【フェイタル・コンバット】 #2
「…文宏、水琴」康生は、震える手で持つバズーカを、二人に向けた。「君たちは死んだ筈だ」「この世界では、死後の安寧すらも決して約束はされないらしい」文宏は答えて言った。「そして俺たちは知った。俺たちが、どれほど馬鹿げたものに縋っていたか」「…」 1
「真実の重さだなんて、そんな大層なものじゃあない。ただ、な。あまりにも…馬鹿々々しくてな」「それで?我々を始末でもしに来たか」宏樹が口を挟んだ。「いや。今の我々は水先案内人さ。轍探偵社へのな」「ほう?それは都合がいい」宏樹の手元で、赤い刀がセグメント分割し…殺気が迸った! 2
蘇生探偵たちは、揮われた赤を跳び退って躱す。しかし包帯探偵社、蒲原 武だけは避けそこねて死!一瞬で五体をバラバラにされ、青黒い膿じみた体液を撒き散らしながら吹き飛ぶ!その頭を宏樹は受け止め、威圧した。「ならば貴様らを蘇らせた者が轍にいるのだろう。その素っ首を手土産にしてくれる」 3
「随分とお盛んなことですなァ」土蜘蛛探偵社、美作 博之が笑った。殺気が膨れ上がる。「我々、お話ししに来ただけなことですのにね?」「ならば通話で済ませればよかったものを。そうしなかったが故に、貴様らは再び死ぬこととなる」「何か勘違いしているようだ」天秤探偵社・浜口 侑斗が言った。 4
「もはや我々にとって、我々の目的の成就などどうでもよいことだ。香田殿も言っただろう?馬鹿々々しくなったのだよ」「ならばここで死んでも委細問題はあるまい」「…話の通じない人は、嫌いだ」侑斗は目を細め、臨戦した。互いの殺気が研ぎ澄まされ、鋭く突き刺さる。 5
「止しな、全員」声を張ったのは風切羽探偵社・石動 朝子であった。「あたしたちは案内人だろう?ナメられてムカつくのはわかるけど、斗うのは仕事が終わってからにしな」「貴様らの仕事など、こちらの知ったことではない」「血気盛んだねェ。子供は元気な方がいいけど、それが前に立つとなるとな」 6
未だ殺気を収めぬ宏樹を見、文宏は頭を抱えた。「康生。彼はいつもこんな感じなのか?」「まだ付き合いは浅いが…そんな気はする」康生は溜息をつくと、宏樹の肩を叩いた。「原殿。雇われの身で済まないが、私の顔を立てると思って少し堪えて頂きたい」「ム…」宏樹は、不満げに引き下がった。 7
「さて、文宏。俺たちを轍探偵社に案内するのだったな。しかしマップアプリなんぞで調べればいくらでも出てくるし、俺たちは方向音痴でもない。案内は無用だとは思うのだが」「ああ、わかっている。それ以前に、轍探偵社への案内は既に終わっている。何故ならここは轍探偵社だからだ」「何…?」 8
康生と宏樹は、訝るように辺りを見回す。彼らが立っている場所は、アンティークな調度で構成される星空探偵社では確かになかった。破壊し尽くされた事務机とパイプ椅子。充満する火薬の臭い。宏樹は携帯端末でマップアプリを呼び出した。現在地は、轍探偵社の事務所。「何だと…!?」 9
「認識は、生命の根源的な所作だ」文宏が言った。彼らの姿は、いつの間にか消えていた。「だが、生命が現実を認識するのではない。生命の認識に現実が従属する。故に我々は、ここに集められた。探すがいい。君たちの求めるものは、ここにある」そして、気配が消えた。 10
宏樹は腕を組み、爪先を数度踏み鳴らした。「川上殿。貴殿には、今の言葉の意味はわかったか」「正直、あまり。文宏は、かつてはあのような胡乱な言い回しをする男ではありませんでした」「ふむ」宏樹は顎を擦り、再びぐるりを見回す。そして彼は、一つの机へと歩み寄った。 11
