監禁生活4日目 エリート七姉妹





 火曜日。


 昨日と同様、俺はまた学校を無断で欠席してしまった。

 いや、外への連絡手段が無い以上、仕方ないとは思うのだが……。



「ん? 待てよ? むしろ、無断欠席を心配した先生やクラスメイトが俺を心配して家に来てくれたり?」



 有り得る。


 しかし、問題は両親が失踪していることだ。


 もしかしたら、俺も一緒に夜逃げしたのではと思われかねない。

 やはり自力で脱出することが、自由への一番の近道になるのだろうか。



「空澄にぃ、あーそーぼー!!」


「え、藍奈ちゃん!? 学校はどうしたの!?」


「サボった♪ 火曜日はあたしの当番日だもん。学校なんか行ったら勿体無いじゃん」


「不良小学生め……」



 どうにか脱出の方法を考えようと思ったが、人の目があってはどうしようもない。


 ……それにしても、小学生のうちから学校をサボるなんて、少し藍奈ちゃんの将来が心配だ。

 ここは人生の先輩として、一応注意はしておこうかな。



「藍奈ちゃん、勉強はしておいた方が良いよ」


「えー? あたしのこと心配してくれてんの? 空澄にぃのくせに生意気ぃ♪」


「いや、真面目な話だから」



 ニヤニヤして俺をからかおうとする藍奈ちゃんに、俺は真剣な面持ちで言った。



「俺は小学生の頃、テストの点数がとても良かった。それで中学のテストも余裕とか思って授業を真面目に聞いていなかったせいで、点数がヤバイことになったんだ。だから勉強はしておいた方が良い」


「う、うわ、ガチ説教じゃん……。安心してよ、あたしの勉強は葵衣ねぇが見てくれてるから」


「ん? そうなの?」



 葵衣ちゃんのIQは300あるらしい。


 真偽のところは不明だが、この辺りの地域では有名な話である。

 実際、海外の大学を特例として卒業しているため、あながち間違いではないのかも知れない。


 あの子に教えてもらってるなら、たしかに落ちぶれる心配は無いだろう。



「というわけで空澄にぃ、ゲームしよ♪」


「ゲームって、どんな?」


「格ゲー♪ あたしに勝ったら空澄にぃを解放してあげても良いよ?」


「……ほう。約束は守れよ? 高校生の恐ろしさを教えてやる!!」



 くっくっくっ。


 こと格闘ゲームにおいて、俺は同級生に負けたことが無い。

 圧倒的な実力差で藍奈ちゃんを捻じ伏せてやる!!


 俺は藍奈ちゃんの挑発に乗り、ゲームで勝負するのであった。


 結果は……。



『K・O』



 10戦中、0勝10敗。


 言い訳することすら不可能な、俺の圧倒的完全敗北であった。



「あっれー? あたしに高校生の恐ろしさを教えてやるとか言ってたのどこの誰だったっけー? 空澄にぃ、雑魚雑魚じゃーん♪」


「ぐぬぬぬ、何故勝てない!!」


「ぷぷっ、まあ? あたし一応プロだし? 空澄にぃが勝てないのも仕方ないよ、うんうん♪」



 ゲームの、プロだと?



「あ、もしかして知らなかった? あたしこれでもeスポーツ大会で賞金荒稼ぎしてるからお金持ちなんだよねー♪」


「……エリート七姉妹めぇ……」

 


 長女は百を超す大企業をまとめ、次女はいくつもの雑誌の表紙を束ねるスーパーモデル。

 五女はIQ300の天才で、六女はプロのゲーマー、末っ子はドラマに引っ張りだこの子役女優。



「……冷静に考えてみると、うちの家系って凄いかも。黄鈴きりんねぇと翠理みどりねぇも、それぞれ別の才能あるしね……」


「そう言えば、ここに来てからあの二人を見てないな。忙しいの?」



 神龍司家には、まだ三女と四女がいる。


 三女の神龍司しんりゅうじ黄鈴きりんは俺と同じ高校の出身であり、先輩だ。


 そして、四女の神龍司しんりゅうじ翠理みどりは俺と同じ学校に通う同級生で、幼馴染みである。



「うん。黄鈴ねぇは全国の劇場を回って公演してる。もうすぐ帰ってくると思う」


「神龍司先輩……黄鈴さん、大人気舞台俳優だもんなぁ」



 『麗しき王子』や『百合の貴公子』等、様々な異名で知られている黄鈴さん。


 全国的に有名な女性劇団のエースを務めており、主に男性役をこなしている舞台俳優である。

 男性のファンよりも女性のファンの方が圧倒的に多いらしい。


 実は紫希ちゃんが女優になったのも、黄鈴さんから影響を受けてのことだとか。



「翠理は?」


「翠理ねぇは色んなスポーツの大会が近いから猛練習してるはずだよ」



 俺の幼馴染み、翠理はスポーツのエキスパートだ。


 どんなスポーツでも良いから、世界大会の優勝者を検索してみろ。

 絶対一番上に翠理の名前が出てくるから。


 正義感が強く、三年生を抑えて生徒会長を務める傑物である。


 でも何故か、俺に対しては当たりが強い。


 ……まさかとは思うけど、翠理も俺のことが好きだったり? いや、それは流石に無いか。



「じゃ、そろそろ休憩終わり♪ 今度はレースゲームで勝負しよ♪ 空澄にぃが勝ったら、逃してあげる」


「……マジンカートか。これなら勝てる!! 俺はマジンカートにおいて負けたことがないんだ!!」



 俺が自信満々に言うと、藍奈ちゃんは八重歯を見せながらニヤニヤと楽しそうに笑った。



「ふーん? でもどーせあたしには勝てないだろうし、雑魚雑魚な空澄にぃにハンデあげる」


「ハンデ?」


「そ。んっしょ、と」


「ちょ、何を!?」



 不意に藍奈ちゃんが、ソファーに腰掛ける俺の膝に座った。

 ただ座るのではなく、俺と向かい合うように座ったのだ。


 藍奈ちゃんと至近距離で目が合う。


 更に藍奈ちゃんは、俺の首に腕を回して、まだ熟れていない二つの果実を俺の顔面に押し付けてきた。



「ちょ、お、おい、これじゃ画面が見え――」


「えー? あたしだって画面に背中向けてるんだし、見えてないよー? じゃ、ゲームスタート♪」


「わっ、ちょ!!」


「あっれー? 空澄にぃってば、さっき勝てるとか言ってなかったっけー?」



 藍奈ちゃんが煽ってくる。


 こ、このメスガキ、舐めやがって!!



「くっ、このっ!!」


「ひゃんっ♡ ……空澄にぃのスケベ。鼻息荒くし過ぎ。胸に息当たったんだけど」


「え? あ、ご、ごめん。今のはわざとじゃなくて――」


「はい、あたしの勝ちー!!」


「なっ!? 演技かよ!! ずるいぞ!!」



 俺が気を取られているうちに、藍奈ちゃんが先にゴールしてしまった。


 そして、藍奈ちゃんが俺には分からないくらい小さな声で呟いた。



「……演技であんな声出るわけないじゃん」


「ん? 藍奈ちゃん、何か言った?」


「べっつにぃー? やっぱり空澄にぃは雑魚雑魚だなーって言っただけだよ♪」


「くっ、も、もう一度だ!! 今度は純粋な実力勝負でやろう!!」



 俺はその日、一日中藍奈ちゃんとゲームをして過ごした。


 え? 結果はどうだったのかって?


 ……脱出のチャンスを得るために、少し練習しておこうと思ったよ。



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