監禁生活18日目 デートのお誘い



 紫希ちゃんとの動物園デートの翌日。



「や、やば!! ホントに空澄にぃが小さくなってる!!」


「あ、うん」



 今日は藍奈ちゃんの当番日。


 子供になった俺を藍奈ちゃんが見るのは、これが初めてだった。


 なんでも昨日までアメリカのeスポーツ大会に出場していたとか何とかで、見事に優勝を勝ち取ってきたらしい。


 しかし、その目はeスポーツ大会で優勝したことへの喜びではなく、新しい玩具をゲットしたことへの嬉しさが滲み出ていた


 うっ、これは何か企んでるぞ……。



「ねーねー♪ 空澄にぃ、今日はあたしの膝の上に座ってよ♪」


「え? いや、それは流石に……」


「良いから良いから♪」



 今の俺は小学校低学年くらいなため、藍奈ちゃんよりも小さい。


 なので、力ではどうしても勝てないのだ。


 俺は藍奈ちゃんの膝の上に座らされ、頭をナデナデされる。

 自分よりも歳下の女の子に子供扱いされてるのは微妙に悔しいのだが……。


 藍奈ちゃんのナデナデが心地良くて、膝の上で落ち着いてしまう。



「はっ!! だ、駄目だ、みをまかせたら駄目になる!!」



 俺はハッとして飛び退こうとするが、藍奈ちゃんが俺をギュッと抱きしめて逃さない。



「やっばぁ♪ 空澄にぃめっちゃカワイイ♪ よしよーし♪ あたしがお姉ちゃんだよー♪」


「ぐぬぬぬ、どうして神龍司姉妹は俺を弟扱いしたがるんだっ」


「それは空澄にぃ、だからかな? 知らない人が子供になっててもなんとも思わないし」



 そんなことを言いながら、やはり俺の頭を撫でる手を止めない藍奈ちゃん。


 しかし、ここで藍奈ちゃんから思いも依らぬ提案が。



「そうだ♪ 今の空澄にぃは子供だし、今日のゲーム勝負はハンデをあげる♪」


「……なんだって?」


「んー、そうだね、じゃああたしは指一本しか使えないってのは? もちろん、空澄にぃが勝ったら自由だよ」


「受けて立とう!!」



 自分から指一本なんてハンデを課すとは愚かな。


 俺は穴掘りの休憩がてら、隙を見ては藍奈ちゃんに勝てるようゲームの腕を鍛えている。


 つまり、今回こそは勝てる!!


 俺は藍奈ちゃんの膝に座ったままゲームのコントローラーを握り、集中力する。


 遊ぶゲームは前回同様に格闘ゲーだ。

 ゲームを起動し、キャラクターを選択してバトルが始まる。


 勝負は三回。

 先に相手キャラを二回ダウンさせた方が勝ちだ。



「よし!! いける!!」


「おー♪ 前より強くなってるっ」


「暇な時はずっとゲームしてたからね!! おりゃ!! てりゃ!!」



 コンボを連発し、藍奈ちゃんを追い詰める。


 藍奈ちゃんよ操るキャラクターのHPバーが少しずつ減り続け、やがて決着。



「よっしゃあ!! 初白星!!」


「あっちゃー♪ 負けちゃったー♪ じゃあ、これはご褒美♪」



 ちゅ。


 と、藍奈ちゃんの唇が俺の頬に触れる。



「……え?」



 俺は一瞬フリーズし、何が起こったのか理解できなかった。


 今、ほっぺにチューされたのか?


 な、なんか、めっちゃ恥ずかしいというか、少しビックリしたというか……。


 ていうか、藍奈ちゃんからめっちゃ良い匂いがして――



「って!! 俺は高校生だろ!! 小学生相手に何を考えてるんだぁ!!」


「じゃ、第二ラウンドだね♪ ファイ!!」


「あ、ちょ、ま!!」



 動揺する俺を差し置いて、第二ラウンドが始まってしまった。


 俺も慌ててコントローラーを握り、冷静を装いながら第二ラウンドに臨むが……。


 残念なことに、完敗してしまった。


 なんだよ藍奈ちゃんのあの指の動き!!

