監禁生活10日目 幼女力
俺は地下室に移動し、ある行動を取る。
それは、穴掘りである。
この地下室は元々あったものではなく、俺の先達が少しずつ掘って拡大したもの。
つまり、根気があれば少しずつ穴を掘ることができるのだ。
地道な作業になるが、この屋敷から脱出するには堅実な手法である。
俺は地下室から神龍司家の屋敷の外へと繋がるよう、方角を調整したがらスプーンで穴を掘る。
「はぁ、はぁ、はぁ……。一時間掘り続けて、たった数十センチか。ま、こんなもんだろ」
そう自分に言い聞かせる。
脱出までは程遠いが、今の俺にはこれしかできないからな。
「うぅ、にしても全裸で作業は流石に寒いな」
あっ、別に変な趣味に目覚めたわけではない。
穴を掘って、服を土で汚すわけには行かないからな。
万が一、服が土で汚れてしまっては神龍司姉妹に怪しまれてしまう。
慎重に、ゆっくりでも確実に穴を掘り進める必要があるのだ。
だから俺は全裸になって、穴を掘っている。
……そこだけ聞くと、少し卑猥な感じがするか。
気にしたら負けだと思って、気にしないようにしようっと。
「……そろそろ戻るか」
俺は地下室から部屋に戻り、シャワールームで軽く汗と土汚れを落とす。
そして、服を着る。
「月曜日は紫希ちゃん、だったな」
あの闇深そうな目を思い出すと、未だに背筋がゾクッとする。
怖いとか、そういうわけじゃない。
ただ、俺という人間を絶対に逃さないという意志だけは確かにあるのだ。
それが本能的に恐ろしく感じるのだと思う。
エロいことしか考えてない茜音さんとは別ベクトルで、警戒しなくてはならない。
「空澄お兄ちゃん!!」
「あ、紫希ちゃん」
「今日は一緒にお風呂入ろ!!」
お、おお、なんか言い出したぞ?
「い、一緒にお風呂に入るの?」
「うん!! 紫希が空澄お兄ちゃんの背中洗ってあげる!!」
「あー、えっと、その、ね?」
お風呂と言われると、先日の記憶が蘇る。
いや、いやいや。
流石に紫希ちゃんは茜音さんのような真似はしないだろう。
純粋に俺とお風呂に入りたがっているはず。
それはそれとして、これはチャンスじゃないか?
前は茜音さんと一緒だったからお風呂場までの道中で逃げようとは思わなかったが、紫希ちゃんだけなら上手く撒けば――
ガチャッ。
「はい、空澄お兄ちゃん」
「え? あの、紫希ちゃん? これは……」
「手錠だよ!! 空澄お兄ちゃん、油断したら逃げそうだから」
こ、この幼女、俺の行動を予測してやがる……。
いや、でも大丈夫だ。
所詮は子供。
いくら俺が非力な男とは言え、幼稚園児くらい抱えて逃げられるはず……。
「!?」
……ち、違う。これは罠だ!!
そんなことしたら、仮に外に出られたとしても御用になるのは俺の方だ!!
だって絵面が幼女誘拐なんだもん!!
絶対に俺が犯人だと思われて警察の厄介になりそうだもん!!
「ど、どこで手錠なんか……」
「茜音お姉ちゃんが持ってたの。『これで空澄ちゃんを捕まえて――』」
「そこから先は聞きたくないから言わないで」
俺は諦めて、大人しくお風呂場まで向かうことにした。
およそ一週間ぶりに訪れた大浴場。
俺と紫希ちゃんは服を脱いで、まずは身体を洗うことに。
一応、俺も紫希ちゃんもタオルをしっかりと巻いているため、心配することは何も無い。
「ねーねー、空澄お兄ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「紫希のどこが変わったか分かる?」
「え?」
変わった?
うーん、別に髪の長さは変わって無さそうだし、特に変わったところは……あっ。
「分かった?」
「あー、うん。まあ、分かったよ」
少し、胸が膨らんでいる。
これはアレだ。
多分、紫希ちゃんは葵衣ちゃんが開発した巨乳化の薬を飲んだのだろう。
紫希ちゃんが胸を張って、俺に向かってウィンクしてくる。
はは、かわいいなー。
「どう? 紫希、せくしぃ?」
「うん、そうだね」
「えへへー」
なんだろう? これが茜音さんだったら身の危険を感じるが、紫希ちゃんだと和む。
これが幼女力という奴か。
それから俺は、紫希ちゃんと平和な時間を過ごした。
いや、お風呂って普通は平和な場所なんだがな。
やはり以前の、喰われる寸前まで行ったのが印象に残っているのだろう。
つい警戒してしまったが、無用だったな。
「ん?」
着替えを入れておいたロッカーの扉を開くと、見覚えの無い紙切れが入っていた。
ちらりと見ると、その紙切れには信じられない内容が書いてあった。
『この屋敷から出たいなら、出してやっても良い』
「!?」
『ただし、条件が一つ』
紙切れには、直筆でこう書いてあった。
『私が誰か、当ててみろ』
それは、何者かからの挑戦状であった。
『ルールは簡単だ。他の誰にも悟られず、私を見つけ出せ。それがお前を外に出す条件だ』
「……マジかよ」
「空澄お兄ちゃん? どうしたの?」
「あ、ああ、いや。なんでもないよ。お風呂に入ったら眠くなっちゃったんだ、あははは」
俺は紙切れを咄嗟にポケットへ突っ込み、部屋に戻った。
これは、またチャンス到来かも知れない。
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