監禁生活2日目 喰われる寸前




 早朝。

 まだ朝日が昇りきっておらず、空が白み始めてきた時間帯。


 ベッドで眠っていた俺は、毛布の中で何かがモゾモゾと動く感触で目を覚ました。


 軽く毛布を持ち上げて、何かの正体を探る。



「あ、空澄にぃ起きちゃった♪」


「……」



 俺は無言で持ち上げた毛布を下ろした。



「ちょちょ!! 空澄にぃ!! なんか反応しようよ!!」


「いや、だって!! 寝てたら毛布の中に小学生の女の子がいたら事案じゃん!! 見て見ぬふりくらいするよ!!」



 俺のベッドに潜り込んでいた女の子。


 将来は美人になるであろう可愛らしい顔立ちをしており、ニヤニヤ笑った時に八重歯がちらりと見える。


 この子は藍奈あいなちゃん。


 神龍司家の六女であり、俺のことをよくからかってくる子だ。


 たしか今年で小学五年生だったはず。


 そんな幼い子と同じベッドで寝てたなんて、下手すれば逮捕案件だろう。


 いや、俺もまだ未成年だし、ギリギリセーフか?



「ふーん、そっちがそういう態度なら……えいっ」


「うお!?」


「ぷっ、慌てちゃってダッサーイ♪」



 藍奈ちゃんが仰向けで寝そべる俺に跨がって、馬乗りになった。

 ふわっとした女の子の甘い匂いが、俺の鼻をくすぐる。


 って!! 俺は変態か!!

 小学生の匂いを嗅いで甘いとか、我ながらキモ過ぎる!!



「うわぁー♪ 空澄にぃキッモーイ♪」


「え? な、何が?」


「自分で気付いてないの? なんか空澄にぃの硬いものが当たってるんですけどぉ♡」


「あっ、こ、これは違っ」



 いつの間にか生理現象が起こっていた。


 俺のエクスカリバーが、気付かぬうちに鞘から抜かれていたのだ。


 藍奈ちゃんがニヤニヤと笑う。



「あたしまだ赤ちゃん作れない身体なのにぃ♪ 空澄にぃはあたしと赤ちゃん作る気満々なんだぁ? 空澄にぃのスケベ♪ 性犯罪者まっしぐらじゃん♪ マジキモーイ♡」


「っ、ひ、否定はできないけど、断じて邪な気持ちは無いぞ!! そう!! これはただの生理現象だから!!」


「ふーん? じゃあこういうことしても平気?」


「ぬおっ!?」



 藍奈ちゃんが腰をぐりぐりと俺の身体に押し付けてきた。

 ナニが、とは言わないが、俺のエクスカリバーがズボン越しに擦れている。


 お、落ち着け。落ち着くんだ、天野川空澄。


 俺は理性のない獣ではない。

 心を仏に、そう、菩薩のような精神で心を落ち着かせるのだ。



「え? あ、あれ? うそ!? 空澄にぃの空澄にぃが鎮まってく!? なんで!?」


「ふっ、俺の方が一枚上手だったな」



 今の俺は菩薩モード。

 如何なる誘惑にも決して屈しない、仏の心の持ち主なのだ。



「ぐぬぬぬ、今日はここまでにしておいてあげる!!」


「あ、走ると危ないぞ」


「うるさい!! 空澄にぃの馬鹿!!」



 藍奈がベッドから飛び降りて、部屋を慌ただしく出て行った。


 そして、俺はあることに気が付く。



「あっ。ドアが開けっ放しになってる……」



 これ、逃げれるんじゃないか?