 たった一本の指しか使ってないのに速すぎて残像が見えたんだけど!!


 というか、もしかしなくても一回戦目は全然本気じゃなかった感じか?


 結構練習したから、少しへこむんだが。



「あっれー? 空澄にぃ、さっきの勢いはどうしたのー? 急に雑魚雑魚になっちゃったけど♪」


「い、いや、さっきのは藍奈ちゃんが急に……」


「んー? もしかしてぇ♪ 空澄にぃってば、あたしにほっぺにキスされて動揺しちゃったのぉ? カワイイー♪」


「ぐぬぬぬ!!」



 相変わらず煽るのが上手いな、藍奈ちゃんは!!



「……でも、ホントに強くなってて驚いたかも」


「え? そう?」


「うん。ちょっと嬉しい、かも」


「嬉しい? なんで?」


「そ、それは、さ……」



 俺が首を傾げると、藍奈ちゃんは自分の髪を指で弄りながら、少し恥ずかしそうに答えた。



「自分の好きなことに、好きな人が全力で付き合ってくれたら、嬉しいじゃん?」


「? そうなの?」


「そ、そうなの!! ほら、最終ラウンド行くよ、空澄にぃ!!」



 こうして、最終ラウンドが始まった。


 今度こそは勝ってみせる!!

 そう意気込む俺に対し、藍奈ちゃんが思い出したように口を開いた。



「そう言えばさ、空澄にぃ」


「ん?」


「昨日、紫希と動物園でデートしたってホント?」


「あ、うん。本当だよ」


「ふーん? どうだった? 楽しかった?」



 俺は藍奈ちゃんの問いに笑顔で頷く。



「うん、めっちゃ楽しかったよ。知らない動物とかめっちゃいて!! そうそう、紫希ちゃん凄い物知りでさ、俺が知らない動物の豆知識とか知ってて面白かったよ」


「……ふーん。そっか」



 次の瞬間、藍奈ちゃんの操るキャラクターが挙動を変えた。


 こちらの様子を窺いながらカウンターを狙う動きから、全力で俺のキャラクターを叩き潰すような、苛烈な動きへと。


 どうやら藍奈ちゃんが、急に本気を出し始めたらしい。



「うわ、ちょ、ま、待って!!」


「待つわけないじゃん♪」



 俺が操るキャラクターは一方的に殴られ続け、ものの数秒で倒れてしまう。


 最終ラウンドは、藍奈ちゃんの勝利。


 つまり、俺はまたしても藍奈ちゃんに敗北してしまったのだ。



「イェーイ、あたしの勝ち!! というわけで空澄にぃ、罰ゲームね!!」


「むぅ、急に本気出すなんて……って、罰ゲームなんて聞いてないよ!?」


「敗者は勝者に従うものだよ、空澄にぃ。というわけで、罰ゲームはあたしとお外でデート!!」



 え? デート?



「……もしかして、紫希ちゃんとデートした話を聞いて嫉妬したの?」


「ギクッ」


「藍奈ちゃんにも可愛いところがあるんだなぁ」


「ち、違うし!! あ、あたしは、ただ、空澄にぃと一緒にゲーセン巡りみたいたことしたいだけであって!!」



 ……それがデートしたい、ということなのでは?



「と、とにかく!! 近いうちにあたしとデートだからね!!」


「うん、分かった。楽しみにしてるね」


「っ、うん!!」



 俺は藍奈ちゃんのデートのお誘いに頷いた。









 その日の夜。



「っ、よっしゃ、トンネル開通!!」



 俺は無事に、地下の穴を神龍司家の屋敷の庭へ繋げることができたのであった。

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