机にはコンソールが埋め込まれていた。その傍らには、白い鎧を纏うた鋭利な爪持つ異形の人型が横たわっている。「象牙«アイボリー»…!」康生が目を細めた。「星空探偵社から連れられた先の轍探偵社で、謎の象牙。となると、これは…」「間違いないでしょうな」宏樹は頷くと、コンソールを向く。 12
そして、苦々しく顔を歪めた。彼が見たのは『ニッポン潰滅素敵計画byオロチ』という、奇怪な名称のファイルであった。あからさますぎる。誘われているな。そう考えども、確認せぬわけにはゆかぬ。ファイルをダブルクリックし……再び顔を歪めた。パスワード入力画面。 13
「原殿」康生が横たわったままの象牙を示した。宏樹はそれを見やると苛立たしげに舌を打ち、コンソール備え付けキーボードに指を伸ばした。K、O、W、L、O、O、N。エンターキーを押すと、ファイルが開かれた。「これは…」「誘導されている。好きなように」宏樹は、再び象牙へと目を向けた。 14
横たわる象牙は、外骨格に『KOWLOON』…クーロン、即ち九龍と刻まれていた。此度の斗いの渦中にいたクローンレイブンの名であり、それがニッポン潰滅計画ファイルのパスワードであった。誰が、何の為に?自分たちを誘い、知らしめる為としか思えぬ。その下手人は、やはり於炉血なのか? 15
宏樹らが思案する、その最中であった。「AGIIIIIIYAAAAAAGH!」突如として象牙が仰け反り、絶叫したのである。反射的に半歩退き、それぞれの得物を構える宏樹と康生。しかし象牙は叫び、のたうち、藻掻くのみ。爪が机に床に鋭い痕を刻むが、それは藁にも縋らんという自棄を含むように見えた。 16
やがて発作じみた象牙の叫喚は止まった。象牙は震えながら椅子に掴まり、やおら身を起こす。「ぇあ…あ?何よ、アンタたち…」歪んだスピーカーを通したような声が、宏樹らを咎めた。「こちとらヤバいんだからさ…どっか行ってよ。しっしっ」「失礼ながら、貴殿は何者だ」宏樹が問うた。 17
「そりゃこっちのセリフだよ。人が苦しんでるところに突然転がりこんで来おってからに」「…失礼した」宏樹は険しい顔のまま名刺を取り出し、手渡す。康生もそれに倣った。象牙は受け取った名刺を暫し見つめると、やがてそれを机に置いた。「そっか…そっか。そっかアンタらが」そして、笑った。 18
「うふふアハハハ、アヒャヒャヒャヒャヒャ……」「大丈夫ですか…?」康生が象牙を気遣った。「カカカキキキ、クククケケケ、コココココ…!」「あの…」「ねえ、アンタァ!」ずい、と宏樹に身を乗り出す象牙。しかし彼女は、すぐに崩れ落ちた。「早く、早くさぁ…あたしを殺してよ」「は…?」 19
「あたしの中にさ、いるんだよ…ハイドアンドシークが来るのを待ち望んでるヤツ。そんでソイツは、ニッポンを滅ぼしたくてウズウズしてんだ」「貴殿が食った人間の声か」宏樹は問うた。象牙は頷いた。「そいつの名はわかるか?」「……ウェイランド サーストン」「……」 20
宏樹は殺害と引換に情報の提供を求め、象牙はそれに応じた。任務を終え象牙と成ってより、ウェイランドがニッポンを滅ぼさんという声がずっと鳴り響き、それにより摩耗していったこと。そして、声より理解できたこと。宏樹はニッポン潰滅計画のファイルと、それを照合する。 21
「フー…」話が終わった後、宏樹は眉間を揉んだ。「何ということだ」「これでおしまい。さ、早く殺してよ」「申し訳ない。貴殿にはもう暫く生きてもらわねばならなくなった。後々の介錯は約束するが、暫しの勘弁を願う」「…」宏樹は頭を下げると携帯端末を取り出し、篠田 明日香を呼び出した。 22
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闇カネ持ちが我先にとホールから逃げ出さんと怒号を上げ、互いに押し合う。いずれどこかで致命的な将棋倒しが起きるだろう。しかしそれに構う暇はなし。グレンマキナーは益の首を折り殺すと、現れた探偵らに向き合った。「皆様、お久しぶりですね。再び無惨に殺されに現れましたか」 23
「そうしてくれても結構だがな」亮太が肩を竦めた。「ぶっちゃけ、俺たちはもう色んなことがどうでもよくなってる。ク・リトル・リトルだの荒覇吐だの、そんなのはどうでもいいんだ」「心置きなく死ねるというものですね」「そうは言うけどな」錆探偵社・ベルゼブブがモノアイを光らせた。 24
「心残り自体はあるんだよ。わかるだろ?俺たち全員を無様に殺してきたお前ならさ」「無様に墓を這い出てまで成したいことなど、とんと見当も付きませんな」「ならばそれがオマエの限界なのだろう。飢える者から尚搾取し省みぬ、企業の犬のな」水底探偵社・坂東 聡がせせら笑った。 25
「故に、わかり易く言ってやろう」大気に殺気が満ちた。聡の後ろで鱗探偵社・インフォ ゲロッテルが卑屈そうに笑った。聡はそれを咎めずに歩み出る。同時に、他の全ての探偵が。「我らをボロきれじみて殺した貴様への憎悪よッ!」「ふッ!」グレンマキナーは疾走し、探偵らに襲い掛かった! 26
繰り出された跳び後ろ回し蹴りを、ベルゼブブはクロス腕で受ける。その腕がガトリングへと変わり、回転。反動で跳躍したグレンマキナーへと向けられた!「ふッ!」飛び来る弾を側面から蹴り、グレンマキナーは射線より逃れる。その後を追って鉛が迸り、逃げんと惑う闇カネ持ちを殺!「アバーッ!」 27
「シャギャアアア!」爆ぜる床面が上げる煙を蹴散らし、聡が襲い掛かった!「ちッ」グレンマキナーは挟み込むようなチョップを前宙で躱すとその肩を踏み台に、再度の跳躍を放つ!「ふッ!」そして高みより氷の刃を投擲!氷刃は熱い弾丸を弾きながら飛翔し、ベルゼブブのガトリングに食らいついた! 28
「ぐ…」凍り付き暴発するガトリング!「死ね!」腕をパージするベルゼブブを盾にしながら、亮太が再生機に音を籠めた。KBAM!KBAM!遮蔽から半身を出してグレンマキナーを狙い、銃爪を引く。来たる音を彼女はジグザグに走って躱し、接敵。速度を乗せた崩拳で諸共に吹き飛ばす!「「グワーッ!」」 29
「ぎょぎょぎょぎえあィッ!?」逃げ遅れた闇カネ持ちが絶叫!彼らの肩に手を掛けているのはインフォ ゲロッテル!青黒く生物的な奇怪サイバネより染み出す何かが、闇カネ持ちの姿を覆い、蠕動し…その体を作り変えている!彼らと同じく、青黒く生物的なサイバネ生命兵器へと! 30
グレンマキナーは目を細めた。それらは復活探偵らを補綴するサイバネと同等の代物であり、かつMoISで鱗探偵社と共に対峙したものと同じであった。畢竟、これこそが鱗探偵社の真髄!「「「AAAARGH!」」」体を作り変えられた汚穢なる元闇カネ持ちがグレンマキナーへと殺到した! 31
「おいおい、そりゃ俺の十八番だろうによ」ベルゼブブが笑い、スペアの腕を調整する。グレンマキナーは舌を打つと、連続バク転で向かい来る海嘯じみた青黒い人波から逃れる!最中、飛翔する氷刃が侵食カネ持ちを穿ち遅滞させるが、しかし側面への警戒が弱まる!「シャギャアアア!」「あがッ…!」 32
グレンマキナーは強烈なタックルで吹き飛ばされ、壁を突き破った!「く…」数度の受身と共に立ち上がり、周辺の状況を確認。それと同時に、彼女は目を見開いた。そこは、頽廃暗黒ホールに併設されるとは通常考えにくい場所。事務机が並ぶ、簡素な事務所であった。珈琲の匂いが鼻を突く。 33
