【プレイヤー・トゥ・アスク・フォー・ア・スター】 #7 後編

ディーサイドクロウは、もはやWi-Fiを放っていた。彼のNEWO«ネオ»、『ディーサイドクロウ』。その本来の姿であった。『ディーサイドクロウ』は首を高くもたげ、強く吠えた。すると、ビジョンから羽が抜け、それは舞踊って空間に貼り付き、二人を覆って闇に閉じ込めてゆく。 0



一切が闇に閉ざされた。光なきその中でも、互いの姿ははっきりと認識できた。ディーサイドクロウの前に、赤と黄色の目のような物体が現れた。「ドミネイション」ディーサイドクロウはそれを握り潰した。すると闇の中、上下左右あらゆる方向に、ぎょろりとした赤と黄色の目が開いた。 0



瞬間、於炉血は爆発四散した。疑問を差し挟む余地もなく砕けた彼には、未だ意識が残留していた。二つの目玉がぼとりと落ち、疑問と驚愕の視線をディーサイドクロウへと投げ掛ける。「驚いたか?けどこの中では、おれは全能なんだ」ディーサイドクロウは悪戯っぽく笑った。「おれの世界へようこそ」 0






探偵粛清アスカ

【プレイヤー・トゥ・アスク・フォー・ア・スター】 #7 後編






「はッ…!」於炉血の体は復元していた。((何だ?何が起きている…!?))「幻覚?いや、あの感覚は間違いなくリアル!そんなチャチなものじゃあない!……ってか?」ディーサイドクロウは茶化すように言った。それは全て、於炉血の代弁であった。「心?そりゃ読めるよ。全能だって言ったぜ?」 1



ディーサイドクロウは笑った。「全能は、おれのNEWOの能力じゃあねえ。だがNEWOというものは、本来はそれを目的に作られてる。己の能力を超えて全能に辿り着くなんて出来るのは、現状ではおれだけだろうな?」「はッ!」於炉血は跳び掛かった。全能であろうが、思考の間隙を突けば殺せる。 2



於炉血のチョップを、於炉血は堂々と受けた。「はッ!」カウンターの貫手を、於炉血は流麗な水面蹴りで躱しながら足を刈りにゆく。「はッ!」於炉血は蹴りを跨ぐようにブリッジすると、そのままバク転。於炉血に蹴りを落とした。「おぐッ…」潰れたに於炉血に、於炉血はマウントを取った。 3



「はッ!」於炉血が横合いから飛び蹴りを放ち、続くパウンドを防いだ。「ぐわッ…」於炉血は転がり、態勢を立て直す。しかしその瞬間、於炉血が羽交い締めを仕掛けた。「くッ…」拘束された於炉血の前に於炉血は立った。そして小さなモーションから放たれた崩拳が、於炉血ごと於炉血を貫いた。 4



於炉血の背より突き出した腕は、しかしどろりと溶けた。於炉血らもまたとろけており、すぐに彼らは同化を始める。赤黄色いスライムじみた姿となった於炉血は、赤の中で目を瞬かせた。「昔の漫画でこんなん見たときはカワイイと思ったけど、実際見ると中々キモいな」ディーサイドクロウは言った。 5



於炉血を掴み上げると、瞬間、彼らは宇宙にいた。黒の中に煌々と輝く星々の光が、彼らを凝視する。「また後でな」ディーサイドクロウは消えた。於炉血は目をぐりぐりと回し、彼の姿を探す。しかし見えたのは、強くなる星の光のみ。光は凄まじい勢いで大きくなり…即ち接近し、於炉血を呑み込んだ。 6



極大熱量に包まれた於炉血の視界から光が消えると、彼は再び闇の中にいた。ディーサイドクロウの闇に。「アが、アが…」もはや炭の塊となった彼を見、ディーサイドクロウは楽しげに喉奥を鳴らした。「いやあ、やっぱり弱い者いじめは楽しいな?」「この…外道め…」「オマエが弱いのが悪い」 7



