第32話 襲撃
結局ナクラが選んだのは『携帯錬金釜』だった。
なぜそれを? と言えば、『重曹とか作れれば、ラーメンが作れるから!』という理由である。さすがナクラ、小説家なだけあってラーメンには重曹が必要なことを理解している。ただしナクラには肝心の重曹をどう使えばラーメンを作れるかの知識がないので全くの無駄なのではないかと思う次第。
「では、これを下賜する。此度はよくやってくれた、感謝するぞナクラよ」
「ははぁー……!」
――その、王様から直々にアイテムを賜ったその時であった。
ズガォォオオオオン! と、謁見室の壁が崩れる!
大きな瓦礫が王に向かって落ちてくる。あわや大惨事!
「な、何事か!?」
「叔父上! 危ない!」
しかし瓦礫を弾くシャルロッテ! 王を背中に庇い、崩れた壁に剣を向ける。壁は崩れて外が見え、そこには、一匹の黒いドラゴンが羽ばたいていた。
「ありがとうシャルロッテ。……しかしいったい何が――こ、こやつは、ダークドラゴン……!?」
「なぜこんなところに!? 結界はどうなっているんだ!!」
ドラゴンに剣を向けるシャルロッテに対し、ここでようやくハッと動き出すナクラとマール。マールはシャルロッテに並んでドラゴンに対峙し、ナクラはその後ろからスクリーンショットを撮りまくる!……おい! なにやってんの! 今日のナクラは写真係ですか!?
「ガァハハハ! 脆い、脆いぞニンゲン共! 所詮は下等生物の王に過ぎぬということよのう!」
ダークドラゴンが喋った! その野太く力強い声が、唯者ではないと否応にも分からせて来る。
「我は魔王が配下、四天王のひとり、ダグドラである!」
「魔王……四天王……!!」
その圧倒的な力を感じ、驚愕に震える王たち。一方でナクラだけはこんなことを考えていた。……『なんてこった、魔王と四天王で
「貴様らニンゲンに一つ、提案を持ちかけてやろう……服従せよ! 魔王に従うのであれば命だけは助けてやろう! ゴブリンの苗床として生かしてやろうではないか! カッカッカッカ!」
とんでもない提案をするドラゴン、ダグドラに、シャルロッテの叔父――王が立ち上がる。
「断る! 我々は、魔王には屈しない! 例えこの命尽きようとも!」
「グガハハハ! 言ったな、我が前でよくぞ吠えた! 見事、見事であるぞ下等生物!」
カッコよく宣言する王。それを見て愉快そうに手を叩き笑う
「よかろう、ここは貴様に免じて――ひとつ、ゲームをしようではないか」
ギニィ、とダグドラが嫌らしく笑う。
「少し遊んでやる。足掻け、我を持て成して見せろ! 我を満足させられれば――この場は見逃してやっても良いぞ!」
ゴォオオ! とダグドラが吠えた……!
と、すっかり空気になっていたナクラは崩れた部屋の片隅から、全体を収めるようにスクリーンショットを撮っていた。今日の君は写真家さんだね。でもそろそろプレイヤーとして中央に立ち戻り、ダグドラに立ち向かってくれないかな?
「む?……ほう! ほうほう! こいつは!」
と、そこでダグドラは部屋に落ちていたあるものに目を付ける。
そう。ナクラの倒したゴブリンキングの死骸である!
「コイツを倒すニンゲンがいるのか! 愉快、愉快であるぞ! どいつだ? お前か? それとも、お前か!?」
ぎろり、と一同を見渡すダグドラ。そして、謁見室の片隅で写真を撮っていたナクラに気づく。
「お前だなァ! グハハ、魂で分かるぞ! 貴様はマレビト! 異界の戦士かッ!」
「…………ハッ、あ、わ、私か!」
温度差ァ! すっかりムービーを見ている気分になっているんじゃない、お前が当事者だぞナクラ! さぁ今こそソードメイスを手にダグドラに立ち向かう時である!
……と、ここでダグドラとの間に推奨選択肢の文字が浮かび上がった。
『貴様は私が倒す!』『くっ、ここは退くしかない……』『げっへっへ、仲間にしてくれやせんか旦那ァ』……うん、こんな3つ目の選択肢、誰が選ぶというのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます