監禁生活23日目 失敗、そして難易度アップ
子供化を治す薬を一気に飲み干す。
すぐに効果は無いのか、あまり変化は見られなかった。
しかし、これですべての準備が整った。
脱出作戦を決行する時間帯は、誰もが眠っている深夜。
俺はベッドの下にある扉から地下室へ向かい、そこから地道に掘った穴を通る。
やがて神龍司家の屋敷の庭に出て、出入り口となる門へと移動した。
そして、昨日橙華さんから受け取ったラバー製の手袋とブーツを装備して、軽く扉に触れる。
「お、おお、行ける!! 行けるぞ!!」
俺は肌が扉に触れないよう細心の注意を払いながら登り切り、地面に飛び降りる。
やった!! 脱出成功だ!!
と、思った次の瞬間。
――パシュッ。
という音と共にチクッとした痛みが俺の首に走った。
「え? な……にが……」
意識が朦朧とする。
俺は立つこともままならず、その場で倒れてしまった。
「こちらアルファワン。脱走した空澄様を確保しました」
『こちらベータワン。茜音様への報告はこちらでしておく』
あ、で、出た!! たまに出てくる黒服の人!!
黒スーツと深夜なのにサングラスをかけた、謎の黒服の人。
紫希ちゃんとの動物デートの時とか、車で移動する時に見たことがある。
「空澄様、失礼致します」
「ちょ、あの……み、見逃してくれたりは……」
「それをすると私の首が飛びますので。では」
黒服の人が俺を背負い、門の扉を開けて屋敷の中へ戻されてしまう。
その間、俺はピクリとも身体を動かせなかった。
多分、さっきのチクッとした痛みは某頭脳は大人な子供の探偵が使う麻酔銃みたいなものなのだろう。
身体が全く動かない。それどころか、意識が次第に暗闇へ沈む。
「ん……んぅ……ここ、は……? なんか、柔らかい……」
俺は柔らかいものに抱きつきながら、暗闇から意識を浮上させる。
「あんっ♡」
「……あん?」
重たい瞼を無理矢理持ち上げて、自分が今何に抱きついているのか確かめる。
「あらあら、うふふ♡ そんなにママの身体に抱きついてどうしたの?」
裸の茜音さんだった。
一糸まとわぬ、生まれたままの姿の茜音さんと、何故か同じベッドで寝ている。
似たような状況に何度か陥っているため、もう動揺することは無い。
無いが、やはり慣れるわけではない。
「……あ、す、すみません……」
俺は慌てて手を離そうとするが、身体が思うように動かせない。
まだ麻酔が効いているのだろうか。
「うふふ、空澄ちゃんったら♡ 逃げ出そうとしただけじゃなくてママの身体に抱きつくなんて♡ 悪い子ね♡ お仕置きしなきゃ♡」
「うおっ!?」
次の瞬間、俺は茜音さんに抱きしめられて、逃げられなくなってしまう。
茜音さんの大きな胸に頭を埋め、そのままガッチリとホールドされた。
こ、これは、逃げられない!!
「それにしても、まさか空澄ちゃんが脱走しようとしてたなんて思わなかったわ。ママ、ちょっぴりショックかも」
「そ、それは……」
俺が視線を逸らすと、茜音さんは「うふふ」と笑った。
「あっ、空澄ちゃんが使ってた庭の穴と地下室は埋め立てておくから安心してね?」
「……」
ま、まじかぁ!! あの穴、もう使えなくなるのかぁ!!
これでまた一からやり直し、か。
「でもあの屋敷、しばらく使えないわね。まさか家の地下全体に通路があるなんて……。空澄ちゃんが全部掘ったわけじゃないのよね?」
「あ、えっと、はい……」
俺は大人しく、全てを白状した。
すると、おそらく最初にあの地下室を作ったであろう茜音さんの父親に対し、茜音さんは頬を膨らませた。
「もう、パパったら……。まあ、空澄ちゃんと皆で離島暮らしできると思えば結果オーライなのだけれど」
「……え?」
今、茜音さんはなんて言った?
「あの、茜音さん? 離島って?」
「あら? 言ってなかった? ちょっと窓から外を見てみて?」
茜音さんがちょいちょいと指を動かして、俺を手招きする。
俺はその手招きに従い、部屋の窓から外の様子を窺った。
……海の上だった。
どうやら俺は豪華客船のような大きな船に乗せられ、どこかへ向かっているらしい。
「え? えっと、茜音さん?」
「今、うちが所有している離島に向かっているの。地図にも載ってない秘密の島よ」
「な、何故?」
「空澄ちゃんが逃げ出したりするからよ? 地下室を埋め立てるためにも、一回屋敷を丸ごと立て直すことになっちゃって。半年くらいはそこで暮らそうってことになったの。もちろん、皆賛成してくれたわ」
ま、まじですか。
「これから一週間かけて離島に行くの。うふふ、これでまた一緒に暮らせるわね」
まじですか!!
どうやら脱走に失敗したことでより難易度が高い脱走になってしまったらしい。
敢えて、もう一度言う。
ま・じ・で・す・かーッ!!!!
――――――――――――――――――――――
あとがき
新章突入
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