第15話 初めてのフレンド



 同レーベル作家、竹林先生の『カルマスキルオンライン』。主人公はお嬢様。プレイ初日にVRMMO『カルマスキルオンライン』の世界に閉じ込められる。デスゲームと化したその世界で、お嬢様がサイコパスな本性を露わにし、縦横無尽に暴れまわる――という作品だった。


「……竹林先生に会うの、怖くなってきたな!?」


 その全5巻を読み切り、加古――ナクラはようやく『オリジンスターオンライン』の世界にやってきた。



 と、ナクラがメールボックスを開くと、さっそくフレンド申請があった。

 相手は……チクリン! 竹林タケバヤシって読むんじゃなかったのか! と一瞬慌てたが、その読み方を教えてくれたのは編集の田中さん。であれば、チクリンは名前の読みを変えたキャラネームなのだろう。


 OKを返すと、すぐさま「フレンド:チクリンからコール申請」という表示が現れた。いわゆるお電話である! あわわ。少しテンパりながらもゆっくりと落ち着いてOKを選択。

 ぽいん、と効果音が鳴った。


『もしもし。名倉ばっこ先生ですか?』

「へ、ひゃ、ひゃい! そうです!」


 突然耳元に聞こえた声に、びくんっと体を震わせてナクラは返事した。ゲーム内初コール! そして知らない人との会話は、緊張してしまう。ナクラはそういう生態なのだ。


「えと、たけば、ちく……た……」

『タケバヤシです。すみません、キャラ名紛らわしかったですね』

「いえいえいえそんなことは!!」


 声だけの通話なので相手には見えていないのだが、ぶんぶんと頭を下げるナクラ。風が吹いて南半球で台風になるかもしれない勢いで。


『ゲーム内だしチクリンと呼んでください』

「は、はい。チクリンさん」

『えっと、それじゃ同レーベル作家同士、共有ワールドで会いませんか?』

「は、はい! えっと、どうしたらいいのかな……」

『こっちでフレンド部屋作って招待しますね』


 と、会話が終了した。ふぅ。なんとか生きてるぞ。とナクラは安堵のため息を吐く。

 が、直後に「フレンド部屋に招待されました」の通知が! あらかじめ言われていたにもかかわらずナクラは驚き飛び退いた。


 とにもかくにも、招待を受ける。こうして、ナクラは初めて共有ワールド――『基底世界』に足を踏み入れるのであった。


  * * *


 了承ボタンを押すとともに視界が光に包まれ、転移されたのだと分かった。

 眩しさが収まると、そこは木造建築の建物の中だった。窓の外は明るく、日が差している。室内は質素な個室で、ソファーやテーブルがあり、そこにサラサラの黒髪に白いメッシュを入れた平たい胸の女の子が座っていた。

 女の子はナクラをその赤い瞳に収めると、ぴょんっと立ち上がり、カチコチに固まっているナクラの目の前にやってきた。


「やぁ、初めまして。チクリンです」

「……っ、あ、そのっ、にゃっ、ナクラです」


 チクリンを前に、噛んだナクラは涙目になった。

 ナクラが緊張するのも無理はない。ただでさえ作家戦闘力でまけているのに、よりによってその姿は、服装こそ違えど、『カルマスキルオンライン』の主人公『サイコパスお嬢様』そのものだったのである! コワイ!


「どうかなこのアバター。ウチのキャラに似せてあるんだけど、可愛いでしょ?」

「……こ、殺さないでください!」

「あっ、ごめんごめん。私の本読んでくれてたんだね」


 ぱっと両手をあげ、危なくないよアピールをするチクリン。しかしナクラは騙されない。お嬢様はそこから使い魔のマントでナイフ投げによる不意打ちアンブッシュをしてくるのだ!……ん? マントじゃない。ナクラは少し落ち着いた。


「『基底世界』で同意のないPvPはご法度だからね。まぁ、落ち着いて」

「あ、は、はい」

「ここはとても平和な場所さ。私の小説とちがってね」


 そんな冗談を言ってニヤリと笑うチクリン。だがその笑顔はやはりサイコパスお嬢様のようで、つい先ほどに読了したてほやほやのナクラにはちょっと刺激が強かった。


――――――――――――――――――

(竹林先生のモチーフは、『ジェノサイドオンライン』の、たけのこ先生です。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054891628084

 ※ 本人から許可をもらっています)

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