監禁生活5日目 ウサギの耳掻き
「今日は私が
「あ、うん。よろしく、葵衣ちゃん」
水曜日。
もう学校を無断欠席することへの罪悪感すら感じなくなった頃。
葵衣ちゃんが俺の部屋にやって来た。
しかし、その格好はいつもの見慣れた中学生の制服ではなかった。
「ところで、その格好は?」
「バニースーツです。変ですか?」
「いや、ウサミミめっちゃ似合ってるけど。めっちゃ可愛いと思うけど。なんでバニースーツなん?」
「お兄さんの自宅にこんな本があったので」
葵衣ちゃんがどこからか取り出した本は、俺が自宅の部屋に隠しておいた性書――コホン。
聖書の一冊であった。
タイトルは『大浴場で欲情バニー』という、知る人ぞ知る大人の写真集だが……。
「なんで持ってんの? ねぇ、なんで俺のエロ本持ってんの?」
「お兄さんの部屋にあったものを持ってきただけですが」
「不法侵入じゃないそれ!?」
「はい。法律的にはアウトです」
「分かっててやるのはタチが悪いよ!?」
いや、美少女のバニー姿とか最高だから文句言えないんだけどさぁ!!
「ではお兄さん。今日はお兄さんの耳掃除します」
「……耳掃除?」
「はい。先日、お兄さんの弱点はお耳だと判明しましたので。それにお兄さんのミーチューブの履歴を見たら、耳掻き等のASMR動画が多かったので」
「え、えぇ、たしかに好きではあるけど。人の履歴を見るのは止めようね? 世の中には見られたくないことがある人もいるんだから」
「というわけでお兄さん、どうぞ」
「聞いちゃいないよ、この子……。って、ええ?」
葵衣ちゃんがベッド女の子座りして、膝をポンポンと叩いた。
膝枕してくれる、ということだろうか。
駄目だ、それは駄目だ!!
バニースーツを着た美少女に膝枕してもらいながらの耳掻きは破壊力があり過ぎる!!
「流石にそれは……」
「私の膝では、駄目ですか?」
「あ、お願いします」
「はい」
すまんな、俺はこの誘惑には抗えない。
だってバニースーツを着たジト目の銀髪美少女が、ちょっと悲しそうに自分の膝をポンポンしてるんだよ?
これで堕ちない男は、多分この地上のどこを探してもいないと俺は思います。
「お、おお、ちょうど良い高さ……」
ムチムチというわけではないが、葵衣ちゃんの膝は柔らかくて、寝心地の良い極上の枕だった。
しかも、俺が使っていた枕と同じ高さだ。
これは耳掻きが無かったとしても、すぐに寝落ちしてしまうかも知れない。
「では、まずは右耳から」
「あ、お願いします。あふっ」
「……お兄さん、やっぱりお耳弱いですね」
葵衣ちゃんの息が当たって、背筋がゾクッとしてしまう。
「カリカリ……カリカリ……」
「おっふ」
オノマトペは反則だろ。
というか、改めて聞いてみると葵衣ちゃんって鈴みたいに心地良い声してるよな……。
耳掻きの力加減も絶妙で、想像以上に眠気を誘われるし。
「……葵衣ちゃんは、ミーチューブとかでASMR配信とかしないの? 俺だったら毎晩イヤホンして聞きながら寝るわ」
「お兄さん。イヤホンをしながら寝るのは、お耳に良くないと思います」
「いや、えっと、それはすみません」
「……あと」
すると、葵衣ちゃんは何を思ってか、俺の耳に唇を近づけて――
「私が耳掻きしてあげるのは、お兄さんだけなので。他の人には、絶対にしませんから」
「はひゅ!?」
ビクッと身体が震える。
「では、左耳です」
「あ、はい」
「今度は綿棒でしてみますか?」
「お願いします」
右耳の耳掻きが終わり、左耳の耳掻きが始まる。
と、思ったその時。
「空澄ちゃん!!」
「うわっ、ビックリした」
「……何か用ですか、茜音お姉さん。今日は私の当番ですが。あと、その格好は?」
