第33話 強敵
「げっへっへ、仲間にしてくれやせんか旦那ァ」
ここに居た! あろうことか、ナクラは全力でネタに走ってしまったのである!
「な、ナクラ……」
「見損なったぞ」
「……ハッ! しまったつい! なし、今の無し!」
マールとシャルロッテの好感度ががくっと下がった!
取り消しはできない。一度口から出した言葉は消えないのである。
このゲームにロードは無く、どうしてもやり直すならアカウントを一度リセットして最初からだ。みんなも不用意な発言には気を付けようね。
「くっ……こ、こうなったら!」
ナクラは一か八かの賭けに出ることにした。そのインベントリから、素敵な手作りジュースを取り出したのである……!
「こ、これを上げるので、さっきの発言を無かったことにしてください!!」
THE・貢物! ナクラは素敵な手作りジュースをドラゴンのダグドラに飲ませ、もう一度選択をやり直そうというのである! どうして!? 明らかに媚の売り方を間違えているし、媚を売る相手もなんかズレている!!
――解説しよう。ナクラは基本的にコミュ障であり、こういう咄嗟の事態で正常な判断が出来なかった。故に! 何故かダグドラに取り消しを求めた! 『だって選択肢出したのこいつじゃん、こいつがもう一回選択肢だしたらやり直せるじゃん!』と!! これがゲーム脳というやつか!?
「なんだこれは?」
「こ、これは……私の作ったジュースです……! 多分凄く体に良いと思います!」
「に、ニンゲンはこれを飲むのか!?」
「飲みます!」
そう言って、ナクラはずいずいっとジュースを差し出す。
ナクラは混乱していたが、あからさまに毒物な紫ヘドロを差し出されたダグドラも困惑していた。
「ほ、本当に人間はそれを飲むのか!?」
「はい! ゴックゴクです!」
「ご、ゴックゴク!? ニンゲンのくせにか! 嘘を申すな、ならばまず貴様が飲んでみせよ!」
「わかりました!」
そしてナクラはぐいっとそのジュースを飲みほした。ポリゴンとなって消えるジュース。
ナクラはピンピンしている。……猛毒耐性Lv10、そして毒吸収まであるのだ。ナクラはピンピンどころか元気モリモリである。
実際、少量の毒は薬になる! というあいまいな知識で致死量を超える毒を煮詰めたのがこのポイズンゼリースライムジュースなのである。材料提供はナクラの頭上の紫の子。その体積の減り具合からも決して少量ではないことを留意されたし。
「おっと、一口だけのつもりが全部飲んでしまった……」
「ガ、ガハハ! 残念であるなぁ、我も飲みたかったであるぞ!」
「あ、もう一個ありますんで! どぞ!」
シット! マイガッ! オーノー! ナクラはもう1杯のジュースを差し出した! だってそうだろ? 叔父と姪で仲直りするなら1杯じゃ足りない。2杯のジュースで乾杯するってなものだ。だからナクラは2杯も作っていた! 作ってしまっていたのだ!
「あれ、飲まないんですか? 嘘……だったんですか?」
「……い、頂くのである!!」
受け取った!? ダグドラは、ナクラから杯を受け取ってしまった!
何故ダグドラは受け取ってしまったのか、それは彼の設定に秘密がある。
実は魔王軍の四天王であるダグドラは、ドラゴンと悪魔の融合体という設定である。そして悪魔は、契約、そして約束を守ることを是としている!
約束を守ることを是としている!!
……それだけ? と思うかもしれない。それだけだ!!
だがそうAIに設定されている以上、ダグドラは例え口約束でもそれを曲げることはできない。しないのだ! 故に、一度口に出したことは……やり遂げる!
ゲームをしようと言ったらルールを守ってゲームをするし、この場でダグドラ相手に健闘すれば楽しませてくれたということで実際見逃してくれる! そういう子なので! このダグドラ君は!
でも今だけは曲げても良いと思う! だって、だってそれ、明らかに毒だよ!?
やめてよ、飲んだら絶対身体に悪いよ! 紫のジュースは全力でそう主張していた。
しかも、ナクラの毒は、唯の毒ではない!
称号「暗殺者」により、毒成功率がアップしている……! 更には称号「ジャイアントキリング」その称号の効果により、ダグドラのような大型モンスターへのダメージが大増量! 耐えきれるのか、ダグドラ!?
