第13話 素晴らしい妄想



 かくして、魔の森からシャルロッテのいるイチストの町に帰ってきたナクラ。


 そのLvだが……フェンリルを倒したことにより、Lv差ボーナスもあってLvが極端に上がりにくくなる10から上を20も突き抜け、Lv30まで上がっていた。

 元々Lv8のルーキーが、Lv80のβラスボスを倒したのだ。低レベル攻略ここに極まれり、オフラインゲーではたまによくあるやりこみプレイだ。

 無論、オープン初日に初見でフェンリル撃破したのはナクラの他に居なかった。後に公式が発表するフェンリル最速撃破ランキング1位に燦然と輝く記録である。


 町の門を潜り抜ける。装備が血まみれなので、呼び止められて事情を聴かれるべきところであるのだが、ナクラはプレイヤー。モブNPCの門番にそれを指摘する権限があろうはずもない。だが、唯一指摘できるナクラの知り合いがいた! この町に! それも、ナクラの目的地に!


「シャルさーん、料理について教えてください!」

「おお、ナクラ!……なんだその酷い恰好は?」

「え? うわわわ!? なにこの血まみれの服! うえええ、やだぁ!」

「……洗濯してやろうか? 騎士団ではそのような汚れ、日常茶飯事だからな」

「お願いします!」


 素晴らしい! さすがはチュートリアルお姉さんの名を欲しいままにするAI付きネームドNPCシャルロッテ、見事ナクラの問題点を指摘してくれた!

 そしてナクラの装備は一瞬で元の「初心者の服」「初心者の靴」に戻った。さすがゲームだ、洗濯も一瞬で終わらせてくれるらしい。


「どうした一体……武器が壊れたのか? ふむ、それなら鍛冶屋で直すか、新しい武器を買うのがいいだろう。壊れかけでよければ、騎士団で使っていたものを格安で売っても良い、間に合わせにしかならないが」

「あ、ありがとうございます! 買わせてください!」


 そして更に武器を補充してくれた。初心者救済、詰み防止の一環としてLv10未満のルーキーにはタダで壊れかけの武器を補充してくれる。ただし、ナクラのようにLv30ともなればベテランなので有料だ。


「いい加減、その服と靴も買い替えた方が良いんじゃないか? 防具屋に案内しようか」


 ついでにベテランなのに未だ初心者装備を身に着けていることをさりげなく指摘してくれるシャルロッテ。親切とチュートリアルの塊である。


「あ、えーっと、それはまた今度で……それよりも、外で料理をする方法を教えて欲しいんです」

「料理か。ふふ、家庭的なんだなナクラは」


 おっと、ナクラはどうやらフェンリルの事をさておき「料理について教えてもらう」という元々の目的を忘れていなかったようだ。逆にフェンリル――偶然鉢合わせた白い狼なんぞ、どうでもいいのかもしれない。



 こうして無事、ナクラは料理について知る事ができた。料理レベルが3あればいいらしい。早速シャルロッテに教えてもらった雑貨屋で料理道具を買って、余ってるボーナスポイントをつぎ込むとしよう――


「……え? Lv30? なんで??」


 と、ここでようやくナクラは気付く。自身のレベルがとんでもないことになっていたことに。そして、伊達に小説家はやっていない賢いナクラは、光よりも早くその原因に思い至った。


「そうか、狼さんのイベント! お礼で大量の経験値をくれたんだ……!」


 違う、いや、違わないのか? 確かにフェンリルイベント大事件であるし。しかし称号のところを見ればその勘違いも晴れるはずである。なにせそこには「イチストの救世主」「ジャイアントキリング」「暗殺者」「狼の天敵」「狼の王」「魔の森のヌシ」と、あからさまにボスを倒した物騒な称号が並んでいるので! ……ナクラはステータス表示をスクロールし、称号を目にすることになった!


「わわ、称号もすごい! なにこれ、あのイベントもしかして超レアだったの? ふふふ、これはブログ記事に書いて自慢しなきゃ! 看取ったことであの狼さんを私が倒したことになったのかなぁ?」


 ナクラは小説家である。ストーリーを補完するのは得意なのだ。

 故に、ナクラは考えた。


 「ジャイアントキリング」=狼を看取ったことでたまたまついた。

 「暗殺者」=自分も気づかないうちに何か殺してた?

 「狼の天敵」=食材にウルフ狩りまくってたからいつの間にかついてたのだろう。

 「狼の王」=白い狼のお礼に違いない。

 「魔の森のヌシ」=白い狼から地位を譲り受けた。

 「イチストの救世主」=あの狼がイベントでイチストを襲うのを先回りし解決した!


 2割くらいは合っているのが微妙に腹立たしい! ナクラの脳内では『人間に恨みを持つ白い狼が死の間際にイチストを襲うハズだったが、私の機転と美味しい料理で恨みを晴らし、心を開かせ、その死を看取った。お礼に色々貰った』というストーリーが生まれていた。素晴らしい妄想ですね、小説家にでもなったらどうですか? あ、小説家でしたね。


 ……シャルロッテ、早く来てくれ。なぜオンライン要素すらあるこのゲームで、ナクラはまだ誰ともパーティーを組んでいないのですか? 誰かNPCが居れば、その人間よりも人間臭いと称される見事なAIでナクラに突っ込みを入れてくれたであろうに! お前が!! 毒で!! βテストのラスボスを単独撃破したんだよ!! と。

 いやNPCならβテスト云々は言わないけど。


 ナクラは綺麗になった服でイチストの町をスキップで散策する。

 そうして花屋の前を通りかかったあたりで、不意に思い出した。自分が仕事でこのゲームをやっているという事を。


「あ、そーだ、記事書かなきゃ! 忘れないうちに!」


 ナクラはどっこいしょと道端に座ってメニューコンソールを開いた。



―――――――――――――――

【現在のナクラのステータス】


 名前 : ナクラ

 職業 : ヒーラー(Lv30)

 HP :215/215

 MP :240/240


 STR: 35

 AGI: 14 ( -80)→ 1

 VIT: 90

 INT: 60 (-100)→ 1

 DEX: 13 ( -50)→ 1

 LUK: 15 ( -50)→ 1


 ※「()内は料理効果による一時的な補正値」


 ボーナスポイント(残:59)


 スキル:

  光魔法 :Lv 1

  回復魔法:Lv 4

  火魔法 :Lv 1

  即死魔法:Lv 0(習得可)

  毒魔法 :Lv 0(習得可)


  料理  :Lv 0(習得可)

  毒吸収 :Lv 1

  錬金術 :Lv 5

  毒手  :Lv10(MAX)


 耐性:

  猛毒耐性:Lv10(MAX)

  苦痛耐性:Lv10(MAX)

  麻痺耐性:Lv10(MAX)

  酸耐性 :Lv10(MAX)

  呪い耐性:Lv 3

  火耐性 :Lv 3


 装備:

  壊れかけのメイス

  初心者の服      備考:綺麗になったけどLvに合ってない

  初心者の靴      備考:綺麗になったけどLvに合ってない


 称号:

 「ベテラン」Lv25を超えた

 「シャルロッテの知り合い」シャルロッテと知己を得た

 「百連死:毒」毒で連続100回死んだ。若干耐性が付く


 「イチストの救世主」フェンリルを撃破した証

 「ジャイアントキリング」大型モンスターへの攻撃力アップ

 「暗殺者」毒成功率がアップ

 「狼の天敵」ウルフ系へのダメージ超アップ

 「狼の王」Lv80までのウルフ系モンスターをテイム可能

 「魔の森のヌシ」『魔の森』の素材をどこでも自由に召喚できる(MP消費)


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