 俺はドアをゆっくりと開いて、周囲に誰もいないか念入りに確認する。



「空澄ちゃん?」


「ヒョア!?」


「うふふ、驚かせちゃったかしら?」



 ドアの陰となる場所に、茜音さんが立っていた。


 親の借金を肩代わりしてくれた恩人であり、俺が監禁されることになった原因。

 俺は若干の警戒をしながら、茜音さんに声をかける。



「お、おはようございます、茜音さん」


「ええ、おはよう。それにしても、どうやって部屋の鍵を開けたのかしら?」


「えっと、その、実は……」



 下手に誤魔化しても俺に得は無いので、ありのまま起こったことを話した。



「……そう。まったく、藍奈ちゃんったら。しっかり扉を閉めないなんて無用心ね」


「そ、そうですね。じゃあ、俺はこれで」


「あら、どこに行くの?」


「……うっす。大人しく部屋戻ります」



 さり気なく逃げようとしたら、朗らかな笑みを浮かべた茜音さんが目の前に立ちはだかった。


 忘れてはならないのが、茜音さんの身長である。


 茜音さんの背丈は190cm程度で、かなり高いのだ。

 俺自身の背が高い方ではないことも相まって、結構な威圧感を感じる。


 俺は大人しく監禁部屋へ戻ることにした。


 しかし、部屋へ戻ろうとした俺を、茜音さんが何かを思い出した様子で呼び止める。



「待って、空澄ちゃん」


「え?」


「せっかくだし、スッキリして行かない?」


「……え?」



 たゆんたゆんの大きなおっぱいを揺らしながら、茜音さんが言った。


 スッキリする、だって?


 いや、いやいや。ここは平常心。さっきと同じ菩薩モードだ。

 今の俺は如何なることがあっても動じはしない。



「うふふ。一緒に気持ち良いコト、しましょ♡」


「はい!!」



 菩薩モード、強制解除。


 俺だって男なのだ。

 グラマラスなスタイルの綺麗な年上のお姉さんに迫られたら、その誘惑には抗えない。


 俺は股間のエクスカリバーを抑えながら、茜音さんに付いて行った。







「まあ、ね。そういう意味では無いと思ってましたよ。ええ、ちっとも期待してなかったですとも」



 俺が訪れたのは、プールみたいな湯船にマーライオンからお湯が注がれている大浴場であった。


 流石は大豪邸である。


 監禁部屋にもトイレ付きシャワールームはあったが、まさかこんなに大きな浴場まであるとは思いもしなかった。



「俺、マーライオンなんて初めて見たかも」



 俺は先程の、茜音さんとの会話を思い出しながら遠い場所を見つめて呟いた。


 あんなに大きなおっぱいを揺らしながら「気持ち良いコトしましょう」って言われたら、色々想像しちゃうじゃん。


 いや、たしかにお風呂は気持ち良いけどさ。スッキリもするけどさぁ。



「うふふ。このマーライオン、シンガポールの職人さんにお願いして作ってもらったのよ」


「ほへぇー。じゃあ、本場のマーライオンなんですね。……え? あの、ああああ茜音さん!?」



 その時、茜音さんが朗らかな笑みを浮かべたまま大浴場に入ってきた。


 一応、タオルを巻いてはいるようだが……。

 そのグラマラスな抜群のスタイルを微塵も隠せていなかった。



「うふふ、そんなに動揺してどうしたの? 言ったじゃない。一緒に・・・気持ち良いコトしましょう、って。今日は私が当番だから、頑張ってお世話するわね♡」



 な、なん……だと……。


 藍奈ちゃんの襲来ですっかり忘れていたが、言われてみれば、たしかに葵衣ちゃんが去り際に言っていた。



『では私はこれで。今から姉妹全員で、お兄さんのお世話当番を決めてきます。少しの間、さよならです』



 茜音さんの言う『お世話』とは、このことに違いない。


 こ、これは、期待して良いのか!?


 色々あると思っても良いのか!? ナニが待っていると考えて良いのか!?


 心の中で思わず叫んでいると、茜音さんは俺の背後に立ち、俺を優しく、されど力強く抱きしめてきた。


 お、おっふ。

 頭全体が柔らかいものに包まれる……。


 っと、いかんいかん。

 ここは平静を装って慎重にならなければ。がっつく男とは思われたくないからな。



「あ、あの、茜音さん? その、何を……?」


「一緒のお風呂に入ってるんだから、洗いっこしましょ。恥ずかしがらなくて大丈夫」



 こ、これは、これはいよいよヤバイ!!


