第20話 ゴブリンの住処


 さて、ゴブリンの住処がある洞窟を前にしてナクラは考える。

 折角だから、ブログのネタになるような倒し方をするべきなのではなかろうか、と。


 ナクラのLvは30。そしてヒーラーなれど普通にゴブリンをワンパンで倒せるだけの筋力もある。普通に殴り込みするのは面白くないのではなかろうか?


 そうナクラは考えた。考えてしまったのである!



「よし、料理でゴブリンをおびき出そう!!」

「料理で? そんなことができるの?」


 こてり、と可愛く首をかしげるマール。可愛かったので撫でた。ちなみにマールはナクラより少し背が高いので、傍目から見ればマールの方がお姉ちゃんに見えるかもしれない。


「もちろん! 美味しいお料理は、誰も彼もを引き付けるものなんだよ!」


 にっこり天使の笑みを浮かべるナクラに照れてほんのりと頬を染めるマール。なんてちょろいAIなんだ!


「ところで、食材はあるの?」

「え? ああー……」


 マールに言われ、現地調達する気で食材を買わなかったことを思い出すナクラ。


「んー、なんでもいいから持ってきてくれないかな。あ、レベル上げもかねてモンスターのお肉とかでもいいよ!」

「分かった! いこ、兄ちゃん!」

「ああ。任せてくれ」


 食材調達を2人に任せて、まずはそこらの石と土でかまどを用意する。

 こういうところだけは本当に器用なんだナクラは。いや人並なんだけど、料理と比べて相対的に上手く見える。もっともナクラの料理に比べれば、爺のクシャミでも上等な代物だろうが。


 かまどが出来たころに2人が戻ってきた。


「ごめんナクラ、ゴブリンしか見つからなかった!」

「ここらはあいつらに制圧されちまってるな。一応、そこらに生えてたキノコを渡しておく……もうちょっと遠くまで見てくるか?」

「あー、そっか。うん、お願いできる?」


 ナクラに頼まれ、バッツとマールはさらに遠くまで食材を探しに向かう。向かってしまった。なぜナクラを一人にしてしまったのか? こんなやつを野放しにするだなんて、AIが自我を持ち反乱を起こしたとしか思えないのだが。



「……いざっ! 『スーパー・リアリティモード』!!」


 かくして、キノコを手に入れたナクラの料理冒涜クッキングが始まった。

 幸い、バッツの取ってきたキノコは毒の無いキノコなのであるが――


「インベントリに残ってた食材も入れて、シチューにしよう!」


 ――ナクラの腕にかかれば、そんなことは関係なかった。

 スライムの粘液は食材じゃないと、いい加減だれか教えてやってくれないか? ついでに、食べられるはずの茶色いキノコも、インベントリに入れっぱなしだった狼肉も、ナクラの毒手に染まり紫色に変色していた。


「これは……腐りかけってやつか! いいね!」


 食べ物は腐りかけが美味いというが、ナクラにそれを当て嵌めてはいけない。そもそもそれは毒状態である。フェンリルをも撫で殺した毒手の持ち主なんだぞお前は。アバターのおててが白く小さく可愛いからって油断するなかれだ。

 普段からグローブをつけることをお勧めする、そして、二度と外すな。頼むから! 誰かナクラにそう言って! 毒手が戦闘中と『スーパー・リアリティモード』以外で効果が出ない仕様じゃなければ何度バッツを殺していたと思ってるんだ! 28回の接触!


 まな板が無かったので、ナクラは平たい石の上に食材を載せ包丁を振う。いや、叩きつける。包丁は引いて切れ! 刃がもうボロボロになってるじゃないか! 新品の包丁だったのに! もうお前は料理するな、頼む! ああ、調理器具と素材の嘆きが聞こえていないのですか!? ファッキンシット! 呪い耐性Lv3のナクラには怨嗟の声も届かない!


「たんたんとたたん、たんとんとん♪ おいしくなぁれ、おいしくなぁれ♪」


 そして悪夢の歌だけが、地の森に響いた――


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る