「なな何だお前はッ!?」机の上で、女とまぐわっていたであろう男が叫んだ。グレンマキナーはそれに答えず、彼らの胸に付いたネームプレートを見た。彼らの所属は…。「…鉞探偵社」「ああ、そうだよ。ここは鉞探偵社のオフィスだよッ」女が着衣の乱れを直し、凄んだ。そして彼らは白刃を抜いた。 34
「ふッ!」「「グワーッ!」」グレンマキナーは女を一撃で昏倒させると、男の後頭部を掴んで壁に叩き付けた。「な…何者だテ」「帳簿を出しなさい」「グワーッ!そ、そんな脅し」「帳簿を出しなさい」「グワーッ!わかった、出す!出す!」「帳簿を出しなさい」「グワーッ!」 35
男はその後も頭を打ち付けられながら、どうにか帳簿を取り出した。グレンマキナーは彼の顔面に拳を叩き込んで昏倒させると、自らが転がり込んだ壁の穴を伺う。その向こうには壊れた福引、青黒い人波、そして遠巻きにこちらを見やる復活探偵たち。どうやらすぐに襲ってくるつもりはないらしい。 36
((ならば、存分に読ませてもらうまで))グレンマキナーは帳簿を開いた。ぱらぱらとページをめくり、星空探偵社の名を探す。その果てに、彼女は指を止め、眉根を寄せた。確かに星空探偵社の名はあった。鉞は、星空からカネを受け取っている。そしてそのカネで、ロケットブースターを買っていたのだ。 37
そしてロケットブースターは、鑢探偵社へと流れていた。鑢探偵社。此度の粛清で、グレンマキナーが最初に粛清した探偵社だ。彼らは皆、船と共に海へと沈めた。グレンマキナーは確信する。何かの答えが、海の底にある。その時、携帯端末が鳴った。同僚、原 宏樹からの呼び出しであった。 38
「原、いいところに」『…そちらでも何かあったようだな』宏樹の声音は、極めてシリアスであった。『まず、そちらで何かあったか聞こう』「鉞探偵社が星空からカネを受け取って、そのカネでロケットブースター買ってる。そんで、それを鑢探偵社に流してた」『……そうか』宏樹は大きく息を吐いた。 39
『これで確定した。星空探偵社・ウェイランド サーストンは、過剰情報量によってニッポンを圧し潰して滅ぼすつもりだ』「……は?」グレンマキナーは首を傾げた。「ごめん、よくわからない」『ならば少し復習するぞ。情報物質イデアについてはどれくらい覚えている?』「万物の最小要素だよね」 40
『ああ。そしてイデアは情報から成る。畢竟、情報には質量がある』「ああ、エントロピー」『そうだ。起こりにくい事象ほどエントロピー…情報量が多い。つまり質量が大きい』「圧倒的情報量でニッポンを潰す。そういうことか」グレンマキナーは得心した。「けど、そんなことできるのかな?」 41
『俺たちはそれを体験したことがある。ツクバでな』「あ…」グレンマキナーは色を失った。ラリエーネットという特殊インターネット回線に含まれた情報量により、ツクバは地獄を作り出し、そこに堕ちた。「まさかひょっとしてだけど、広域の地獄落としが可能か否かの実権だったのか…?」『…ああ』 42
宏樹はゆっくりと言った。『その通りだ』「…」グレンマキナーは手袋を嵌めたままの拳を音が鳴るほど強く握った。彼女の脳裡にはただ翻弄され、使い潰されたツクバの孤独な王の姿があった。『そしてツクバだけではない。この粛清に纏わる全ての斗いが隠れ蓑、或いは実験だ。絶対終末要塞の為のな』 43
「絶対終末要塞」『絶対終末要塞ラリエー』宏樹は言った。『過去の創作神話に語られたク・リトル・リトルの居城。その創作神話内では、ラリエーが浮上したら世界が滅ぶとか何とか言われている』「ツクバに地獄を作ったみたいに、情報でそれを建造・浮上させる。その情報量で…」『そういうことだ』 44