 いくら俺を監禁した張本人とは言え、知り合いの超絶美人なお姉さんとお風呂に入って洗いっこするとか……。


 きっと前世の俺は世界を救ったに違いない。



「うふふ、良かったわ。ほら、目を閉じて? お姉さんがシャンプーしてあげる」


「う、うっす」



 俺は目を閉じた。


 それから間を置かずにボトルをプッシュする音が聞こえ、茜音さんが俺の頭に触れた。


 わしゃわしゃ。わしゃわしゃ。


 誰かに髪を洗ってもらうなんて、いつぶりになるだろうか。

 安心感というか、妙に心が落ち着いてしまう。



「はーい、あわあわ流すよー」



 温かいシャワーが俺の頭にかかり、泡を洗い流してゆく。


 その時、何気なく薄っすらと目を開くと……。


 たゆんたゆんっ。


 大きな大きな桃のような、否。大玉スイカのような果実が目の前にありました。


 俺は目を見開いた。

 果実を包んでいたタオルはどこに行ってしまったのかとか、そういう野暮なことは考えない。


 シャンプーが目にしみても一切構わず、その大玉スイカを目に焼き付ける。



「んっしょ。んっしょ。……って、いやん。いつから見てたの?」


「あ、す、すみません!!」



 ガン見していることがバレてしまい、俺は大慌てで目を閉じた。


 くぅー、シャンプーが目にしみるぜ……。


 そんなことを考えながら、流石に怒られるかも知れないと思い、俺は叱責を覚悟する。

 しかし、意外にも茜音さんは優しい声色で言った。



「うふふ、別に怒ってないわよ? 一緒にお風呂に入ってるんだもの、このくらいの事故が起こっても仕方ないわ」



 事故、か。そうだよね、これは事故だ。決して互いに何か意図しているわけではない。


 そう、これは不可抗力なのだ!!



「事故!! じ、事故なら仕方ないですよね!!」


「そうそう、仕方ないの。今からすることも事故だから」


「!?」



 茜音さんがそう言った次の瞬間、何か柔らかいものが俺の背中に当たった。

 目を閉じた暗闇の世界ではハッキリと分からないが、間違いなくあの果実だろうと察する。


 その果実が、ボディーソープと思わしきぬるぬるの液体をまとって俺の背中に押し付けられた。



「あ、あの!! こ、これは、これは流石に過失が過ぎるのでは!?」


「男の子はこういうのが好きって聞いたから……。もしかして、嫌だった?」


「大好きです」


「うふふ。そう言ってもらえると嬉しいわ」



 全身を泡と柔らかい果実に包まれて、俺は極楽にいる気分だった。


 心なしか頭もボーッとしてくる。


 もしかしたら、あまりの出来事の連続にのぼせてきたのかも知れない。



「あらあら、うふふ。効いてきたみたいね?」


「……え?」


「このボディーソープ、実は葵衣ちゃんが開発したちょっと気持ち良くなるお薬入りの特別製なの。どんな男の子でもイチコロにする、ね♡」


「……え!?」


「えいっ」



 俺は茜音さんに優しく押し倒された。


 ひんやりと冷たいタイルの上で寝そべり、俺の上に茜音さんが跨がる。


 その茜音さんの眼は、肉食獣のようにギラギラしていた。


 あの時、借金を肩代わりしてくれた後、俺を睡眠スプレーで眠らせた時に見せた、あの表情であった。


 く、喰われる!!


 俺は直感的にそう理解した。



「あ、茜音さん!?」


「大丈夫。不安にならないで? 全部お姉さんに……いえ、全部ママに任せなさい。ママが空澄ちゃんのコト、気持ち良くしてあげるから♡」


「ちょ、ま、待っ――」


「ちょっと待ったああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」



 俺が喰われる寸前、お風呂場に茜音さんとは違う女性の声が響いた。



「茜音姉ちゃん!! 抜け駆けは禁止って昨日皆で決めたでしょ!!」


「なっ、橙華とうかちゃん!?」



 突然お風呂場に乱入してきた金髪褐色ギャルお姉さんのお陰で、俺の貞操は何とか守られるのであった。





――――――――――――――――――――――

あとがき

お風呂シーンは作者ながらギリギリだと思います。

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