監禁生活25日目 サバゲーセンデート





 紫希ちゃんの案内によって、俺は意図せずとも船内の施設を把握することができた。


 正直な感想を言おう。



「この船、すっげー」



 何が凄いって、施設が凄い。


 カジノ、映画館、劇場、レストラン、プール、ゲームセンター等々。


 施設を見て回るだけでも一日を使ってしまった。


 ちなみに、それらの施設を管理しているスタッフは全員黒服の人だった。

 神龍司家の屋敷から逃げ出した俺を捕まえた黒服の人も探せばいるのかも知れない。


 ざっと数百人くらいの監視の目があると思った方が良いだろう。



「空澄にぃ」


「ん? 藍奈ちゃ――藍奈ちゃん!?」



 甲板でこれからのことを考えていると、知っている声が聞こえてきたので俺は思わず振り向いた。


 そして、自分の目を疑う。


 何故なら藍奈ちゃんは、『ヤ』で始まって『ザ』で終わり、間に『ク』が入る人々みたいなサングラスをかけて両手にマシンガンを持っていたからだ。


 しかも煙草まで口に咥えて……って、あれは普通のじゃが◯こか。


 とにもかくにも、俺の知っている藍奈ちゃんとはまるで違う藍奈ちゃんが、そこには立っていた。



「覚悟ぉ!!」


「うお!?」



 以前、葵衣ちゃんが拳銃をぶっ放していたのを思い出して一瞬背筋が凍ったが、どうやら本物のマシンガンではないらしい。



「ちょ、こら!! 人に向けてエアガン撃っちゃ駄目!!」


「ガスガンだもん!!」



 大量のBB弾が俺に向かって飛んでくる。


 痛っ、ちょ、痛い!!


 少し藍奈ちゃんとは距離があるので大した怪我はしないかも知れないが、それでも肌が露出している部分に当たるとすごく痛い。



「空澄にぃ!! あたしは今、怒っている!!」


「うぇ!? な、なんで!?」


「あたしとデートするって約束したのに、逃げようとしたでしょ!!」


「あっ」



 あ、だから怒ってるんだ……。



「空澄にぃの馬鹿!! アホ!! ヘタレ!! 短小!! 包茎!!」


「ちょ!! 女の子がそういうこと言っちゃいけません!!」



 それに俺は平均的なサイズだ!!



「うっさい馬鹿ぁ!!」


「うわあ!!」



 絶え間ない弾幕のせいで藍奈ちゃんに近づけず、俺は甲板から逃げ出す。


 唐突に始まった鬼ごっこ。


 俺が障害物の多い船上ゲームセンターに逃げ込むと、藍奈ちゃんも俺を追って中に入ってきた。



「藍奈ちゃん!! い、一旦落ち着こう!!」


「やだ!!」



 物陰から対話を求めるが、藍奈ちゃんは瞬く間に俺を捉えて、躊躇無く引き金を引く。


 流石は藍奈ちゃん。

 サバイバルゲーム、ゲームと名のつくものは圧倒的に強い。


 逃げてるだけじゃジリ貧待ったナシである。



「はぁ、はぁ、はぁ」



 どうしたもんか。


 これに限っては約束しておいて逃げた俺が悪いし、せめて一言謝りたいんだが……。



「空澄にぃ!! どこに隠れてるの!!」



 近づいたら蜂の巣である。


 藍奈ちゃんの怒りが収まるまで逃げ続ける?


 有りっちゃ有りだろうけど、それは火に油を注ぐだけのような気がする。


 こうなったら、腹を括るしかない。



「藍奈ちゃん!!」


「っ!!」



 俺が突進してくるのは想定外だったのだろう。


 藍奈ちゃんは驚いた様子で俺にマシンガンの銃口を向けてくる。


 しかし、俺はシャツを脱いで盾代わりにしていた。

 多少の痛みは無視して、藍奈ちゃんに突っ込む。


 そして、俺は藍奈ちゃんの前で急停止。



「ごめんッ!!!!」



 逃げようとする藍奈ちゃんを抱きしめて、俺は謝罪の言葉を口にした。



「約束破って、ごめんね」



 もう一度、言葉を区切って謝る。



「……」



 藍奈ちゃんは何も言わない。


 怒りで何も言えないのか、あるいは何を言おうか考えているのか。


 それは俺には分からないが、藍奈ちゃんはゲームセンターのあるものを指さした。



「……あれ、取って」


「ん?」



 藍奈ちゃんが指さしたのは、どこにでもあるようなクレーンゲームだった。


 中には景品として大きなぬいぐるみが入っている。



「あれ取ってくれたら、許したげる」



 これは、絶対に取らなくちゃいけないな。



「分かった。これでもクレーンゲームは得意なんだ」


「……本当に?」



 藍奈ちゃんが疑いの目を向けてくる。


 しかし、本当だ。

 自慢じゃないが、前にアニメのフィギュアを一発でゲットしたことがある。


 余裕、とまでは言わないが、難しくはない!!


 俺はそう息巻いて、クレーンゲームの景品を取ろうとコインを投入したのだが……。



「ぷっ、空澄にぃのザーコ♪ こんな簡単な配置の景品も取れないとかウケるんですけど♪」


「ぐぬぬぬ!! 今度こそ!!」



 結果は惨敗であった。ちっとも取れない。


 その後、言われるがまま景品を取り続けていると、藍奈ちゃんの機嫌はいつの間にか直っていた。


 良かった。これで一安心だ。



「あたしが空澄にぃにお手本見せてあげる♪」


「ちょ、ええ!? 一発で!? すっご!!」



 すっかり調子を取り戻した藍奈ちゃんが無双して、その日は終わった。

 それがまるでデートみたいな時間だったと気付いたのは、一日が終わってからだった。










「藍奈、人に向けてエアガンを撃っちゃ駄目です」


「……ガスガンだもん」


「ガスガンも駄目です。掃除が大変ですし、目に当たりでもしたら大怪我します」


「ま、まあまあ、葵衣ちゃん。元はと言えば俺が悪いんだし――」


「お兄さんは黙っていてください」


「あ、はい」



 その後、俺と藍奈ちゃんは葵衣ちゃんからお説教をくらうのであった。


 皆は人に向けてエアガン撃っちゃ駄目だぞ!!





――――――――――――――――――――――

あとがき

★1000達成、ありがとうございます!!


PV30万達成、ありがとうございます!!


これからもご愛読、よろしくお願いいたします!!

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