第7話 実食。……もしかして?


 ナクラハンバーグ1号。一見するとところどころ焦げて紫色のような緑色のようなただの名状しがたい何かである。


 正式に料理を語る名前を付けるのであれば、『まるごとウルフと謎茸、スライムと道端で拾ったアレコレをぐっちゃぐちゃにした炒め煮込み風焼き焦げた残骸』であろうか。

 とにもかくにも厨房にはオドロオドロしい、まるで死骸を弄ばれたウルフやスライムの怨念じみたオーラすら漂っているようだった。


「ふぅ……やりとげた」


 そしてその物体Xを満足げに見るナクラ。それもそのはず。これはナクラが初めて、自分一人で、好きなように作り上げた料理だからである――!


「今後は私も料理系の話が書けちゃうかも!」


 ……幸か不幸か、小説家『名倉ばっこ』の著書に料理系の描写はない。具体的な料理描写は書いたことが無かったのだ、完全に分からなかったので。知らないとは時に残酷なことであり、救いでもある。



「では早速! いっただっきまーす!!」


 ナクラは厨房にあった菜箸を使い、ナクラハンバーグ1号を食べることにした。箸をぶすっと柔らかそうな場所に突き刺すと、ジュッと焼けた鉄を水に落としたかのような音がした。箸の端が少し溶けちゃったのである。なぁにむしろ丁度いい長さになった。


 が、ナクラは気にせずハンバーグ(?)を丸ごとつまみ、ねちょりと口に運んだ!


「……!! すごい、食べたとたんに体が軽くなった!!」


 うっかり『簡易』で食べてしまったので、一口食べたら全部がポリゴンになって消えてしまった。味は分からなかったのが悔やまれたが、それはさておきナクラは感動した。

 料理にはちょっとした・・・・・効果が付く。おそらくこれは料理のバフ。きっとAGI(素早さ)やSTR(筋力)が上がるといった効果だろう。見た目からは思いもよらない効果だ。


 と、タイマーが表示されているのに気づく。きっと残りの効果時間――と思いつつ、そのタイマーの上に書いてある文字に首を傾げる。


「……『復活まであと30秒』……?」


 ふと、視界が良好なことに気が付いた。やけに足元がよく見える気がする。

 不思議に思いつつ、足元を見ると――そこには青い顔で泡を吹いてピクリとも動かないナクラが居た。


「えっ?」


 よく見ると、体が透けていた。そう。足元を不明瞭にしていたおっぱいも。だから視界が良かったのだ……


「私……死んでる!? なんで!? どうしてぇ!?」


 驚いているうちにCTクールタイムを終え復活するナクラ。安全地帯――イチストの町中なのでその場復活である。


「……もしかして……」


 そして、ナクラは驚愕の事実に気付く。そう、それは鶏が先か卵が先かの答えに等しく、宇宙の始まりはビックバンという程に根源的な真実に。


「……料理に込める愛情が……足りなかったというの!?」


 惜しい、地球とアンドロメダ銀河くらい離れたニアミスである!

 料理は愛情という。しかしそれは『ただなんとなく気持ちや念を込める』という意味ではなく、『食べる相手のため手間暇を惜しまず美味しくするために努力する』という意味である!

 ナクラはそれに気付けなかったのだ! 残念無念、また来世!



「今度こそ、作って見せる! 愛情たっぷりハンバーグを!!」


 幸いな事に低級モブNPCの料理人は何も言わない。なぜなら先程のナクラハンバーグ1号の実食は味見行為であり、まだ1回目の料理行為が終わった判定になっていないのである。

 なんてこと! これはカスタマーサービスに報告すべきとんでもない不具合だ!


「見ててね料理人さん、今度こそ美味しいハンバーグを作ってみせるから!」


 そんなわけで、NPC料理人はそっとナクラの暴虐を見守っていた。


  * * *


「やった……死んでない! できた、遂に完成したよ、真・ナクラハンバーグが!」


 そうして集めた食材をすべて使い果たし、途中「ちょっと材料補充してきます! すぐ戻りますね!」と抜け出し更に食材を集めたりもした101回目の挑戦にてついにナクラはハンバーグを食べて生き残ることに成功したのだ!!

 なぜか体がすごく重く感じるものの、達成感で気持ちは凄く軽かった!


「料理人さん、できました!! これが私のハンバーグです!!」


 ナクラは宣言した。料理が終わったと。これを受け、料理の湯気・・や飛び散った食材によりボロボロになった厨房の中、NPC料理人はフッと小さく笑う。ずっと見守ってくれていた料理人に、ナクラはあたかも苦楽を共にした戦友のような感情を抱いていた。

 そして、NPC料理人は口を開いた。


「出禁だ。二度とウチの店に来ないでくれ!!」

「えっ」


 それは当然の宣言だった。





―――――――――――――――――――――――――

【現在のナクラのステータス】


 名前 : ナクラ

 職業 : ヒーラー(Lv8)    備考:食材を狩ってたら上がった

 HP :175/175

 MP : 10/ 40


 STR: 15           備考:食材を狩ってたら上がった

 AGI:  4 ( -80)→ 1

 VIT: 80           備考:何度も死に、頑丈になった

 INT: 10 (-100)→ 1 備考:なぜか基礎値が減った。解せぬ

 DEX:  3 ( -50)→ 1

 LUK:  4 ( -50)→ 1 備考:何度も死んだせいか下がった


 ※「()内は料理効果による一時的な補正値」


 ボーナスポイント(残:16)


 スキル:

  光魔法 :Lv 1

  回復魔法:Lv 4      備考:指を良く切ったのを治した

  火魔法 :Lv 0(習得可) 備考:火が身近。素養を得た

  即死魔法:Lv 0(習得可) 備考:死が身近。素養を得た

  毒魔法 :Lv 0(習得可) 備考:毒が身近。素養を得た


  料理  :Lv 0(習得可) 備考:まともに料理を完成させたことはない

  毒吸収 :Lv 1

  錬金術 :Lv 3      備考:強い毒を生み出した

  毒手  :Lv 8      備考:手ごねハンバーグ


 耐性:

  猛毒耐性:Lv10(MAX) 備考:特に語るまでも無い

  苦痛耐性:Lv10(MAX) 備考:特に語るまでも無い

  麻痺耐性:Lv10(MAX) 備考:特に語るまでも無い

  酸耐性 :Lv10(MAX) 備考:特に語るまでも無い

  呪い耐性:Lv 2      備考:食材たちの怨嗟

  火耐性 :Lv 3      備考:やけどにご用心


 装備:

  初心者のメイス

  初心者の服

  初心者の靴


 称号:

 「ルーキー」始めたばかりの初心者。Lv10で解除。デスぺナ軽減

 「シャルロッテの知り合い」シャルロッテと知己を得た

 「百連死:毒」毒で連続100回死んだ。若干耐性が付く



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