ディーサイドクロウは切って捨てた。「いや、違うな。悪いことしたのが悪いんだ。オマエこの1年、子育ての真似事してたんだろ?ならわかるよな?悪いことしたらどうするのか」「…あ、ああ〜」ディーサイドクロウの言葉と同時に人型を取り戻した於炉血は、滂沱の涙を流した。純然たる悲しみと共に。 8



「済まない…済まな、ふ、ッぐぅ」「謝るときはどうするんだったかな?」ディーサイドクロウは闇に腰をかけると、膝を折った於炉血の鼻先に靴を突き付けた。於炉血は震える目でそれを見つめると、茶碗のようにそれを取り、口を付けた。「済ま、済まない…」「よしよし。ちゃんと舐められて偉いぞ」 9



ディーサイドクロウは己の靴に残る薄い唾液の跡を見、満足げに於炉血の頭を撫でた。於炉血は彼の拳に流れる力、己の頭を容易く握り潰しかねない力に怯えながら、ディーサイドクロウの靴を舐め続けた。彼の怯え、そして謝罪は全く本物であった。ディーサイドクロウの全能が、そうさせたのだ。 10



於炉血はディーサイドクロウの靴を舐めながら、過去を振り返っていた。アカシャの空での出来事。ピースメーカーとの確執。『鎖国』の動乱。釵釖 鋏鈷と名を変えた彼女は今、どこにいるのだろう?神代 恵は息災だろうか?かいわれ探偵社から早期に離脱した自分に、もはやそれを知ることは叶わない。 11



於炉血に残っているのは自らが為した悪と、それに対する後悔だけであった。それが他者に植え付けられたものであるともわからず、ただ彼は、審判者の靴を舐め続けた。唾液の跡に支流めいて流れ落ちる涙。その中に、一人の少年の姿が浮かぶ。九龍。自らが殺した、あの少年だ。 12



己の体と共に作り、ハイドアンドシークの目より隠してきた彼。一時の癇癪に身を任せ殺した愚かを、於炉血は悔いていた。それがどれだけひどいことかも知っている筈なのに、あまりにも容易く、自分は踏み躙る側へと回ってしまった。だがそれでも。だとしても!好奇心は止められないのだ! 13



その時、於炉血の中で何かが噛み合った。そう、好奇心。全ては好奇心の為だ。許しを乞うつもりなど元よりありはしなかった筈だ。なのに何故、自分はこんなことをしている?まだ自分の好奇心は途上だ。終わってなどいないのだ。壊れたならやり直せばいい、それだけではないか……! 14



…その瞬間、ディーサイドクロウの第六感が警鐘を鳴らした!「せいやーッ!」0.01秒の間に108のチョップと72の足刀が於炉血を襲い、彼を血の霧に変える。しかし血の霧はディーサイドクロウの意思とは無関係に発散し、渦を巻き、収束する。その中心にポケットWi-Fiルーターを抱きながら! 15



『オロチ』Wi-Fiルーターが起動した。血の霧がうねり、八つ首の龍めいたシルエットを形成してゆく。ディーサイドクロウの世界の中で確固たるエネルギーが樹立し、金色へと変わるその中で、傷付き弱り果てた於炉血の体が再形成された。彼はもはや、ディーサイドクロウの全能が及ばぬ世界にいた。 16



「君が最強と呼ばれる所以、よくわかった」於炉血は、ディーサイドクロウを力強く睨んだ。「君の前ではあらゆるものが等しく弱者だ。だがしかし、弱者にも意地がある。意志がある。掴まんと手を伸ばす星がある」「…」「これは弱者の挑戦だ。舐めるなよ、強者」「ちッ!」「ドミネイション」 17



ディーサイドクロウが跳び退ると同時に、於炉血は指を鳴らした。瞬間、金色の八つ首が闇に噛み付き、食い荒らし始めた。闇が戦慄き、芽生えた瞳が血を流さんばかりに見開かれる。闇はスターボウめいて収縮し…ついに『オロチ』は闇より脱した。 18



首を食い破られた『ディーサイドクロウ』のビジョンが『オロチ』を睨んでいた。於炉血は理解した。ドミネイション。己の周囲にNEWOを敷衍し包み込むことで、その内部領域を完全支配する力。世界を作るNEWOの力の顕現である。自分はディーサイドクロウと互角の領域に上がったと、彼は実感した。 19