「ええいっ!」
ドラゴンが鼻をつまんで紫色のドロッとした液体を飲むなんて、ここに居る面子はとても珍しいものを見れたと自慢して良い。
「……グフゥッ!!!」
そしてよろめく。何と言う事だ、やった! ダグドラは耐えた、耐えたのである! ナクラお手製の健康ジュース(死を付与する)を綺麗さっぱり飲み切り、生き延びた!
さすがは約束を守る悪魔のドラゴン、ダグドラである! 強いぞ、カッコいいぞ!
「カハッ!?」
しかしその代償は大きい。眩暈吐き気に暗闇痺れ、流石の四天王と言えどこれはたまったものではない。何かしら回復をしたい所――と、そこに目に入る、大きな肉の塊。ゴブリンキングの、死骸!
「……ぐ、ふん、つけあわせ、にっ、こいつも頂くとしよう! こんな死体邪魔だろうからな、片付けてやる!」
ダグドラはゴブリンキングの死骸を食べて回復しようとした。実際、イベントでなく戦闘する際には取り巻きを食べて回復するという行動をとるダグドラだ。
だからそれ自体は、悪くない考えだった。
だが、ダグドラは見落としていた。
――苦悶の表情を浮かべたゴブリンキングの死骸に、全く外傷が無い事を。
そしてそれを倒したのが、毒ジュースを作ったナクラであるという事を。
……ゴブリンキングの死体が、毒を内包しているという事を――
「シャルよ。儂の見間違いでなければダグドラが泡を吹いてピクピクしているが」
「ええ、気を失っていますね。今のうちに首を落としておきましょう」
そしてナクラが止める間もなく、哀れ無抵抗なドラゴンはLv50の副団長に首を落とされた。
かくして四天王ダグドラは死んだ。敗因は食あたりである。
みんなも不用意な発言には気を付けようね。
―――――――――――――――
【現在のナクラのステータス】
名前 : ナクラ
職業 : ヒーラー(Lv32)備考:1章ボスを撃破! 1上がった。
HP :233/233
MP :280/280
STR: 35
AGI: 14 (-100)→ 1
VIT: 98 備考:また毒で鍛えられた!
INT: 70 (-100)→ 1 備考:口先で毒を飲ませた! えらい!
DEX: 17 (-100)→ 1
LUK: 19 備考:幸運もあったと思う!
※「()内は料理効果による一時的な補正値」(備考:料理が違うので効果も違う)
ボーナスポイント(残:55)
スキル:
光魔法 :Lv 1
回復魔法:Lv 4
火魔法 :Lv 1
地魔法 :Lv 0(習得可)
即死魔法:Lv 0(習得可)
毒魔法 :Lv 0(習得可)
料理 :Lv 3
毒吸収 :Lv 1
錬金術 :Lv 5
毒手 :Lv10(MAX)
テイム :Lv 1
耐性:
猛毒耐性:Lv10(MAX)
苦痛耐性:Lv10(MAX)
麻痺耐性:Lv10(MAX)
酸耐性 :Lv10(MAX)
呪い耐性:Lv 3
火耐性 :Lv 3
装備:
ソードメイス
神官服
革のブーツ
革の手袋
アイテム(ピックアップ):
ボロボロのの包丁
ボロボロのの土鍋
普通の包丁
普通の土鍋
称号:
「ベテラン」Lv25を超えた
「シャルロッテの知り合い」シャルロッテと知己を得た
「百連死:毒」毒で連続100回死んだ。若干耐性が付く
「1章クリア」四天王ダグドラを倒した証。2章エリアの解禁
(備考:メインクエストが多数省略されたが、サブクエストとして受注可能)
「イチストの救世主」フェンリルを撃破した証
「ジャイアントキリング」大型モンスターへの攻撃力アップ
「暗殺者」毒成功率がアップ
「狼の天敵」ウルフ系へのダメージ超アップ
「狼の王」Lv80までのウルフ系モンスターをテイム可能
「魔の森のヌシ」『魔の森』の素材をどこでも自由に召喚できる(MP消費)
【テイムモンスター】
名前 : スムージー
種族 : ポイズンゼリースライム
スキル:
毒魔法 :Lv 1
毒粘液 :Lv 4
魔力視 :Lv -
耐性:
猛毒耐性:Lv 8
苦痛耐性:Lv 7
麻痺耐性:Lv 4
酸耐性 :Lv 8
特性:
ゲテモノ食い・ドM
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます