監禁生活8日目 地下室





 時計が十二時を回り、ちょうど俺が監禁されてから一週間が経った。


 深夜。

 神龍司家の全員が寝静まったであろう頃を見計らって、俺はベッドを横にずらした。


 すると、床に人が一人通れる程の小さな扉が現れる。



「明らかに誰かが掘った穴、だよな」



 床の扉を開けてみると、手作り感のある梯子が一つ、暗闇の底へ伸びていた。


 俺は意を決して、梯子を伝い、降りる。



「お、おお!! こんな地下室があったのか!!」



 降りた先にあったのは、上の部屋よりも一回り小さい部屋だった。


 埃が積もっており、しばらく人に使われた形跡は無さそうだが……。



「これは、日記かな?」



 地下室の中心に設置された小さなテーブルの上に、一冊の日記と思わしき本があった。


 何気なく日記を開いて、中を読む。


 ……人の日記を勝手に読むのは申し訳ないが、気になるんだから仕方がない。



『この日記を読む君へ。君はおそらく、神龍司の子女に目をつけられ、監禁されてしまったのだろう。気休めにもならないだろうが、私も同じだ。神龍司家の子女はどうやら、姉妹で同じ男を好きになる傾向があるらしい。つまるところ、私は君にとってのお義父さんになるかも知れない男、ということだ』


「お、おおおッ!!!! 俺の先達が書いた日記か!!」



 俺は日記を更に読み進める。



『私は攫われてから、毎日のように代わる代わる神龍司家の子女に犯された。悔しいのは、全員が国宝級の美少女美女ばかりだったことだ。正直に言おう。私はもう駄目だ』


「ん?」


『私は今、この生活を楽しんでいる。私のような冴えない地味な男が、あんな極上の美少女美女と毎日過ごせるなんて……。幸せ過ぎる。きっと前世の私は世界を救ったに違いない』



 あ、アカンわ、こいつ。



『もう分かるだろう? そう、私はこの状況に甘んじることにした。彼女たちの愛を受け入れ、一緒になることを選んだのだ。やっべぇわ、マジやっべぇわ。こんなエロくて可愛いの美少女美女と乱れまくりの生活を、いや、性活を過ごせるとかマジ最こ――』


「……」



 俺はパタンと日記を閉じて、地面に投げ捨て、踏みつけた。


 とどのつまり、この日記を書いた者は駄目人間になってしまったのだ。


 俺も堕ちたらこんな感じになると思うとゾッとする。

 俺は絶対に堕ちないぞ。逃げ切って真っ当な人間として生きるんだ。


 ……それにしても、この日記を書いた奴は誰なんだ?


 お義父さんになるかも知れないって書いてあったし、茜音さんたちの父親だろうか?


 改めて考えてみると、俺は茜音さんたちの両親について詳しくは知らない。


 聞いた話によると、どこかの南の島を買い取ってのどかに暮らしているそうだが……。


 俺は日記を拾い、再び中を読む。



『結局、私は一人を選べなかった。それを正直に告げると、なら全員と結婚すれば良いじゃない、と言われた。私たちは南の島に移住し、そこで結婚式を挙げて暮らすことになった。子供たちには申し訳ないが、あの子たちも大きくなったから大丈夫だろう』


「まさか、この先達が茜音さんたちの……?」



 その可能性も、無くは無さそうだな。



『これは先達としての忠告だ』


「ん?」


『無駄な抵抗はしない方が良い。早々に諦めて、君もハーレムを満喫しよう!!』



 俺は改めて日記を地面に叩きつけて、ゲシゲシと踏みつけた。



「さて、他人の日記を盗み読みするのはここまでにして……。気になるのはこっちだな」



 日記の他にもう一つ、気になるものがあった。


 それは、俺が降りてきた梯子の他にも梯子がいくつかあったことだ。


 その梯子の数は、全部で七つ。



「……登ってみるか」



 その梯子の一つを昇った先には、横這いにならないと進めない狭い空間があった。



「なんだ、ここ。狭いな……ん?」



 ふと、すぐ上から声が聞こえてきた。


 紫希ちゃん、藍奈ちゃん、葵衣ちゃん、翠理の声だった。

 聞き間違えるはずが無い。


 どうやら梯子を昇った先は、他の部屋の床下に繋がっていたらしい。



『……遂に完成しました。これが巨乳化の薬です』



 何その薬、詳しく!!



『これを飲めば、何もない砂漠にオアシスができるかの如く、絶壁がリンゴくらいの大きさになります』


『ちょっと。砂漠とか絶壁とか言わないでよ。悲しくなるでしょ。私は……ちょっとはあるし』


『あたしはまだ成長期だし? これからって言うかぁ』


『紫希はまだ未来があるもん!!』



 葵衣ちゃんがドンッ、と机か何かを叩いた。



『三人とも、認識が甘いです』


『『『?』』』


『空澄お兄さんは、巨乳派です。大きなおっぱいが大好きなんです。そして、ここに招いた三人は、貧乳の遺伝子構成をしています』


『『『!?』』』



 翠理たちの動揺が伝わってくる。



『そ、そんな、でも、茜音ねぇや橙華ねぇ、黄鈴ねぇは大きいのに!?』


『必ずしも姉妹で胸の大きさが等しくなるとは限りません。しかし、全てこの薬が解決します。さて、翠理お姉さん、妹たちに問います。この薬、使いますか?』



 真剣な葵衣の問いに頷いたのは、藍奈ちゃんだった。



『つ、使う!! それを使えば空澄にぃが……紳士ぶってるけど全然隠せていないムッツリスケベな空澄にぃなら簡単に堕ちるはず!!』



 おいコラ、藍奈ちゃん。


 俺は女の子には怒らないが、流石にその物言いはキレるぞ。


 俺は断じてムッツリではない。


 しかし、翠理も紫希ちゃんも藍奈ちゃんの意見に賛成のようだった。



『そう、ね。ムッツリスケベなあいつなら、大きなおっぱいを押し付ければ堕ちるはず……』


『紫希も使う!!』


『分かりました。効き始めるまで時間が要るので飲むタイミングは当番日の前日が良いと思います。オペレーション〈巨乳作戦〉、開始です』



 虚乳作戦……。


 なんだろうか、ちょっとだけ翠理たちが哀れに思えてきた。


 今度、彼女たちに会ったら貧乳も好きだと言っておこう。

 今の彼女たちに必要なのは虚乳ではなく、慰めの言葉だろうからな。


 俺は何も見なかったことにして地下室へ戻り、そのまま自分の部屋に戻った。



「……俺は、駄目人間にはならないぞ」



 ベッドの上で改めて決意しながら、俺は眠りに就くのであった。




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