【プライド・フロム・マシン】 #3 後編
『5474N』のWi-Fiが一際強く名を輝かせていた。その電波強度…実にバリ80!「馬鹿な…魔王級のWi-Fiだと!?どこにこんなバケモノが…」狼狽するタイムリープの下。床からの冷気に乗り、黒がパーティクルめいて舞い上がる。それは、殺人機械と全く同じものであった。 0
タイムリープは、少し前に見た邪悪なる滅裂殺巨大戮タカアシガニロボットめいた威容を想起した。構造物が変形したあれも黒をパーティクルじみて散らしており、殺人機械と同様の状態にあったと推測される。そして整備通路もまた、構造物だ。「まさか、整備通路全体が…『5474N』の胃袋の中かッ!」 0
探偵粛清アスカ
【プライド・フロム・マシン】 #3 後編
「ご明察だ、タイムリープくん」何処からか声が投げ掛けられた。瞬間、床がベルトコンベアめいて動き出した。その向かう先、壁が挽潰滅殺歯車じみて回転を始める。タイムリープを潰し、滅さんと!「クソッ!」タイムリープは跳躍。扉の蝶番に銃を向け、銃爪を引いた。 1
SMASH!蹴破った扉をボード代わりに廊下を滑る…そう、滑る。配管、恐らく水道からは水が漏れ出し、床に溜まって凍っていた。「おいおい、この1分で何があった…」タイムリープは敵の規模を推察する。『5474N』と…他に何か、いるのだろうか?規模も戦力もわからぬ以上、三十六計が最上であろうが。 2
「「「人類!完殺!」」」殺人機械群がタイムリープを挟撃!「せいッ!」タイムリープは扉ボードで前方機械を轢き潰し強引突破!「「ピガガーッ!」」KBAM!その瞬間、前方で水道管破裂!「せいッ!」うねくり立ち上がった水をすり抜け、滑走を続ける。 3
水の柱が天井で砕け、後続殺人機を飲み込むのを見ながら、タイムリープは理解した。『5474N』の能力は冷気だ。瞬時に極小範囲のみをマイナス数億度以下に冷却。周囲との温度・気圧差で突風を生み、水を操っていたのだ。極低温でフル装備の企業戦士は容易くは殺せぬ。だが水圧、或いは氷の刃ならば。 4
「だとすると気に食わねえな」タイムリープは独り言ちた。先にボトルより現れた氷の龍あればこそ、気付くことができた。真意は不明だが、謂わば事前にヒントを与えられた形である。加え、自分の始末を目標とするには、あまりにも攻勢がぬるい。「舐めてやがるのか、或いは試されてるのか…」 5
「思った通り、君はよい戦士だ」再び声が響く。『5474N』だ。「戦に優れ、聡く、躊躇がない」「…」「ああ。素晴らしい戦士だよ」「なら俺をあんたの仲間にしてくれンかね」「まさか。僕が人間なんかを…おっと。情報を集めようとしているな」声のあるじは、おどけたように言うと、口を噤んだ。 6
ガゴン!向かう先、天井が降り来たる。「チイーッ!」タイムリープは扉ボードを飛び降り、左手で配管を掴んで制動した。冷えた鋼が掌に貼り付き、その皮を引き剥がす。赤く染まる配管の先で、扉だったものが天井に潰され、消えた。「人類!完殺!」息を吐くタイムリープの後ろから迫る殺人機械! 7
「ああクソ…最近ツイてねえなッ」タイムリープの左手は、既に血が凍り付いていた。荒々しく壁を叩いて血の氷を落とす。再び赤を流し始めた手で、拳銃を抜き取った。続々と走り来る殺人機械に、その銃口を向ける。咆哮と共に火が吹き、戦端が開かれた! 8
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ノイズに塗れた病んだ空の下、二機の警備機械が、二人の少女を伴って歩く。瓦礫の隙間を縫い、裂けたアスファルトを迂回し、周囲を確認しながら、少しずつ。おお、見よ。少女の一人、緑の瞳と尾を引く流星のような銀髪。そして彼女が微弱に放つWi-Fiを。機械らは《ルシファー》を連れていた。 9