「けど、何でそれが星空探偵社の社長の仕業になるんだろう。私は正直…まだ信じたくはないよ。九龍を育てた人がそんなことを考えていたなんて」『篠田』宏樹は低く言った。『星空探偵社について調べようとしたことはあるか?』「え…?」グレンマキナーは訝った。それが何の関係があるのか? 45
だが、原 宏樹は無為の男ではない。彼が言うからには、何かがあるのだ。「ないけど…なんで?」『それがおかしいと思わないのか?粛清の渦中にいたクローンレイブンが在籍していたんだぞ』「別に…あー…ん…?」宏樹の言葉と共に、自身の裡に疑念が湧き上がってくる。「原は…原はどうなの?」 46
『俺もない。そして、それに何らの疑問も抱かなかった』彼は断言した。『…轍探偵社で先のニッポン潰滅計画の書面と共に、あるプログラムが見つかった。ニッポン中の発電システムをハッキングし、特殊なパルスを放射させる面妖なものだ。それを受けた人物の脳から、特定の事柄を消去するのだ』 47
「…は?」『そんな馬鹿げたもの、と思うだろう。だが、轍探偵社は星空探偵社の傘下であり、車裂き探偵社の襲撃を受け潰滅している。報告を読んだだけだが、車裂きの藤田 眞澄ほどの人物が、与太話など真に受けはすまい。そして……今しがた。川上殿が、クローンレイブン培養層を見つけてくれた』 48
グレンマキナーの口からは、言葉が出て来なかった。言いたいことはある。だが、それを表す言葉が見つからない。それでも、何かを言いたかった。「何故」暫しの沈黙の後、出てきたのはそんな言葉であった。「何故、ウェイランドはこんなことをしたのかはわかるか」『ああ』宏樹は言った。『好奇心』 49
「…」『ニッポンを情報量でぶっ潰す方法を思いついた。それが実際に可能なのかどうか。好奇心を抑えられなかった、と』「…それは、どうやって辿り着いた答え?」『本人が自白した』強く握られた電話が、音を立てて軋む。『星空を襲撃し、ウェイランドを食った牙がいた。その記憶を話して頂いた』 50
その瞬間、携帯端末が粉砕した。グレンマキナーは、手の中でへしゃげ、割れた基盤を露出させた端末を、グレンマキナーは無感動に見つめた。「ハ!ハ!ハ!」頽廃ホールの照明を受けながら、壁の穴より亮太がエントリーする。「その様子だと真実を知ったらしいな。どうだ?馬鹿馬鹿しいだろう?」 51
グレンマキナーは答えなかった。彼女はゆっくりと首を巡らし亮太を、その後ろの侵食カネ持ちを、待ち構える復活探偵らを見た。「篠田。無駄なんだよ。俺たちの斗いに、意味なんて一つもないんだよ。何かを変える為に斗って、それで何も変わりはしない。より大きなものが、強き者が俺た」 52
亮太の声が途切れた。彼の首はねじ切られていた。紙縒りめいてささくれた断面から、黄色い血がぴゅうぴゅうと漏れる。それに抗うかのように亮太の体は揺らぎ、やがて倒れた。「…全員、構えろッ」ベルゼブブが叫ぶ。彼の視線は、侵食カネ持ちらの中心に向いていた。グレンマキナーは、そこにいた。 53
「斗いの意味?そんなのどうでもいい」グレンマキナーは、何かを言わんとしたまま固まった亮太の首を投げ捨てた。発散される彼女の気は、世界をすら蝕むほどに冷たく、その内側では、マグマじみて熱い何かが流動していた。極限まで煮え滾った怒り。それは感情ではなく、冷徹なる意志。「粛清する」 54
(つづく)
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