監禁生活17日目 珍獣動物園
謎のXとの勝負はドローという結果に終わった。
まさか一緒に風呂に入っていた紫希ちゃんが黒幕とか、思うわけないじゃん。
でも俺がXを見抜き切れなかったのは事実。
大人しく穴掘りを進めて脱出を試みようと考えたが、ここで予想外の出来事に発展した。
なんと、共犯である黄鈴先輩を見つけ出したことで、短時間の外出が可能となったのだ。
まあ、正確には外出という名のデートだが。
それでも外へ出られることに変わりは無い。
上手く行けば、道行く人に助けを求めることができるかも知れないからね。
そう思って期待していたのだが……。
「見て見て、空澄お兄ちゃん!! ゾウさん!!」
「そうだね、ゾウさんだねー。あはは」
デート先は動物園。
病み上がりの俺には中々ハードだが、今日の俺当番である紫希ちゃんのチョイス。
子供に大人の都合は関係無いのだ。
まあ、大人って言っても高校生だし、今は子供なんだけどね。
それはそれとして。
動物園には、俺と紫希ちゃん以外に人の姿がなかった。
何故なら……。
「動物園を作るって何だよぉ!!」
そう、この動物園は今日が初開園。
俺と紫希ちゃんが外でデートするために、茜音さんが作った動物園。
しかも昨日の今日で、だ。
いや、もしかしたら、あらかじめ紫希ちゃんから計画のあらましを聞いていたのかも知れない。
そうじゃなきゃ、動物園なんて用意できないだろうしね。
なお、飼育員は全員神龍司家の息がかかっているらしく、助けを求めても意味は無さそうだった。
動物園までの移動にはリムジン? みたいな、とにかく長い車に乗せられて、護衛兼監視役と思わしき黒服の人たちに囲まれながらだった。
もうね、色々と凄すぎて怖いよ。蟻の子一匹逃げられないよ。
「あ、お兄ちゃんあれ!! ゴールデンライオンタマリンだよ!!」
「え? な、何? ライオン? どう見ても金色の猿だよ!?」
あとこの動物園、なんか珍しい動物が多い。
普通の動物もいるんだけど、聞いたこともないような名前の動物が何十匹もいるのだ。
そして、何故かそれらの動物の名前を知っている紫希ちゃん。
「あっ、あっちはソデグロヅル!!」
「ホントに聞いたこともない動物ばっかなんだけど……」
もしかしてそういう動物を集めた動物園なのか?
「おお、パンダまでいる」
「んーと、茜音お姉ちゃんが言うには『お隣の国の偉い人から貰った』って」
「あの人マジでとんでもないな!!」
いや、まあ、自分のことをママって呼ぶよう迫ってくること以外はまともな人だからな……。
果たしてそんな人間をまともと評して良いのか分からないが。
「……空澄お兄ちゃん」
「ん? どうしたの、紫希ちゃん」
「動物園、あんまり楽しくない?」
「え?」
不意に、紫希ちゃんが俯きがちに聞いてくる。
「えっと、なんで?」
「だって紫希、空澄お兄ちゃんのこと罠にかけたから、嫌われちゃったかなって……」
「……あはは。そんなことはないよ」
俺は笑顔を浮かべながら、紫希ちゃんと目を合わせる。
子供の身体だと、子供と目線の高さを合わせるのが楽で良いね。
「動物園に来たのは、多分幼稚園の遠足以来かなぁ。知らない動物も沢山いるし、すっごく楽しい」
「ホント?」
「俺が今まで嘘を言ったことある?」
「時々逃げようとして言ってる」
「それはノーカンで。まあ、紫希ちゃんとの勝負に負けちゃったのは悔しいけど……。それは俺の心情の問題だから。この動物園デートは、本当に楽しいよ」
「……えへへ。なら良かった!!」
にこっと笑う紫希ちゃん。
うんうん、やっぱり子供は笑顔が一番よく似合うよな。
「空澄お兄ちゃん!!」
「ん? 何をぉお!?」
「えへへ!! 大好き!!」
「お、おう。ありがと」
以前、茜音さんに追われて翠理と逃げている途中、助かるために「だーいすき!!」などと叫んだが……。
なるほど、幼子の大好きという言葉は心にぐっと来るものがあるな。
まあ、流石に茜音さんみたいに鼻から大量の血を吹き出したりすることは無いが。
「……よし!! 今度はあっちの方にあったアルマジロみたいな動物を見に行こう!!」
「お兄ちゃん、あれはセンザンコウだよ?」
「せ……? ま、まあ、よく分からんけど、見に行こう!!」
「うん!!」
その後、俺は紫希ちゃんとの動物園デートを満喫するのであった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
お外でデートとか、もはや監禁じゃないじゃん、というツッコミは無しです。逃げられないので誰がなんと言おうと、これは監禁です。
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