監禁生活22日目 ハイになる






「じゃーん!!」


「な、なんて格好してるんですか!!」


「どぉ? 今日のあーし、エッチでしょ」



 今日の俺当番は橙華さんだ。


 しかし、何故か橙華さんは割とガチで過激な格好をしていた。


 肌にピッチリと吸い付くような、艶のある材質の黒い服。

 いわゆるラバー質で、橙華さんのボディーラインが浮き出ている。


 問題はそのデザインだ。


 こう、上手く言えないが、女王様って感じのするデザインだった。


 胸を強調しており、へそや肩、太ももは丸出しだ。



「実はさー、新しくあーしのマネージャーになった女の子が間違って仕事が受けちゃったんだよねー」


「し、仕事、なんですか?」


「そ。でも一度受けた仕事断るのはなんかダサいじゃん? てわけで引き受けたんだー。あっ、言っとくけど現場は女の子だけだから安心してね?」


「べ、別に不安ではないですけど」


「えー? 本当? あすみん顔怖かったよー?」



 俺の頬をつんつんと突いてくる橙華さん。


 正直に言うと、橙華さんがこんなスケベな格好で知らない男の前に出ると想像したら、何故かモヤッとした。


 これは、嫉妬なのだろうか。



「つ・ま・りぃ♪」


「?」



 ソファーに座る俺に、橙華さんがそのままの格好で詰め寄ってきた。


 そして、俺と向かい合う形で俺の腰に座る。


 お、おお、橙華さんから甘い匂いが漂ってくる……。



「あーしのこの格好見れる男は、世界ではあすみんだーけ♪」


「っ、そ、そう、ですか」



 や、やばい。


 屋敷に監禁されてからずっと我慢してきたが、俺だって所詮は男だ。


 そんなこと言われたら、ナニがとは言わないけど反応してしまう。


 が、我慢だ。

 橙華さんが部屋を出て行くまで、ナニを我慢しなければ。


 一人になってしまえば、トイレに籠もってナニができる。

 今は耐えるべき時だ。



「あ♡ なんか硬いの当たってるんですけどぉ♪ 身体は子供になっても男の子なんだねぇ♪」


「こ、これは……」


「うーん。いつもならイチャイチャするとこだけどぉ、今日のあーしは女王様だから、ちょっと虐めたげる♪ あすみんは今日だけあーしの、ど・れ・い、ね♡」



 な、なんだ? たしかに橙華さんは普段から積極的だけど、今日はいつも以上だぞ!?



「んっしょ、っと」


「ちょ、な、なんで俺の服を脱がせるんですか!?」


「奴隷が女王様に口答えするの? これはお仕置きしなきゃ、ね♪」



 ぺろりと舌舐めずりする橙華さんを見て、俺はふとあることに気付く。


 この人、ハイになってる……?


 まさかとは思うが、女王様みたいな格好してるせいでテンションがおかしくなったのだろうか。


 ……有り得なくはなさそうだ。



「んぐっ」


「あはっ♪ 男の子のくせにぃ♪ 可愛い声出しちゃってぇ♪」



 橙華さんが自らの腰を動かして、俺の息子をぐりぐりと押し潰してくる。


 その上で、俺の胸板を細い指で撫で回してきた。


 こ、これは、いつもの橙華さんより遥かに攻撃力が高いぞ!!



「はい、そこまでです。橙華お姉さん」


「「!?」」



 そこで割って入ってきた人物が一人。葵衣ちゃんだった。


 その手にはやたらと近未来的な形状をした銃っぽいものが握られており、躊躇無く橙華さんに向かって引き金を引く。


 すると、ピカッと眩しく光った。


 え!? う、撃った!?



「ふぎゃ!? め、目がぁ!! あーしの目がぁ!!」


「と、橙華さん!?」


「うわーん、葵衣があーしのこといじめてくるんだけどぉー!! あすみん、慰めてー」


「え? あ、は、はい」



 俺は目を押さえながら呻く橙華さんの頭を軽く撫でる。



「えっと、大丈夫なの? その銃……」


「ただのレーザー銃です」


「大丈夫なの!?」


「アニメや漫画で見るような熱線ではなく、あくまで光による攻撃ですから。視力を一時的に奪う程度です。……網膜は焼けますが」


「大丈夫じゃないよね!?」


「……私特製の目薬でも差しておけば治ります」



 そ、そっか。それなら安心……。


 とはならないか。

 それにしても葵衣ちゃん、今日はどうしたんだろうか。


 妙に嫌そうというか、不機嫌というか。



「お兄さん、これ」



 そう言って葵衣ちゃんが俺に手渡してきたのは、試験管に入った謎の液体だった。


 虹色に光っていて、物凄く怪しい液体だ。



「これは?」


「お兄さんの子供化を治す薬です」


「え!?」



 もう完成したのか!! 流石は葵衣ちゃん!!


 くっくっくっ。

 これで脱出できるぞ!!


 あとはゴム手袋のような電気を通さないものさえあれば、あの扉を越えられるはず!!



「……お兄さん」


「ん? どうしたの?」


「……いえ、何でもないです。では」



 何か言いたげな葵衣ちゃんだったが、すぐに踵を返して部屋を出て行った。


 ……橙華さんを引きずりながら。



「ちょ、今日はあーしの当番なのにぃ!!」


「お兄さんと二人きりにしたら襲うじゃないですか。お兄さんの貞操を守るためです」


「ちょ、じゃあせめて!!」



 橙華さんが葵衣ちゃんから逃れ、身に付けていたラバー製の長手袋やブーツを俺に手渡してきた。



「これ、あーしだと思って使ってね? あ、仕事には予備の方持ってくから遠慮しないでいいよ?」


「いや、使うって何に……」


「あーしのことを想って、ナニに使って?」


「……」



 俺は内心で「その使い道があった」と納得してしまった。


 いやいや、俺は何を考えてんだ!!


 その次の瞬間――「バンッ!!」という銃声が響いた。


 え……?


 見れば、葵衣ちゃんが先程のレーザー銃ではなく、本物っぽい拳銃を握っていた。



「うぇ!? 葵衣!? ちょ、今の本物じゃ!?」


「うるさいです。早く行きますよ」


「な、なんか今日の葵衣、機嫌悪い? あーしなんかした?」


「……別に、何も」


「ええー!! 絶対になんか怒ってんじゃん!!」


「怒ってないです」



 二人が部屋からそそくさと出て行く。


 たしかに今日の葵衣ちゃん、機嫌が悪かったな。

 それにしても、本物の銃なんてどうやって入手したんだか……。



「……こんなラバー製の長手袋とブーツ、どうすれば……ん?」



 俺は橙華さんから受け取った長手袋とブーツを見ながら、ふとあることに気付く。



「ラバーって、電気通すのかな?」



 たしかラバーって、ゴムのことだと何かで見た気がする。


 これ、脱出できるんじゃ……?

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