だが、それだけで勝利は有り得ない。於炉血は決死の覚悟を決めると、己のNEWOの中で低く身を落とした。「行くぞ、勝ち豚」ディーサイドクロウはNEWOの中で首を修復すると、黙したままに於炉血を睨み、手招きした。瞬間『オロチ』は飛び掛かり、『ディーサイドクロウ』に絡み付いた! 20



そのままに『ディーサイドクロウ』に噛み付く!「アアアア…!」ディーサイドクロウはダメージのフィードバックを受けながら、遥か上を見る。ドミネイションを発動したNEWOは巨大化する。都市の地下は狭すぎるのだ!「せいやーッ!」裂帛と共に『ディーサイドクロウ』は飛んだ! 21



KRASH!KRASH!KRAAAASH!都市の天蓋、或いは地を次々と突き破りながら上へ!中層から上層。そしてそこをも突き破り地表へと飛び出す!「せいやーッ!」尚も高く羽撃き、そして空を覆う雲へと届かんとした瞬間に『ディーサイドクロウ』の羽が刃と変わり『オロチ』を突き刺す!「グ…!」 22



拘束を解き、離れる『オロチ』。天を流れる河めいてうねくり飛び、旋回する『ディーサイドクロウ』を、その中から睨んだ。鋭き殺意。冷徹なる意志。交錯する敵愾心に導かれるまま、巨星は再び激突した! 23



───────────────



未だ人嚙≪にんぎょう≫が跋扈する街並みを見下ろしながら、明日香らはモノレールの軌道を駆け上がる。立ち上る煙。蠢く人嚙劇≪にんぎょうげき≫は明日香らを追撃し、軌道から蹴り落とされてゆく。中層以下のものとは明らかに戦闘力が違う。傷ついた体では脅威だが、しかし目的に近づく証左だ。 24



それでも、走る彼らの顔は晴れぬ。水琴と《セト・アン》は、明日香より九龍の死を聞いた。その故だ。「全く……二度も仕事を途中で放っぽり出すとか」《セト・アン》が毒づく。「彼、社会人の自覚ないんじゃない?」「意外ですね。まさか貴公にそのような憐憫があったとは」明日香が目を瞬かせる。 25



「…彼には恩がある。それくらいはね」「しかし、明日香」水琴が言った。「貴公こそ随分と冷静だな」「ええ。悲しむのも憤るのも後でできます。けど、斗うことは今しかできません。生きている者にしかできませんから」「…強いな、貴公は」「強いから斗うのではありませんよ」「そうだな」 26



…「フウム」ナゴヤ電波塔。肉の殿堂と化したここで、人の形弄びしオルガンを弾きながら、浜口 侑斗は唸った。「斗うことは生きている者にしかできない…いい言葉だ。全くもってその通りだよ、監査官代理」指を一際強く、オルガンに叩き付ける。ぬめった音が響き渡り、人嚙を操る糸に伝わる。 27



突如として介入してきたディーサイドクロウは、於炉血が食い止めている。ならばその決が着く前に、全てを終わらせねばならぬ。即ち監査官代理、そして白無垢探偵社及び《セト・アン》の殲滅だ。「秘密兵器投入の時は…今ッ!」音が寄り集まり、糸を全く異なるパターンで震わせる。恐怖じみて。 28



…「止まれ、二人ともッ!」先頭を走る《セト・アン》が制止を促した。「何か来るッ!」彼が叫んだその瞬間、全員の第六感が叫んだ!同時にモノレールの軌道から飛び降りると、直後、鋭利な何かが空を裂き、通り過ぎた。あのままであれば、全員の首が宙に舞っていただろう……! 29



落ちながら見上げると、自分たちの首を裂かんとした何かが旋回し、こちらに向かってきていた。それは翼を持つ鎧、4体!ランスを鋭く振り翳し、自在に宙を舞い明日香らを狙う!鎧の隙間からは血が流れ、そして金属ではない、骨が軋む音がした。これらもまた、人嚙なのだ! 30



