第12話 『つくね』



「やっぱり、おなかが空いていたのね」


 フェンリルが『つくね』を食べると、おとなしく伏せて、動かなくなった。

 故に、ナクラはフェンリルが愛情たっぷりの料理で満ち満ちて大人しくなったものだと判断した。……よく見れば小刻みに震え、毒の症状が出ている。


 しかし、そう、しかし即死したわけではない! フェンリルにはなにせ毒耐性の上位、猛毒耐性がLv5もあるのだ! それにHPもVIT生命力も豊富。βボス自慢の自動回復もあり、まだなんとかフェンリルは耐えていた!

 おのれ、よもやこんな毒を仕込んでいたとはヒーラーの誇りは無いのか! 武人の風上にも置けぬヤツ! これだから人は滅ぼさねばならぬ! フェンリルはふつふつと、いや轟々と怒りの炎を燃え上がらせ、自動治癒するのを待った。このままなら、ギリギリ助かる――しかし、その展望は甘すぎた! そんな無防備な姿を晒し、プレイヤーであるナクラが何もしないはずはなかったのである!


「怯えなくていいわ。よーしよしよし」


 ナクラは、そんな伏せて震えている白い狼の頬を優しくなでた。もふもふ、と柔らかい。本当に野生の狼だったらもっとベタベタしてるところだが、やはりゲーム。最高だ。おなかも撫でてみたりする。抵抗はない。毛の中にわしゃわしゃ手を突っ込んで、存分に触らせてもらう。


「ふっ、やはりイベントだったか……このナクラの目に狂いはなかった……!」


 さもなくばこんな大きい狼がこんな無抵抗で撫でられるはずもない。おお、まだ震えているではないか! かわいそうに、これは小さいころ人間に酷いことをされたトラウマがある設定とかに違いない。ナクラは愛おしくなりさらに撫でた。


 実際はもちろん毒で動きを封じられた上に腹を撫でられるという屈辱的な行為を受け、毒だけでなく怒りゲージがボルケーノする勢いで憤死しそうなだけだったのだが。

 フェンリルは言葉を話さないがゆえに、ナクラにその気持ちは伝わらない。

 ナクラはたまに自分の中で勝手に気持ちを補完し、人の話を聞かないへきがある。喋らない相手では尚更。


 自身の書く小説の中でならむしろ良いのだが、現実では小学校の通知表で「もっと人の話をよく聞きましょう」と先生から6年連続でコメントを頂いた記録があるレベルの妄想力だ。

 余談だが、通知表といえばナクラの家庭科の成績は5段階評価の3だった。たまに4になることすらあった。料理は壊滅だが裁縫等はそこそこできたのである。先生もマイナス5とかつけてやりたかったに違いないが、評価基準というものがあるのでな……皿洗いは普通にできてたし……一応真面目に授業は受けてたし……


 ……さて、ナクラは考えた。折角なので、この白い狼を撫でているところのスクリーンショットを取りたい。絶対これイベントだもの。と、ナクラはフェンリルを撫でつつ、指でフレームを――取ろうとして、あれ、これ両手でやったら撫でられないぞ? と混乱した。


 なので、フェンリルを左手で撫でつつ、右手でヘルプを確認してみる。スクリーンショットを取る方法があるはずなのだ。えーっと……お、あったあった。定点スクリーンショット。


「よし、これで――ぱしゃっとな!」


 まさにその瞬間、フェンリルが死亡し、息を引き取った。


 Lv80のフェンリル。即死こそしなかったものの、毒ダメージと、さらにはナクラの『毒手』による追撃を受け、その膨大なHPをどんどん減らしていった。……おお、なんということ! そしてまさに、スクリーンショットを取った瞬間にHPが0になり討伐されてしまったというわけである! 哀れフェンリル、君の事は忘れず記事にしよう!


「……! 限界だったんだ……きっと寿命。そっか、白髪しらがだったんだねこれ」


 違う。ナクラよ、そうじゃない。限界だったのは寿命でなくHPだ。お前が殺したんだ。そう指摘するNPCもフレンドも、ナクラのそばには居なかった。仮にもオンラインゲーなのに。なにもかもボッチが悪いんだ。


「つくね。君のことは忘れない……!」


 しかも勝手に名前を付けていた。

 つくねを食べて懐いたからつくね。なんと単純で安直なネーミングセンス! まるで犬猫につける名前だ。

 無論懐いたわけではない、毒で動きを封じられただけだ。フェンリルは怒って良い。まぁ、怒って出てきた結果毒で死んだわけだからフェンリルは詰みだったのでは?


 ナクラは自分がフェンリルを倒したことに気づかず、壊れたメイスを回収した。その際うっかりフェンリルの死体も回収して素材化してしまったのだが、てへぺろ。……フェンリルはたたって良い。呪い耐性の糧になるだけかもしれないが。



――――――――――――――――

【現在のナクラのステータス】


 名前 : ナクラ

 職業 : ヒーラー(Lv30) 備考:Lv差ボーナスも込みで大量経験値を得た。

 HP :215/215

 MP :240/240


 STR: 35

 AGI: 14 ( -80)→ 1

 VIT: 90

 INT: 60 (-100)→ 1 備考:仮にも後衛魔力職。大幅UP

 DEX: 13 ( -50)→ 1

 LUK: 15 ( -50)→ 1


 ※「()内は料理効果による一時的な補正値」


 ボーナスポイント(残:59)


 スキル:

  光魔法 :Lv 1

  回復魔法:Lv 4

  火魔法 :Lv 1

  即死魔法:Lv 0(習得可)

  毒魔法 :Lv 0(習得可)


  料理  :Lv 0(習得可)

  毒吸収 :Lv 1

  錬金術 :Lv 5     備考:自作した毒でボスモンスターを撃破した

  毒手  :Lv10(MAX)備考:フェンリルを撃破した


 耐性:

  猛毒耐性:Lv10(MAX)

  苦痛耐性:Lv10(MAX)

  麻痺耐性:Lv10(MAX)

  酸耐性 :Lv10(MAX)

  呪い耐性:Lv 3     備考:フェンリルは泣いた

  火耐性 :Lv 3


 装備:

  壊れたメイス        備考:毒とフェンリルに壊された

  狼血まみれ初心者の服    備考:くさい。不衛生。やばい

  狼血まみれ初心者の靴    備考:くさい。やばい。不衛生


 称号:

 「ベテラン」Lv25を超えた。

  ( 備考:Lv10以上になったのでルーキー消滅 )

 「シャルロッテの知り合い」シャルロッテと知己を得た

 「百連死:毒」毒で連続100回死んだ。若干耐性が付く


 「イチストの救世主」フェンリルを撃破した証

 「ジャイアントキリング」大型モンスターへの攻撃力アップ

  ( 備考:Lvが2倍以上かつ20以上差のあるモンスターを撃破 )

 「暗殺者」毒成功率がアップ

  ( 備考:毒を用いてボスモンスターを撃破 )

 「狼の天敵」ウルフ系へのダメージ超アップ

  ( 備考:フェンリルノーダメージ撃破特典 )

 「狼の王」Lv80までのウルフ系モンスターをテイム可能

  ( 備考:フェンリル単独撃破特典 )

 「魔の森のヌシ」『魔の森』の素材をどこでも自由に召喚できる(MP消費)

  ( 備考:フェンリル単独ノーダメージ撃破特典 )



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