「覚えにくいわ」《ルシファー》は二機を流し見た。「何で二機して製造番号しか呼び名がないのよ。そんなんじゃ読者はあなたたちを覚えてくれないわよ」「君は我々に何を期待しているんだ」「と言うか読者って何?」肩を落とす機械たちに、《ルシファー》は呆れるように鼻を鳴らした。 10
「そんな風に機械機械してるから、この子も何も話さなかったんじゃない?」「そういうわけじゃ…」「僕ら機械なんだけど」「些末な事よ」少女と28-10551を無視し、言い切る《ルシファー》。それから28-10773を指差し「貴方はココイ」28-10551を指差し「貴方はナナミ」「?」「愛称。可愛いでしょ」 11
「私がココイなのか?」28-10773が表情ディスプレイを訝し気に点滅させた。「紛らわしくないか」「ねー!僕、551なのにナナミ?」「え?」目を瞬かせる《ルシファー》。二つの機械を見比べた後、腕を組んで頬を膨らませた。「覚えにくいわ」「ならばこれを機に覚えるといい。私が、ナナミだ」 12
28-10773…ナナミは自分を指し示した。「で、もう片方の僕がココイね」「だ、そうよ」「いや、私に言われても…」困惑する少女。だが彼女は小さく息を吐き、僅かに顔を綻ばせた。「…そうね」「お?」28-10551…ココイが表情ディスプレイに笑みを浮かべる。「どしたのどしたの」「うるっさい!」 13
「静かに!」《ルシファー》がじゃれ合おうとしていた機械と少女を諌めた。彼女の視線は厳しく、前方を見つめている。「どうした?」「兵«つわもの»がいる」「!」彼女の言葉に即時臨戦する機械たち。「いえ、すぐ近くじゃないわ…あそこ」《ルシファー》が示したのは目的地、ツクバ中央病院だ。 14
病院は積み上がった瓦礫の先にあり、視認することはできない。ココイやナナミの動体センサーも範囲外だ。「見えるのか?」「いえ。けど、刺々しい雰囲気があったわ」《ルシファー》は目を細めた。「私はここで待つ。あなたたちだけで行きなさい」「え?」「敵対可能性は少しでも下げるべきよ」 15
「ふむ…」「何?」「いや、何と言うかさ…」ココイが考え込んだ。「マルファクターからそんな言葉が出てくると思わなくてさ」「力だけじゃ、ありつけない野菜炒めだってあるのよ」「それはそうだろう」ナナミが同調した。「失礼だぞ、ココイ」「ゴメンゴメン」ココイは笑い、少女に帯同を促した。 16
機械たちを見送り、《ルシファー》は嘆息した。痛いまでに凍てついた視線。ツクバ中央病院に、こんな禍物を持ち込む訳にはいかない。「覗き見とはいい趣味ね」「…」瓦礫を飛び越え黒い機械の犬が現れる。黒をパーティクルじみて散らすそれは、赤いエネルギーラインを不満げに体に走らせる。 17
「縺ゥ縺?>縺?「ィ縺ョ蜷ケ縺榊屓縺励□?」「私はあなたのように、誰かの飼い犬になるつもりはないわ」「縺雁燕縺ッ縲翫そ繝医?繧「繝ウ縲九→蜷後§窶ヲ縺?d縲√◎繧御サ・荳翫?逞帙∩繧呈戟縺、縲ゅ□縺ョ縺ォ縲∫炊隗」縺ァ縺阪s」「折角元気になれたのに、復讐なんて時間の無駄。それだけ」 18
《ルシファー》は肩を竦めた。「それで?用がないなら消えて」「縺昴≧縺吶k縺ィ縺励h縺??よ凾髢薙?辟。鬧?〒縺ゅm縺?%縺ィ縺後o縺九▲縺溘@縺ェ」「あら、聞き分けがいいのね」犬は背を向け歩き出し…すぐに止まり、肩越しに何かを言う。「縺?縺後?∬ヲ壹∴縺ヲ縺翫¢」「…?」 19
