ直ぐに切り裂くと、高く跳躍!黒に潰れた於炉血に向け、飛び蹴りを放った!だがその瞬間、緋色の稲妻が迸りグレンマキナーを打った!「うあッ…!?」墜落するグレンマキナー。黒が弾け、於炉血が飛び出す! 18
真紅の稲妻を侍らせた於炉血は、黄金色の瞳を爛々と輝かせ、黒を焼き尽くした!冷気と風によって冷やされた黒は超電導状態にあり、無抵抗でグレンマキナーを喰い裂かんと迸る!だが赤に打たれる直前、グレンマキナーは跳ね上がり、雷の上を走った!「ふッ!」速度と共にローキックを繰り出す! 19
於炉血はクロス腕でこれを防ぐ。小手調べのような一撃は、しかし位置と速度により必殺に近い威力を持っていた!骨が軋み、肉が撓む!於炉血はそれに耐え、ついに弾き返した!「はッ!」態勢を崩したグレンマキナーを、緋の稲妻纏いし拳が追撃する! 20
グレンマキナーは態勢の崩れを回転によって速度に変え、それを以て於炉血の拳を逸らした!続けざま一合!二合!三合!激突する拳!蹴り!必殺の意志が籠められた攻撃が、敵の命を喰い荒さんと迸る!巻き起こる衝撃!空間のヒビはそれに耐えかねたかのように広がり、蜘蛛の巣めいて張り巡らされる! 21
「はァァッ!」チョップを肩口で受けつつ、於炉血はグレンマキナーを弾き飛ばした!それと同時に一本のナイフを抜き、己の手首に突き刺す。すると見よ!ナイフの柄尻から細く長い糸が飛び出し、空間のヒビへと絡み付き、二重の蜘蛛の巣じみて展開されたではないか! 22
これなるはナゴヤを潰滅へと導いた悪魔の兵器、人嚙劇«にんぎょうげき»!それを戦術兵器として用いた際の形である!於炉血は糸のいくつかを指先で絡め取ると、不可視のハープを爪弾くかのように動かした!瞬間、展開された糸が斬撃となり、グレンマキナーの背後から襲い掛かった! 23
「ふッ!」グレンマキナーは前宙でそれを躱すと、目の前の網をチョップで叩き斬った!跳ね上がり躍る端末を掻き分け、さらに襲い来る糸の斬撃をジグザグに走り躱し、於炉血に迫る!糸は薄く張った氷の鎧を容易く裂き、グレンマキナーを傷付ける。それでも彼女は走り…於炉血を拳の射程に捉えた! 24
瞬間、於炉血はニヤリと笑った。『オロチ』その手の中で、Wi-Fiルーターが起動!Wi-Fiがもたらす異能、NEWO«ネオ»の発現である!見よ。グレンマキナーの背後、張り巡らされた糸が次々と首をもたげ、龍となって彼女へと襲い掛かる!背後からの急襲に、彼女は対応しきれない! 25
…故に彼女は、そのまま拳を突き出した。己が傷付こうとも、斃すべきを斃す為!「ふゥアァァァッ!」拳は裂帛と共に、於炉血の顔面を捉え…穿ち貫いた!爆裂する於炉血の頭!噴水めいて血の柱を巻き上げ、体が傾ぐ!だがしかし、彼はその足で踏み留まった。血の柱はうねり、龍となる…! 26
「ドミネイション」赤い龍の口から、歪んだスピーカーを通したような声が響いた!血の柱が変じたそれより滴り落ちる赤が広がり、闇を侵す。闇は瞬く間に赤に取って代わられ、脈動する世界へと置き換わった!ドミネイション!NEWO能力の極地、新たな世界を限定的に顕現させる、全能の神たる権能! 27
グレンマキナーの体より無数の龍が生え踊り、彼女自身の肉叢を喰らい始めた!「ヌウーッ…!?」眉を顰め、その首をチョップ一刀の下に断つ!しかしその傍より再び龍が現れ出で、イタチごっこにすらならぬ!否、それだけではなく、周囲を覆う赤そのものが巨大な顎と変じ、彼女に向かい閉じ始めた…! 28
「グワーッ!?」殺戮巨大万力じみた力に挟み込まれ、グレンマキナーは這いつくばるように屈した!「はァァァッ!」しかし於炉血は、世界を閉じんとする力を些かも減じない!見るがいい。グレンマキナーは目から血を流しながらも、筋肉に爆発的な力を込め、圧殺に抗っている…! 29
「スウーッ!ハアーッ!」意図してか、呼吸を深めるグレンマキナー。食い縛れば歯が即座に砕け散る程の力が、彼女に満ちている!しかし龍は尚も彼女の体より生え、彼女自身を食い尽くさんと牙を剥いている!このままでは死も時間の問題だ!グレンマキナーもまた、決死の淵にあった! 30
((だが、問題ない))グレンマキナーは、力を込めながら少しでも遠ざかろうとする於炉血を、強く睨み付けた。((この粛清で、逆境は常に私と共にあった))脳裡を過る一週間の記憶。強敵との戦。死。痛み。絶望と奮起。((…覚悟なら、とうに決めた筈だ!)) 31