いつもジト目の葵衣ちゃんが、険しい表情で茜音さんを見つめる。
それもそのはず。
何故なら茜音さんの格好は、葵衣ちゃんよりも更に過激なバニースーツだったからだ。
布の配置が普通のバニースーツとは真逆になっている。
いわゆる逆バニーである。
「ごめんなさいね、葵衣ちゃん。でも、葵衣ちゃんがエッチなウサギさんになって空澄ちゃんを襲うんじゃないかって!! 今なら乱入して一緒にエッチなこともできるんじゃないかと思って!!」
「私はただ耳掻きしてるだけですが」
「……え、耳掻き?」
「はい。ただの耳掻きです」
「でもさっき、紫希ちゃんが葵衣ちゃんがエッチなウサギさんの格好して空澄ちゃんの部屋に行ったって……」
葵衣ちゃんのジト目が鋭くなる。
「言っておきますが、私は茜音お姉さんのように脳内スケベ一色ではないので」
「お、おお、ハッキリ言うな、葵衣ちゃん」
「……あ、あら? じゃあ、私の勘違い?」
俺も葵衣ちゃんも無言で頷いた。
すると、茜音さんが慌てた様子で弁明を始めた。
「ち、違うのよ!? これは別に、あわよくば妹から空澄ちゃんを横取りしようとか思っていたわけではなくて、こういうエッチな格好してる女の人が近くにいた方が色々盛り上がるんじゃないかと思って!! あわわわ!!」
「勝手に白状してるじゃないですか」
「と、とと、とにかくママは脳内スケベ一色じゃないのよ!! これは全て、そう!! 全て紫希ちゃんの陰謀なのよ!! だから空澄ちゃん、ママのこと嫌いにならないで!!」
「「!?」」
何を錯乱したのか、逆バニースーツをまとった茜音さんが、俺に抱き着いてきた。
スイカ並みの大きなふわふわの果実に頭が埋められてしまう。
「お、こ、これはッ!!」
なんという柔らかさ。
これには、流石の俺でも抗えない……。
「っ、茜音お姉さん!! それはルール違反!! 胸による誘惑は不平等が生じるからダメと決めたはずです!!」
「え? あ、えっと、これは……そのぉ……」
「後で家族会議です。皆に報告してきます」
「あ、ま、待って!! せめて言い訳を――」
部屋を飛び出す葵衣ちゃんを追いかけて、茜音さんも部屋を出て行く。
去り際、葵衣ちゃんが小声で。
「やっぱり、お兄さんは巨乳派……。急いで巨乳化の薬を作らなければ」
と、何やら呟いていた言葉は聞かなかったことにする。
俺は葵衣ちゃんの囁やき声や、茜音さんの柔らかい果実の感触を思い出して、一旦落ち着くためにトイレへ入った。
「……ふぅ」
賢者タイムに移行し、俺は一息吐く。
――このままじゃ駄目だ。
耳掻きはともかく、このままでは遅かれ早かれあの脳内ドスケベ一色な茜音さんに喰われる。
……それはそれで悪くないな。
いや、いやいや。それはやっぱり駄目だ。
茜音さんや茜音さんの果実は俺を駄目人間にしてしまう禁断の果実だ。
真人間として生きるためにも、やはりここから脱出しなければ。
「でも、脱出する方法が無いんだよなぁ」
俺は便座に座りながら、天を仰いだ。
「……窓の鉄格子をどうにかすれば……となると必要なのはヤスリか? でもヤスリなんて貸してって言って貸してくれるものでもないよなぁ」
……よし。
「ここは難しく考えずに、強行突破してみるか」
明日、誰かが部屋に入って来た時がチャンスだ。
無理矢理にでも扉の外に出て、脱出できないか試してみよう。
建物の構造自体、分からないことが多いし、それを把握する意味でも有効な一手になるだろうからな。
俺はいつ誰が来ても良いように、次の俺当番が来るまで扉の前で身構えて待つのであった。
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