「ちッ…!」《セト・アン》は頭上に氷の盾を展開。致命的な襲撃を防がんとする。だが、そもそもの攻撃が訪れない。氷越しに目を凝らすと、人嚙らは名刺を構えていた!天秤探偵社の名刺を!「力を得る為、自ら人嚙となり、特殊改造を受けた。そんなところか」水琴が目を細めた。 31



「どうする?アイツら、結構やりそうだぜ。少なくとも、今の傷ついた僕らよりはな」「ふむ…」水琴は懐から名刺を抜いた。「私と彼で食い止めよう。明日香、君は行け」「はあ!?ちょっと待て、何で僕も」「その通りです。全速で排除して向かう方が確実」「だが、時間は掛かるだろうな」 32



水琴は指を立てた。「考えてもみろ。天秤探偵社の目的はこのナゴヤ全ての命を荒覇吐に捧げるのが目的と言っていたが、『量』に規定があるというのなら、文字通りの鏖にしなければ足らぬというのは、リスキーが過ぎないだろうか?何かの用意をするときは、必要量よりも多くするのが通常だ」 33



「確かに。量が要るならば、既に王手が掛かっていると考えた方がいいだろうね」「加えて我々は『荒覇吐に命を捧げる』そこ最終的な結果の先を知っていても、如何にしてそれを達するかも、過程に何が起こるかもわからん」「よくそんなのに従おうと思ったね」「それは…まあ、その」 34



「…わかりました」明日香は頷いた。「ですが、十分に気を付けてください」「貴公もな」水琴が頷き返すと同時に、彼らは着地した。頭上の氷盾が砕け散り、その欠片が《セト・アン》の手に収まり、名刺となる。そして《セト・アン》と水琴は、上空の敵に向かって名刺を投げた! 35



それに紛れ、明日香は疾走を開始した!再び軌道へと飛び乗り、上へ!「ギシッ」鎧人嚙の一体がそれを見咎め、明日香へと向かう。だが蒼い稲妻が迸り、それを押し留めた!「貴様の相手は我々だ」「……」4の人嚙は不満げに体を軋ませると散開。水琴らに襲い掛かった! 36



明日香は振り返ることなく走り続ける。自分を助けてくれた者たちはもういない。だが、もはや彼女の胸に孤独な風は吹いていなかった。やっと見つけた自分だけの意志。自分の魂の在処。そこへと収まった魂が暗闇の中に星めいて光っている。ただ、そこに向かって走り続ければよい。 37



弱き者を踏み躙って省みず、己の都合で弄ぶ者に怒りを叩き付ける。それが明日香の意志であった。何たる傲慢。だが、それでいい。それでもいい。だとしても、貫き通す。それを教えてくれた者がいた。助けてくれた者がいた。絶対に、貫徹する! 38



その瞬間、都市が砕けた。遥か下方から何かが上り、天へと昇って行った。「あれは…!」明日香は、確かにそのシルエットを見た。傷つき、しかし折れぬ意志を秘めた鴉のビジョン。師、ディーサイドクロウのNEWO≪ネオ≫だ。それが都市に風穴を開けた。「班長…感謝します!」明日香は跳躍した。 39



その足元に光の階段が生まれた。ダイヤモンドダストめいた氷の粒であった。明日香はそれを蹴り跳び、ディーサイドクロウが拓いた道を瞬く間に駆け上がってゆく。闇に閉ざされた空は、再び泣き出していた。 40



ニッポンの雨は、万物の構成要素であるイデアを生命より奪う。明日香は懐よりIリンガーを取り出し、首筋に注射した。これで短時間であらば雨天下での生残は元より、異能の行使も可能だ。「ふッ!」明日香は地表に飛び出すと、止まらずに走る。遥か頭上には、相争い激突する鴉と八つ首の龍がいた。 41



ナゴヤ電波塔は、異様な肉で覆われ切っていた。それは人嚙が絡み合ったものだと、明日香は見抜いた。それら表面には所狭しと人の顔が浮かび、血の涙を流している。人嚙は顔を失う。にも拘わらず浮かぶそれは、犠牲者の無念であろうか。 42