「雋エ讒倥?縲翫そ繝医?繧「繝ウ縲九°繧蛾??l繧峨l繧薙?ゅ>縺壹l菫コ縺ョ繧医≧縺ォ窶ヲ蜷ヲ縲√◎繧後h繧翫b縺」縺ィ螻郁セア逧?↓騾吶>縺、縺上?繧九→縺?≧縺薙→繧偵↑」「好きに言いなさいよ」「縺昴≧縺」犬は、ニヤリと笑った。 20
その瞬間、《ルシファー》の心臓が強く脈打った。失くなった筈の痛み、否、もっと強い、胸の中で鋼の翼が羽撃くような痛みが《ルシファー》を苛む。「あが、ひゅ、…!」胸を押さえ倒れ込む《ルシファー》。痛みが肺を絞り、空気を押し潰す。のたうち藻掻く《ルシファー》に、犬は見向きもしない。 21
《ルシファー》は腕を伸ばし、アスファルトを掻いた。爪が剥がれ、指が抉れ、それでも地を掻き続ける。痛みを紛らわす為の痛みか。或いは藁を求める肉体の本能的反応か。それを考える余地は、彼女に残っていない。痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛── 22
…指から流れる血で全身を朱に染めた己を《ルシファー》が認識した時、既に黒い犬の姿はなかった。数分か。或いは数時間か。数日か、数年か。どれだけの時間が経ったかはわからない。《ルシファー》は身を起こし、膝を抱えた。まだ、自分は、世界にいる。赤く染まった体は、温かかった。 23
自分は、かつてのようにはなれない。恐ろしい。死にたくない。振り捨てた筈の感情が蘇る。機械の心臓が、チクタクと無関心な音を刻む。裏腹、血は指先から流れ落ち続けた。《ルシファー》は、自分が涙を流していることに、そのとき初めて気付いた。 24
「人間…殺ス…」瓦礫の陰より多数の殺人機械が姿を見せた。「!」《ルシファー》は血濡れた顔を拭い臨戦する。だが、その瞬間。《ルシファー》の脳裡を、ある考えが過ぎった。次いで二機の警備機械と、未だ名も知らぬ少女の顔。しかしそれも、思考の火花に燃え、消えていった。 25
自分自身を救う為、何かを捨てる覚悟はあるか?『忍魔戦士ジライヤ』でアシュラ大名が風丸に投げ掛けた問が、まざまざと蘇る。「私、私、は…」《ルシファー》はよろめいた。自分には、覚悟はあるのか。殺人機械が、アックスを振り上げた。 26
「…………ごめんなさい…………」 27
…「どうしたことだ」ツクバ中央病院を見、ナナミは唸った。病院を守るようにずらりと並ぶ企業戦士。社章が表すは(株)ハイドアンドシークの威力部門だ。彼らの前で、髪を刈り込んだ男が死体袋をバイクから降ろしている。熱源反応から見るに、中身は生きた人間…ただし腕がなく、顔面が抉れている。 28
ツクバ中央病院は、特に大きい避難所であった。ここであらば少女の親を探しやすいと判断、前進していたが、明らかに尋常の空気ではない。「ナナミ、これどうしたんだろう」「私に聞かれても困る。…が、あの男と袋を待っていた、そのように見えなくもない」「誰だ!」死体袋の男が叫んだ。 29
見合わせる二機。立ち振る舞いでわかる。彼は、自分たちより上の使い手だ。暴走体と判断されれば、確実に破壊されるだろう。「5秒以内に姿を見せろ。従わない場合、敵対の意思ありと見做し攻撃する」「どうする、ココイ!」「どうも何もないよ!」二機は少女の肩を持ち、瓦礫より姿を覗かせた。 30
「ロボット…!」「その子から離れろ!」企業戦士が凄んだ。死体袋の男は僅かに目を細めると、1歩だけ前に歩み出る。「我々は(株)ハイドアンドシーク。俺は代表の原 宏樹だ。貴様らの所属を明かせ」「…!」二機は顔を合わせると頷き、ナナミが歩み出た。「我々はツクバ・ガーディアン…だった」 31
