【プライド・フロム・マシン】#5  前編

…「!」デッドラインカットの第六感が悲鳴を上げた!「しッ!」跳躍し、タカアシガニロボットの体を駆け上がり、さらに跳躍!高みから地を見下ろす。「…!」工場跡が凍り付く。立ち上る黒が呑まれ、氷の柱となって屹立する。「PIGAGAGAGAAAAGH!」タカアシガニロボットが氷から逃れた。 0



氷の獄を突き破り、何かが飛び出した。それは氷の鴉めいた面を被り、円い瞳を爛々と輝かせている。氷の鉤爪は鋭く空を裂き、揺らめく氷の尾は、獲物を求める龍の舌めいていた。長く艶やかな髪を振り乱し、それは……篠田 明日香は、戦場を睥睨した。 0






探偵粛清アスカ

【プライド・フロム・マシン】#5  前編






氷を踏んで降り立つ獣を見、デッドラインカットは苦々しげに目を細めた。「篠田…」その声に反応したか、明日香だった獣は、傖儜な視線をデッドラインカットに向ける。彼女の瞳に理性の光はなく、無軌道な憎悪と怒りのみが発散されていた。 1



屋内で何があった?問おうにも、彼女は答えるまい。確実なのは、篠田 明日香が内なる鬼に呑まれた。それだけだ。そしてその責任の一端は、自分にもあるのかも知れない。あれ以外、彼女を救う道は無かったとは言え。「誰が撒いた種にせよ」デッドラインカットは着地し、構えた。「刈らせて貰うぞ」 2



「PIGAGAGAGAAAAGH!」戦端を開いたのは巨大機械であった!両の腕が高みより振り下ろされ、凍てついた工場に叩き付けられる!KRA-TOOOOM!砕け散る工場!巨大機械の超絶質量滅殺攻撃が凍り、剛性を失った建造物を破壊するのは余りにも容易い…!「ぐう…!」巻き上げられるデッドラインカット! 3



瓦礫を蹴り渡り、氷の獣がデッドラインカットを襲った!「GROWL!」デッドラインカットは振り下ろされた鉤爪を空中で弾き、勢い後ろ回し蹴りを放つ。「しッ!」熱を伴うほどの速度を持ったこれを、獣は上に逸らすように捌くと、体の下から氷の尾を跳ね上げ急襲!「GROWL!」 4



「しッ!」だがデッドラインカットは、もう一度後ろ回し蹴り放っていた!「AAAAGH!」速い!蹴りは氷の尾よりも先に敵を穿ち、獣はくの字に折れ曲がり吹き飛ぶ!「しッ!」その腹にデッドラインカットから伸びた赤が絡みついた。「しィィィやァァァッ!」蹴りの速度でデッドラインカットは回る! 5



SMAAAASH!獣ハンマーは巨大機械に叩き付けられた!「PIGAGAGAGAAAAGH!」よろめく機械は胴部にクレーターが穿たれ、そこを中心に凍り始めている。「しッ!」血の刃が巻き上げられ、白く上る冷気を断ち割りながらデッドラインカットが突っ込む、だが!「PIGAGAGAGAAAAGH!」巨大な拳が赤を打った! 6



「うおおッ!?」蛇腹の剣を千切らんばかりに引っ張られ、デッドラインカットが浮いた!「GROWL!」そこに氷の獣が飛び掛かり、回天踵落としを見舞った!デッドラインカットは、それを…躱せない!「うぐあーッ!」デッドラインカットは流星めいて叩き落され、凍てついたアスファルトにバウンドした! 7



「GROWL!」「しッ!」デッドラインカットは介錯の一撃を跳ね起きながら躱すと、連続バク転で距離を取った。息を吐き刀を構え直す。((…))デッドラインカットは訝るように目を細めた。獣と巨大機械は何もせず、自分を見ていた。彼らの間に不可思議な合意が存在していた。強者より狩るべし、と…! 8



「PIGAGAGAGAAAAGH!」機械が吼え猛ると同時に獣が襲った!「しッ!」デッドラインカットはXに裂くように振り下ろされた爪をいなし、刀を振り上げ追撃の尾を断たんとす。「GROWL!」しかし獣はデッドラインカットを跳び超え、離れた!その時、側面から巨大質量が迫っていた!巨大機械の脚だ! 9