明日香は再びダイヤモンドダストめいた氷の階段を作り出し、駆け上がった。音楽が聞こえる。二億四千万の呪いを音にしたかのような、荘厳で、しかし狂気的なメロディであった。明日香は回転跳躍し、ナゴヤ電波塔展望台上部に着地した。 43



明日香に背を向け、肉のオルガンに指を叩き付ける男あり。旋律と裏腹の決断的な運指によって弾かれるそれは、彼の周囲に独特の、異界めいた色彩を生み出していた。「初めまして」男は言葉によって襲い掛からんとする明日香を制した。「背を向けたまま失礼するよ。私は浜口 侑斗。天秤探偵社社長」 44



「(株)ハイドアンドシーク諜報部13班、監査官代理・篠田 明日香」「明日に香る…いい名だ」侑斗は微かに笑みを零した。「金持ちの道楽じみている…と言うか実際そうなんだが、私は花が好きでね。特に鳳仙花…知っているかな?破裂して種を撒き散らす花なんだが」「……」 45



「なんともいじましいじゃあないか。最期の最期、報われぬ者が派手に死に花を咲かせようとするかのようで。だがね…」旋律に悲哀が乗った。「全てのサイクルは、弱者を挽き潰して動くようになっている。鳳仙花のようにしか、弱者は生きられぬ時代だ。実に悲しいことだと思わんかね」 46



「それを終わらせることが目的…とでも?」「ああ」「話になりませんね」痛々しく頷く侑斗を、明日香は切って捨てた。「残酷と立ち向かうべく残酷になるなど。貴殿の全ては矛盾でしかない」「飲み下さねば、越えられん夜もある。それを秤に掛けただけさ」侑斗は演奏をやめ、立ち上がった。 47



オルガンは一人手に動き続けていた。侑斗はそれを指揮するかのように、手を振り翳した。すると、電波塔を覆う肉が盛り上がり、蠢き、のたくり、二人を覆う天蓋となった。侑斗はそのままに名刺を取り出し、構えた。それには彼のコードネームが記されていた。血風劇場≪グランギニョール≫と。 48



明日香は、応じるように名刺を抜いた。次の瞬間、名刺は互いの手の内にあった。名刺交換、成る!「ふッ!」明日香は名刺をしまうと同時に手袋より拳銃を抜き、銃爪を引いた!吐き出される氷はしかし中空に氷柱として咲き、止まる!明日香は刀を抜き、走る! 49



「ふッ!」KRAAAASH!宙に咲いた氷を砕き、礫としながら、乗じて血風劇場の首を狙う!だが瞬間、第六感が叫んだ!「ふッ!」斬撃を下向け、地を切り裂く。その反動のままに連続バク転を打ち、距離を取った。「ほう、見えるのかい」血風劇場は手を握り締めた。中空に張り巡らされた斬糸が揺れた。 50



「並の戦士であれば、あのまま私の罠に掛かってお陀仏だっただろうね。認めよう。君は強者だ」血風劇場の意識が張り詰めた。空気が薄く、鋭く尖り、明日香の神経を鑢に掛ける。「君はコードネームを持たないのか」その中で、血風劇場は明日香の名刺を見た。「名乗るがいい。君自身の戦闘者の名を」 51



「…!」明日香は目を細めた。コードネームを持たぬ者へその名乗りを求めることは、その者の実力を認め、そして自分の全てを懸けての激突を約束し、また求めるという何よりも神聖な行いである。どのような者であろうとも決して侵してはならない、絶対のライン。覚悟。「私は…」目を閉じる明日香。 52



脳裡を過行く様々な過去。自分のルーツ。斗う理由。見てきた悲劇。それらを超え、尚立つ自分。手の中には確かなものがあった。ツクバのセト・アンより賜った武器。『GUREN MACHINA』と刻印されたそれらは、自分たちの斗いが無駄ではなかった証。明日香は刀を指でなぞり、青眼に構えた。 53



「……私は、グレンマキナー」 54






(つづく)

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