「殺人機械と堕してはいないと見受ける。過去形にする必要はないだろう」「感謝する。…我々はツクバ・ガーディアン。迷子の少女を発見し、その保護を優先して行動していた」「成程」宏樹は敬礼した。「事情は理解しました。その子は、こちらで保護しましょう」「感謝致します」ナナミは答礼した。 32
「…だってさ!これで安心だよ」ココイは少女の背を押した。しかし少女は動こうとせず、困ったようにココイを見上げる。「…どうしたの?」「宜しければ、貴殿らもこちらで脚を休めては如何ですか」宏樹が言った。「この街で、暴走していない機械は貴重です。是非とも話を伺いたい」 33
…通された応接室で、ココイとナナミは自分たちの道程を話した。メンテナンス工場での目覚め。少女との出会い。「そして《ルシファー》…か」腕組み考え込む宏樹。「迎えに部隊を寄越したのは早計だったか…」「しかし彼女は我々の友人だ」ナナミが身を乗り出す。「ここに来る権利はある筈だ」 34
「それに関してはその通りです。マルファクターと言えど、望めば市民権は得られるのですから。だが、我々は彼女のことを知らない。ここの避難民たちはもっとだ」「それに関しては、我々が保障する」「今のツクバで機械の信用はないに等しい」「ではどうする。彼女だけ野晒しか」 35
「ウウム」宏樹は腕組み、考え込んだ。「ねえ、《ルシファー》はここに来られないの?」少女が不安げにナナミを見た。「いや、そんなことはない…筈だ。恐らく」ナナミは、宏樹の言葉を待った。彼からは、前向きに考えようという意思が感じられた。 36
ややあって、宏樹は口を開いた。「…私と、今ここで治療を受けている同僚の仕事は、ここの病院を守ることではありません。探偵の粛清です」「…」「同僚の治療が済み次第、部隊を駐屯させてここを発つ。《ルシファー》殿には、探偵の粛清を手伝って頂きたい」「…!」ナナミは顔を輝かせた。 37
KRA-TOOOOM!応接室の壁が破壊したのは、その瞬間であった!「「「「人類!完殺!」」」」波濤となって押し寄せる殺人機械!「きゃああああッ!」叫ぶ少女の前にナナミが立ちはだかった。「SMASH!」「ピガガーッ!」牙を届かせんとしていた機械を、斧の一撃で薙ぎ払う。「ココイ!」「OK!」 38
ココイは壁に開いた穴に突進!そこでは既に宏樹がナイフを揮っている!「SMASH!」「ピガガーッ!」宏樹の討ち漏らしを破壊した後、肩を並べた。「援護する!」「承知」宏樹はカランビットナイフをくるりと回すと、機械の群れに切り込んだ。「しッ!」「「「「「ピガガガガーッ!」」」」」 39
色つきの風が抜け、銀色が縦横無尽に光る度、機械が分かたれて死ぬ。ココイはその光景をぼんやりと見つめた。「うっそーん…彼、強すぎない?鼻毛ずっと出てたのに」「「「「「「「「ピガガガガガガガーッ!」」」」」」」」「負けてらんない!」ココイは斧を振り上げ、殺人機械群れに飛び込む! 40
ZGOM!応接室の扉が吹き飛び、そこより多数の機械が参戦!「既に建物内に入り込んでいたのか…!」「ピガガーッ!」ナナミの縮地からの切り上げで先頭機械が死!続く斬り下ろしで後続機械が死!「ピガガーッ!」対処は容易。ナナミは冷静に、機械を斬り捌き続け…だが!「な…」斧が止まる。 41
「「「AAAAGH!」」」続けて入り来たのは、人間であった。目や口、銃創などの体の穴から、黒をパーティクルじみて散らす人間であった!「うおおおッ!」「「「AAAAGH!」」」蹴り飛ばされ倒れ込む人間たち。「まさかこの、バグ、は……人間にも……『感染』、するのか……!」 42