「しッ!」血刀が伸び、巨大機械の股関節に突き刺さった!「しィィィやァァァッ!」巻き上げられるデッドラインカット。彼は振り子めいて飛ぶと、機械の脚を軸に何度も回転し、刃を巻き付ける!「躾が足りんようだな!」「PIGAGAGAGAAAAGH!」SLAAAASH!刃が締まり、機械の脚を断った! 10



バランスを崩し、周辺建造物を破壊しながら機械が倒れ込む!粉塵が巻き上がり、凍り付いては煌めいて散る。それを掻き分けながら、羽音じみた音を立てる黒が溢れ出した。黒は互いに絡まり、断たれた脚を引き寄せんとしている。「やれやれ、キリがない…なッ!」上方より襲い来た獣を斬迎撃! 11



獣は腕を交差させてこれを防ぐ。だが、それを差し引いても手応えが浅い。反動で跳び退る獣を見、デッドラインカットは訝った。「腰が引けているな、貴様」獣は喉奥で唸った。その視線の先は、黒が絡み引っ張り合う巨大機械の脚…否、それを結ぶ黒そのもの。「…ほう」 12



デッドラインカットは口元を歪めた。「そうか。あれが怖いのか、貴様は」血刀がセグメント分割され、鞭となって地に垂れ落ちた。しかし束の間、デッドラインカットの腕より循環する血中イデアが励起し、その末端まで力が漲る!「ならばあの中で死ね!」鞭が連続で揮われ、大蛇じみて獣を襲った! 13



獣は連続側転でこれを躱し、そこから疾走を始める!凍り付いたアスファルトに深々と亀裂を刻む刃をジグザグに走りながら避け、デッドラインカットに肉薄。凍拳を叩き込む!「GROWL!」「しッ!」ドガッ!拳が衝突し、互いの肉が裂けた。血を噴水じみて吹き出しながら押し合い、相手を睨み付ける。 14



「しッ!」「GROWL!」逆手で繰り出された拳を、再び両者は激突させる。肉が裂けて血が噴き出し、巻き起こった風が飛沫をさらう。「しッ!」「GROWL!」さらに拳が繰り出され、かち合う!血が風にさらわれ消える。「しッ!」「GROWL!」拳がかち合う!更にまた!更にまた! 15



拳がぶつかる衝撃が速度に転化し、速度は衝撃と変わる。際限なく加速するパンチの軍拡戦争は臨界点を超え、絶無の領域に到達しようとしていた。最早、逃げることは不可能。臆した瞬間、致命が待ち受けるだろう…!「しッ!」「GROWL!」SMACK!「しッ!」「GROWL!」SMACK!「しッ!」「GROWL!」 16



「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」 17



「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」「しッ!」「GROWL!」 18



嵐のように吹き荒れる拳!どちらかの致命を以てのみ終止符を打たれるかに見えたそれは、余りにもあっけない終焉を迎える…!「PIGAGAGAGAAAAGH!」突如として飛来せし巨大質量残酷鏖滅拳!巨大機械が復元を終えたか!?だが二人は拳嵐より逃れること叶わず、迎え入れるしかない!「「グワーッ!」」 19



SMAAAASH!質量突撃を受け、獣とデッドラインカットは吹き飛んだ!「PIGAGAGAGAAAAGH!」勝ち誇ったように腕を上げた巨大機械は既に立ち上がっていた。機械は隻腕であり、もう一つの腕は…おお、何たることか…!黒を噴出しながら飛び回り、邪悪なるロケットパンチじみて踊っているではないか…! 20



否、腕だけではない。「PIGAGAGAGAAAAGH!」機械は勝鬨じみて咆哮すると、なんと関節で分解。黒を噴出し、二人を追って飛翔を始めた!バグの黒を撒き散らして地獄めいて往くそれは、さながら暗黒より来たりし悪夢を体現した巨大質量の終末審判、軍靴を鳴らして列なし歩む、その執行者であった…! 21



…「しィィィやァァァッ!」アスファルトの上を転がり、デッドラインカットは衝撃を逃がす。すんでのところでビルディングへの衝突圧滅死を免れた彼は、周辺を見渡した。立ち並ぶのは崩落し、痛々しく臓腑を晒したビル群。こんな所まで吹き飛ばされたのか。氷の獣は、篠田 明日香はどこだ? 22



