第16話 チクリン
ソファーに向かい合って座り、ようやくナクラが落ち着いたところでチクリンは話を始めた。
「ナクラ先生――んん、ゲーム内だしナクラでいいかな? 私もチクリンでいいから」
「あ。はい、チクリンさん」
「ナクラはNルートなんだっけ?」
「え、Nルート、ですか?」
ナクラは首をかしげる。あといきなり呼び捨てにされて距離感がつかめず動揺した。
「ああ、初心者だっけ? 最初にチュートリアルお姉さんを殺さずに進める、至って平和的なルートだよ。あ、告白して押し倒したりもしてないよね?」
「えっ、あ、はい」
「細かい分岐はあるけど、代表的なルートとして普通に遊ぶNルート、犯罪行為アリアリ暴れまわりのGルート、お子様厳禁エロエロなHルートの3つが有名だね。公式でも提示されてる3大ルートだ。もちろん私はGルートなんだけど」
何がもちろんなのか――と思いつつ、まぁそうだろうな、とナクラは納得した。書いた作品をみれば一目瞭然だった。そして
「チクリンさんはβテスターだったんですか?」
「ん? いやいや、私も初見プレイだよ。ただ、最初にとった行動がGルートに入るそれだったってだけさ。ゲームをぶち壊すようなプレイをしたらどうなるのかなって、気になっちゃって!」
「……なるほど」
やはりあの作品にしてこの作者あり、といったところか。
「それに、私の読者が望んでいるプレイスタイルは間違いなくGルートだからね」
「読者……」
「そ、読者視点で楽しませること。むしろGルートじゃなかったら師匠から怒られちゃうよ、『それは解釈違いだ』ってね」
クスクスと可愛らしく笑うチクリンに、ナクラはなるほどと頷いた。流石、参考になる良い事を言う。ただやってることはアレなんだけど。
「ねぇ、Nルートのメインストーリーってどんな感じなの?」
「え、えーっと。すみません。私まだそんなに進んでなくて……」
「え、オープニングセレモニーぶっちして遊んでたって聞いたのに」
「……ストーリーとは関係ないところで遊んでまして……いやほんと、まだ町に着いて、あと森に行ったくらいでして」
「そっかー、でも、フルダイブVRRPGってすごいもんね。私もうっかり忘れちゃうところだったもん」
そう言うチクリンの顔は、少し憂いを帯びた笑みだった。このゲーム、こんな表情もできるのかとナクラは自分の顔をぺたぺた触りつつ思う。
「私、現実世界じゃ体が弱くてあまり動けなくてね。だから、今とっても楽しいんだ」
「お、おう」
いきなりヘビーな事を告げられ、二の句を告げず女の子らしからぬ妙な返事をしてしまったナクラ。しかしナクラは悪くない、ボッチに他にどう返せというのか。無理ゲー過ぎる。
「それにしても、『基底世界』ではシャルロッテが普通に騎士団に居て仕事をしてるんだよ。変な気分だよね」
「そ、そうなんですか?」
「あっちでは私が殺した上に復活もできないよう教会も殲滅したんだ。ああ、知ってる? NPCはただ殺しただけじゃ経験値にならないんだ。一週間以内に復活拠点である教会を襲撃して、復活を阻止してようやく経験値になるんだよ」
「えっ」
つまりGルートでは初遭遇でシャルロッテをどうにか殺した後、何食わぬ顔でイチストへ行き、教会にて復活を阻止することが開始条件と言っても良いらしい。
「シャルロッテを殺すと、霊体が『フッ、しかし私は一週間すれば教会で生き返る。残念だったな! それを阻止するなら――』って消えながら教えてくれるんだよ」
なんというか……骨の髄、いや魂からチュートリアルお姉さんという事か。
そんなわけで、Gルートでは殺したNPCが復活しなくなったりするらしい。
「ちなみにゲーム内時間で7日だから、宿屋連泊すれば直ぐ復活するよ。ナクラちゃんも気に入らないNPCとか気軽にサクッとやっちゃえ☆」
「いやいやいやいや!」
当然、料理で白い狼を手懐けようとするほどの平和主義のナクラにそのようなこと出来るわけもないのである。(※ただしその料理が平和とは言っていない)
「まぁそれはさておき。このゲームは本当に素晴らしいね! 私の世界でいくらシャルロッテやヘンリー、ダグレスやルビー、ララやリリを殺しても、ナクラ先生の世界には影響しない。おかげでオンラインゲームだっていうのに、本当に好き勝手遊べるよ」
「へ、へぇー」
「いやー、さすがの私も他のプレイヤーに迷惑をかけてGルートやろうとは思わないからね。そもそも運営がGルート想定してたのがすごい。……まぁ、『基底世界』のNPCには保護がかかってて殺せない仕様なのはちょっと残念と思わなくもないんだけど」
発言内容の物騒さに帰りたくなってきたナクラ。
そんなこんなでかなりギリギリな対談をするナクラとチクリン。主に放送コードに引っ掛かる地雷原でタップダンスをしているのはチクリンである。まぁ、オフレコなフレンド部屋だし好きにすればいいと思う。でも私を巻き込まないでくださいね、とナクラは思った。
でもまぁ、初めてのフレンドである。話しているうちに、「あれ、私普通に会話できてる……すごい! シャルさんのおかげか! シャルロッテジム最強説!」とテンションが上がってくるナクラ。
「おっと、もうこんな時間。そろそろレベル上げに戻らなきゃジルがブチ切れちゃうな。それじゃあ最後に二人で
「はい! あ、定点スクリーンショットですね、昨日覚えました!」
ここ、狼ゼミでやったとこだ! と言わんばかりにナクラはSSを連写した。単にツーショットとか初めてとるので指が震えていただけというのもある。
「次元渡航システム――フレンド
「はい!」
そのように気軽に約束して良いのかナクラ。そいつGルートだぞ。
「それじゃ、またね。お互いブログがんばろうねー!」
「ありがとうございます!」
かくして、ナクラ初めてのフレンドとの語らいが終了した。
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