動揺するナナミ。動揺は攻撃のリズムを狂わせる。狂った楽譜は狂った音楽を生み出すように、それは必然的な結末を迎える…!「AAAAGH!」バグ人間の1体がナナミの斧をすり抜け、その爪を届かせた。「ピガガーッ!?」振り下ろさんとしていた斧がよろめく。そこにバグ人間が殺到した! 43
「「「AAAAGH!」」」「ピガガガガガガーッ!」何度と殴りつけられるナナミ。装甲がヒビ割れ、黒が神経を侵す。「「「AAAAGH!」」」「ピガガガガガガーッ!」その度に湧き上がる、ある思い。何故、自分はこんな目にあっているのに、あの少女は見ているだけなのか?それは、憎悪であった。 44
ああ。少女が何かを言っている。どうせ口汚く罵っているのだろう。貴様ら人間が機械を陰でどう思っているかは知っている。くそ。くそくそくそ。いつか目に物を見せてくれる…!ナナミの中にWi-Fiが流れ込んでくる。そのWi-Fiの名は『5474N』……ではなく、『LUCIFER』。 45
((《ルシファー》だと!?))ナナミは群がる人間を弾き飛ばした!「SMASH!」腕部機関銃を引き抜き、バグ人間を鏖殺!「「「AAAAGH!」」」黒を撒き散らしながら彼らが動きを止めた時、室内に静寂が訪れた。「ナナミ!大丈夫!?ナナミ…!」少女が駆け寄り、ヒビ割れたナナミの装甲を撫でた。 46
「ああ…大丈夫だ。君こそ怪我はないか」ナナミは少女を撫でようとし、その手を止めた。自分はさっきまで、何を考えていた?この少女を…憎い、だと?「ねえナナミ、本当に大丈夫…?」「身体スキャニングをしていたから、少し反応が鈍っていた。だが問題なしだ。心配を掛けたよ」 47
ナナミは少女の頭を撫でた。「おっ?何かすごい仲良くなってるじゃーん」アックスを担いだココイが戻り来る。「ココイ!あんまりナナミから離れないでよ。私を守るために、すぐ無茶するんだ」「えっ!?ウッソ、この冷血ナナミが!?」「我々に血など流れていないだろう」嘆息するナナミ。 48
「失礼する」宏樹が横から歩み寄ってきた。「今の戦斗で、駐留戦力の半数が死亡した。
もはやここに避難民の面倒を見る余裕はない。当然、貴殿らもだ」「では、どうすると?」「生存チームを複数に分け、各避難所へと移動してもらう。俺はどのチームにも同行できないが…」「そう、ですか…」 49
「ナナミ殿、貴殿らは?」「我々は…」ナナミはやや俯いた。先程に見た、『5474N』とは異なる『LUCIFER』のWi-Fi。彼女は何をしている?この襲撃に、彼女は絡んでいるのか?確かめねばならない。「我々は、再び《ルシファー》と合流し、共に別の避難所を探します」「そうですか」 50
宏樹は手を差し出した。ナナミは、その手を取った。「幸運を祈ります」「貴殿らの道が明るからんことを」 51
…ツクバ中央病院を後にし、合流地点まで戻った彼らを迎えるものは、何もなかった。「《ルシファー》…?ねえ、《ルシファー》!」少女が叫ぶ。しかし返ってくるのは、静寂のみであった。「…《ルシファー》…」少女は膝を突く。地面に、ぽつりぽつりと、雫の跡が生まれた。 52
「…ねえ、」「わかっている」ココイの言葉を、ナナミは遮った。「わかっているとも」「…そっか」ココイは頷いた。「相棒を信じるよ」「ありがとう」「《ルシファー》ちゃん見つけて、この子も守ろうよ。二人でさ」「ああ」「これからもよろしく」「こちらこそ、よろしく」 53
二機は、少女が泣くのを、ただ、見守り続けた。 54
(つづく)
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