「「「人間…殺ス…」」」ビルの中より身をもたげる殺人機械たち。その数は…3まで数え、デッドラインカットは考えるのをやめた。何億いようが鏖すのみ。血の蛇腹剣が再び結合し、刀となった。デッドラインカットは刀を肩に担ぐと、低く身を落とした。「さっさと掛かって来い」 23



「「「ピガーッ!」」」殺人機械が跳躍!デッドラインカットは殺人機械Aの下を潜り抜けながら縦両断殺!「ピガガーッ!」その刀を振り下ろし殺人機械Bを殺!「ピガガーッ!」そのまま刀で地面を打ち、反動で殺人機械Cの横薙ぎの斧を跳躍回避。殺人機械Cに足を落としストンプ殺!「ピガガーッ!」 24



そのまま跳躍、殺人機械の群れに飛び込む!「しィィィやァァァッ!」「「「「ピガガーッ!」」」」赤が旋風となって吹き荒れ、殺人機械の群れを斬り刻んだ!「貴様らと遊んでいる暇はない」結合する刀を構え直しながら、デッドラインカットは呟いた。凄まじい速度で迫る圧力を彼は感じ取っていた。 25



南より、ノイズに塗れ赤み始めた空を背に迫る巨大質量あり。それは黒と爆炎を撒き散らし、来たる。…そう、爆炎。巨大機械だったものは爆撃をも行っていた。「いよいよ化物じみて来たか」デッドラインカットは目を細めた。あれを野放しにしては今後に影響が出る。ここで始末しなければならない。 26



「PIGAGAGAGAAAAGH!」怒号じみた咆哮が轟いた。万物を圧壊せんがばかりの凄まじきそれに、デッドラインカットは抗った。「PIGAGAGAGAAAAGH!」黒い塊が質量より投下!昆虫の卵じみたそれに莫大なエネルギーが満ちているのを、デッドラインカットは認識する。「しッ!」即断で離脱!KRA-TOOOOM! 27



1tものTNTが爆発したような爆風がデッドラインカットを襲った!「く…」臓腑をも引き千切らんばかりの衝撃に顔を歪める。「PIGAGAGAGAAAAGH!」狂ったように爆弾を落とす巨大機械。一、二撃なら耐えることもできよう。だがこの量は…!「しッ!」デッドラインカットは手近なビルを駆け上がり跳躍! 28



どの道、敵は叩かねばならない。ならばそれは最速であるべし!だがしかしデッドラインカットが跳躍した時、そこに巨大機械の構成質量は、頭部パーツのみであった。それ以外のパーツは離れ…「しまった…!」デッドラインカットは目を見開いた。戦に焦り、致命的な悪手を取ってしまったのだ! 29



瞬間、黒が彼を包み込んだ!それらはデッドラインカットを侵すことなく、しかし物理的な力を以て圧し潰さんとする高重力の檻!「PIGAGAGAGAAAAGH!」黒が引き合い、質量を結合。再び巨大タカアシガニロボットとなり、その体内でデッドラインカットを磨り潰さんとす!「グワァァァァーッ!」 30



全身の筋肉を剛直させ、デッドラインカットは耐えた。しかし圧縮された黒と数百tの構造物の狭間では、指一本動かすことすら能わない。((クソッ))デッドラインカットは呻いた。((こんなところで、俺は…!))「PIGAGAGAGAAAAGH!」掛かる圧力が今一度、強まった。肉が爆ぜ、骨が潰れた。 31



((やっとの思いで火守に入社できたのに!カネを手に入れられたのに!やりたいことが山ほどあったのに…!))黒の中では、無念の叫びすら響かない。流れる筈の涙すら、圧し潰されて消えて行った。((死んで…たまるか…))原 宏樹の意識は闇の中に溶け始め…。 32



……そして彼は闇の先に、光を見た。 33






𝙰𝚂𝚄𝙺𝙰:𝙿𝚞𝚛𝚐𝚎 𝚝𝚑𝚎 𝙳𝚎𝚝𝚎𝚌𝚝𝚒𝚟𝚎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る