第19話 ノッソ村
「背負い切り!!」
バッツが背負った剣を全身フルに使って振り下ろす。ゴブリンはポリゴンとなり消えた。
パーティープレイにあたり、ナクラは自動回収機能をオンにしている。この機能があれば、倒してから一々回収しなくても良いのである。便利!(ただしアイテムを入れておくインベントリが自動で埋まるため、こまめに整理したりする必要はある)
「こんなところにまでゴブリンが……急ごう、ナクラ!」
「う、うん!」
戦闘を終え、ナクラは緊張した面持ちのバッツについてノッソ村に入った。
畑と木造の一軒家がちらほら並ぶ田舎の農村と言った感じの村だが、ところどころ焼け焦げた跡があったり塀が壊れていたりと戦闘の跡が垣間見える。
二人は村に入ってすぐのところにあるバッツの家に入った。
「おうバッツ、帰ったか!」
「兄ちゃんおかえり!」
「ただいま父ちゃん! マール!」
二人を出迎えたのは筋骨隆々マッチョダンディ――バッツの父親と、青髪ショートの手にバンテージを巻いた女の子、バッツの妹であった。
「お前さんがバッツの連れてきた冒険者か?……ふむ、ちっこいが腕は確かそうだ。俺はレクト。元冒険者で木こりをしている」
「私はマール! 格闘家だよ!」
「は、初めまして。ナクラです。ヒーラーです」
ぺこりと頭を下げるナクラ。
「父ちゃん、道中にもゴブリンが出てきた。あいつら、どんどん増えてやがる」
「何? こいつはうかうかしてられねぇな……だが俺はこの村の防衛で手一杯だ」
と、ここでナクラを見るレクト。
「早速で悪いが、あんたにはゴブリンの巣穴を探し、元を断って欲しい」
「うーん、ギルドからも緊急依頼ってことだから受けたけど……」
「ふむ、報酬に不満か? なら追加報酬でこの村に家を作る権利なんてどうだ。金さえあれば、村人に家を建てるのを頼んでも良い」
小説家のナクラはティンと閃いた。これはあれだ、腕の立つ冒険者を村に囲い込んで、次以降は「お前も村の人間だから村のために手を貸せ」となる流れだと。面倒、しかし、ホームを建築できる、というのはナクラにとって魅力的だった!
「……ねぇレクトさん。それってお家に畑も作れる?」
「できるぞ。さすがに既に家が建っている所を潰して、というのは難しいが」
この時点で、既に心は決まった。何、元々メインクエストはするつもりだったのだ、報酬で村に家を建てられる権利もありがたく受け取るし、なにより畑!
畑があれば、そう、『家庭菜園』ができるのである! 素晴らしい、自分の畑で採れたものを料理する、最高ではなかろうか? とナクラは山形県名物の芋煮会のように村人に手料理を振舞う光景を妄想した。やめろ、それはテロだ。
「わかった。任せて」
「ゴブリンは地の洞穴のどこかに巣穴を作っているらしい。では頼んだぞ、ナクラ!」
そう言ってレクトはナクラの肩を叩いた。
と、クエストが更新された。「ゴブリンの巣を殲滅せよ!」である。
「父ちゃん、俺もナクラを手伝う!」
「兄ちゃんだけずるい! 私もゴブリンを倒せるんだから!」
「む、そうか……? うーん、ナクラ。二人を頼めるか?」
「あ、はい」
どうやらマールもパーティーに加わってくれるらしい。ブログ映えにNPCの知り合いを増やしたいナクラにとって、願ったり叶ったりである。スクリーンショットも撮っちゃおう。
ちなみにバッツは現在Lv9、マールはLv8である。バッツも最初はLv8だったので、ゴブリンを狩っているうちにマールのレベルも上がるだろう。
「それじゃあ、行きますか!」
「おう!」
「がんばろー!」
ナクラの掛け声に合わせ、マールとバッツが拳を上げた。
目指すは地の洞穴!
ナクラは「『地の洞穴』へスキップしますか?」というウィンドウにYESを選択した。村までの移動が地味に面倒だったのだ。どうせこの後嫌でもパーティープレイなわけだし……という気持ちもあったに違いない。
土の洞穴。茶色や黄色味が強い森の木々が生え茂る、どことなく土っぽさのある木々の生えている場所に、ででんと洞窟があった。
ナクラ達3人はその入口に到着した。
「地があるなら、水・火・風、あと光と闇なんてのもどこかにありそうだよねぇ」
「ん? ああ、『水の湖』に『火の山』、『風の草原』に『聖なる森』、あと『魔の森』のことか?」
「あー、光と闇じゃなくて聖魔か。なるほどなー既にみてたね私」
ナクラのメタ推測にバッツが答える。
得意げな顔のバッツに、さすがAI入りNPCは違うなと頷くナクラであった。
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