KRA-TOOOOM!グレンマキナーが弾けた!彼女を覆っていた氷、鬼の力、その全てが弾け飛び、閉じる世界に空隙が生まれる。そこに彼女は身を躍らせ、於炉血へと向かった!未だ体より新たな龍は生まれ、己を食わんと牙を剥く。それよりも速く。疾く!光すらも置き去りにするように! 32
一方の於炉血も、圧殺の失敗を悟った。もはや彼女を食い殺すことすら間に合わぬことを知ると、腰を沈めて迎撃態勢を取る!深く引かれた拳に赤い力が集中し、世界を灰燼に帰さんまでのエネルギーが迸る!向かい来るグレンマキナー!「ふゥアァァァッ!」「はァァァァッ!」力が激突し……爆発した! 33
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木造の安宿は薄暗く、備え付けの電灯のみでは十分な光は得られない。常に窓を開き街の光を取り入れなければ人間的な生活も送れないとは、不便なものだ。ネクローシスは溜息をついた。ニッポン…特に魔界には、ルドラひいては護世八方天«ピーク・ポイント・マトリックス»の威光は決して及ばない。 34
「閣下」同室の、桜色の和服の女性がネクローシスを呼んだ。「ピースメーカーから通話の要請が入っておりますわ」「あのクソコミュ障め。何用だ」「少なくとも、私には測りかねる内容であることは相違ありますまい」「…そうだろうな。ありがとう、チータ」女性は一礼し、部屋から出て行った。 35
ネクローシスはそれを見送ると、大きな溜息をついた。ピースメーカー。ニッポンが岩壁と毒の雨を降らす雲で『鎖国』されることとなった元凶だ。そんな男が何の因果か、護世八方天に身を寄せている。しかし忌々しいことに彼の知識はネクローシスに、プロジェクトAにとって必要なのだ…。 36
『おいおい、随分と待たせてくれたじゃあないか』粗末なデスクについたネクローシスを、陰湿で小さな声が出迎えた。『そう言えばチータくんの他にもう一人女の子を連れてたね。ひょっとしてお楽しみだったかな?それは悪いことを』「僕がそちらに戻り次第、殺してほしいと見えるな」 37
『おおいおいおい!冗談!冗談じゃないか!真に受けるなよ、アレだぞ。冗談を理解できないなんて自分は頭の悪い人間ですと喧伝』「要件を言え」『うう…わかったよ』通話越しにさえ人を潰さんばかりの圧力が籠ったネクローシスの気迫に、通話の相手…ピースメーカーは、萎れるように言った。 38
『ク・リトル・リトルと荒覇吐の反応消失を確認したよ。絶対終末要塞もそろそろ落ちるんじゃないかな?』「…ほう」ネクローシスは目を細めると、窓の外、遥かな闇の空の先を見た。絶対終末要塞ラリエー。ある探偵によって浮上し、ニッポンを、世界を破滅へと導く存在。それがじき、沈むか。 39
「…確かにあそこから放たれるWi-Fiは、1秒ごとに弱まりつつある。時間の問題だろうな」ネクローシスは不満げに言った。「全て、貴様の言った通りになっている。プロジェクトAは、極めて順調だ」『アッハハハハ!まあ当然だけどねえ!』ピースメーカーは、虚無的に笑った。 40
『と言いたいけど、石橋を叩いておきたくてさ。君に頼みたいことがあるんだよ、そういう訳でさあ』「どういう訳だ」『クルースニク…今、いるだろう?町田にさ。彼女が欲しいんだよ』「…」『気持ちはわかるよ?けどねえ、作戦には遊びが必要なんだ。失敗した時の副次作、所謂プランB』「貴様…」 41
『ああいや、ホント!ホントに必要なんだってば!いや必ず要るってワケじゃないけど、彼女ナシで失敗したらホントに取り返しがつかないし、そういう意味じゃ必ず要ると言っても』「黙れ」ネクローシスは語気を強めた。「彼女が僕の友の想い人と知ってのことだろうな」『……ああ。そりゃもちろん』 42
「……いいだろう。ならば何も言うまい」ネクローシスは目を閉じた。「詳細はメールで送れ。任務について…それと荒覇吐を斃す『監査官』篠田 明日香についての情報もだ」『…あ?』ピースメーカーは訝るような奇声を発した。『おおいおいおい、何の冗談?君ンとこには二人も女の子がいるだろ。… 43
…それもオッパイ大きな女の子が二人もさあ!何だ?モテるからって次々と食い散らかす気か?僕に言わせりゃ誠実さが足りないね。女の子の幸せを願えてこそ紳』「君がモテないのは、女性をパーツでしか見ないからだろう。それに僕の部下は、二人とも信頼できる戦士だ」ネクローシスの怒気が膨れた。 44
「これ以上、彼女たちを愚弄してみろ。プロジェクトAのプランは、貴様の脳髄から得ることになるぞ」『うう…わかった、わかったよ』ピースメーカーは観念した。『任務の詳細と、篠田 明日香の情報だね?まとめて送っておくよ。ッたく、体育会系が調子乗りやがってよ…』通話が切れた。 45
ネクローシスは、この日一番の溜息をついた。それによってピースメーカーに関する憂いを捨てると、立ち上がって外を見た。空に浮かぶ終焉、絶対終末要塞ラリエーを。「監査官、篠田 明日香。いずれ君は、世界の真実を知ることになるだろう。その時、君は我々と肩を並べてくれるだろうか…?」 46
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濛々と土煙が立ち上る。青黒い苔めいた物質を孕んだそれは、高く闇の中へと消えてゆく。絶対終末要塞ラリエー、玉座の間。再び闇へと戻ったここには、極大エネルギー衝突によって生じた大きな穴が開いていた。その傍らには、於炉血とグレンマキナーが倒れる。二人とも、まだ生きている……。 47
於炉血の指が動いた。そのまま数度、弱々しく床を掻くと、持てる力の全てを注ぎ込むかのように腕を突き、ゆっくりと、ゆっくりと立ち上がる。於炉血、健在である。二人は未だ息があり、勝負は決していない。先に立ち上がった於炉血に、全てのイニシアチブは渡ったのだ。 48
「ハァーッ!ハァーッ!」於炉血はよろめきながらグレンマキナーへと歩み寄る。簒奪したアーツによる猛攻。ドミネイション破り。彼は精も根も既に尽き、それでも笑っていた。「フフ、ハハハ…勝った。勝ったぞ。僕の勝ちだ!僕はハードルを超え、価値ある智慧を手にしたのだ…!」 49
彼の視界はぼやけ、定かではない。限界を超えた先にある限界、そこすらも超えた代償だ。「粛、清…」「ん…?」足元から、か細い声が流れた。「粛清、する…」「……」グレンマキナー。彼女もまた、ダメージが大きい。しかし、ゆっくりと、ゆっくりと立ち上がり、於炉血を見据えた。 50
「はッ!」「ふッ!」二人は同時に拳を突き出した。「「グワーッ!」」拳は同時に相手の顔面を打ち、仰け反らせた。しかし彼らは踏み留まり、更に拳を打ち出す。「はッ!」「ぐう!…ふッ!」「うごッ!…はッ!」「ぎい…」構えも無ければ技もない。ただ、弱々しい殴り合いであった。 51
最早、彼らには命と、それを支えるエゴ以外に何もなかった。死の河を背にして、ただそれをぶつけるしかできない。無様そのものの殴り合いであった。それでもエゴが彼らを支え、そして突き動かしていた。だが、おお、だが。それ故に、決着はすぐに訪れるしかない……。 52
「はッ!」「ぐあ…!」グレンマキナーの面が外れ、落ちた。「ふッ!」「げッ…」グレンマキナーは、その反動で頭突きを見舞った。「ふッ!」「グ…!」踏み留まりながら腹に拳を打つ。「ふッ!」「グワーッ!」よろめいたところに、全体重を乗せた拳を放った。零れ落ちた血の欠片が、凍り付いた。 53
「…待ってくれ、篠田 明日香……」於炉血が呻いた。「僕の、負けだ……!」弱々しく絞り出す彼からは、もはや微塵程の敵意もなかった。グレンマキナーは、決然とそれを睨み付けた。「僕を粛清するがいい、勝者の権利だ。だが、だが5分……いや、3分だけ待ってほしい……!」「……」 54
グレンマキナーは躊躇した。3分もあれば、於炉血はコンディションをある程度まで回復するだろう。そうなれば、彼を止めることはできまい。だが、だが。今の於炉血に敵意はない。それは……きっと、真実だ。なればその尊厳は、末期の頼みによって守られる権利がある……。 55
しかし、この世界には一刻の猶予もない。ラリエーを叩き落とし、世界を救わねばならない。そう約束したのだ。そして、その先の場所で、自分は彼と友達になると……。「私は……」グレンマキナーは、拳を強く握った!「私は……監査官だッ!」「待…」拳が放たれた! 56
「CHIESTE!CHIESTE!CHIESTE!粛清いたします…!ふゥアァァァッ!」「グギャァァァァァーッ!」全霊の連打を受けた於炉血は吹き飛び、玉座の間に開いた穴へと転落した!「くそう、最後の最後まで……!篠田……篠田、明日香ァァァァァッ!」魂の叫びは、暗黒の中へと消えて行った……! 57
それと同時に、カシャンと音を立て、グレンマキナーの傍らに何かが落ちた。それは、於炉血が持っていたポケットWi-Fiであった。『Fatal Error』ポケットWi-Fiが発した。接続の喪失、即ち使用者の絶命を告げるアラートである。終末の仕掛け人、於炉血……ここに死す! 58
𝙰𝚂𝚄𝙺𝙰:𝙿𝚊𝚛𝚐𝚎 𝚝𝚑𝚎 𝙳𝚎𝚝𝚎𝚌𝚝𝚒𝚟𝚎
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