第6話 はじめてのVR料理



 ナクラはシャルロッテと出会った森――は少し遠かったので、町の近くの『魔の森』へと食材を狩りに良き、見事様々な食材を入手してきた。


 ついでに討伐クエストもこなしたことになり所持金も一気に500Gを超える。気分は小金持ち、とはいえ、安い食事で30G、安いナイフでも1本100Gなので、気を抜けばあっという間に消える金額だった。


 かくして、食事処『オルタンシア』に再び舞い戻ってきたナクラ。カウンターに10Gを叩きつけ、言う。


「料理がしたいので厨房を貸してください!」

「いいぜ――ん? なんだ嬢ちゃんシャルロッテ様の知り合いか。なら最初はタダにしてやるよ。それで難易度は――」

「『スーパー・リアリティモード』!!」

「ふむ。自信があるってこったな。いいだろう、腕前を見せてくれ」


 むふー、と得意げに鼻息を漏らしつつ払わず終わった10Gを懐にしまい、料理人についていく。隅っこを貸してくれると言っていたが、堂々と真ん中を貸してくれる辺りはさすがゲームと言うべきか。


「お前の料理の腕前を見せてくれ」

「……ふふ、では始めさせていただきますとも!」


 メニューからストレージを選択。森で狩ってきた0円食材を並べる。床に。

 それは、狼やらスライム、マッドマッシュといったモンスター達。それに、道端に生えていた茸や草――多分、食べられるだろう! とナクラが適当に採取したものだ。

 ……だが、床に置くのは衛生的に宜しくないのではなかろうか? いやそもそもが地面に落ちたり生えていたものだけれども。


「ではまず……鍋と包丁をお借りして……!」


 台所を探索し、三徳包丁や中華包丁、柳包丁といった多数の包丁を見つけるナクラ。どの包丁を選ぶか、そこからすでに料理は始まっている。


「これだぁああ!」


 そんなナクラが手にしたのは――パン切り包丁! ギザギザな刃で柔らかなパンをがっちりとらえ、切り裂く包丁である。選んだ理由は『強そうだから』!


「次にっ! 鍋っ!」


 今度は床下収納を開け放ち、鍋らしきものを探す。探す。探す――見つけた!

 ……否、それはボウルである!!


「君に決めたぁああ!!」


 しかし料理初心者のナクラにはその区別がつかなかった! おマヌケ! なんたるシット! おお食の神よ、どうかナクラに僅かばかりの祝福を与えたまえ……!


「む、しまった。まな板が遠い!」


 と、ここでナクラの足が止まる。包丁と鍋(ボウル)を見つけたのは良いのだが、厨房がナクラの身長に比べて高い設計だったのだ。これは足場を用意せねばなるまい。

 さっき見つけたこれでいいか、と、ナクラは先程見つけた高さの違う円柱状の鉄のそれを階段状に床に置いていく。うん、それが鍋だ。料理人は怒っていい。

 幸か不幸か低級NPCの料理人はただナクラの料理をただ見つめるのみ。


「今度はちょっと高すぎた……まあぃいか。少し手元が見づらいけど」


 ナクラはまな板の上にぐちゃっと毛皮付きの狼を置いた。べちょりと血と内臓がまな板の上に広がる――NSFWフィルターにより、グロい箇所はモザイクがかかってくれたので、ナクラは少しおっかなびっくりだが料理を続けることができた。できてしまったのである。


「たんたんとたたん、たんとんとん♪ おいしくなぁれ、おいしくなぁれ♪」


 有象無象の区別なく、ナクラは包丁で狼をミンチ肉にする。パン切り包丁の刃が欠けてミンチに混ざるが気にしない。無駄にデカいおっぱいとモザイクで見えないし。


「よぉーし、これはハンバーグ、そんな予感がする!」


 ここでナクラは中途半端な料理の知識を披露した。ハンバーグにはツナギを入れる必要がある。……もちろん、これが服のツナギでないことはナクラには百も承知である! 舐めないでいただきたい、これでも小説家なのだ!


「このねばつく茸を混ぜるのだ!」


 白くべたつく粘液でしっかりくっつくであろう。ナクラは茸をつかんだ手がなぜかかゆくなったので、自分にヒーリングをかけて料理を続けた。


「たんたんとたたん、たんとんとん♪ おいしくなぁれ、おいしくなぁれ♪」


 素晴らしい。なんと可愛い歌声か、16時間かけて作り上げた可愛らしいナクラの姿は、首から下に目を向けなければ、まさに天使のおままごとである――訂正。今頬に返り血が飛び散った。



 ……流石にここからはダイジェストでお送りしよう。



「そうだ! スライムの粘液とかとろみがついてよさそうじゃない?」


 ハンバーグを作っていたはずなのだが、いつの間にシチューに変更されたのか?

 せめて水を入れて、雑草は抜いてくれ。



「火がしっかり通るように最大火力でじっくりことこと!」


 魔石コンロの最大火力で色々混ぜたボウルを火にかけるナクラ。おそらくじっくりの定義が間違っている。

 おっと、熱とスライムの体液でボウルがとろけ、いやまて。それは一回り大きいボウルであって予備の鍋ではない。こんなこともあろうかと! とドヤるんじゃない。



「……あ、煙……げほっ、こ、これだけ、火を通せば……いいよねっげほっ」


 おや? どうやら固形物になったようだ。これは一周まわってハンバーグなのでは?

 色と形と毒々しい煙、そしてドブ以下の吐き気を催すニオイに目をつむれば、の話だけれど。




 ――かくして、遂にできたのだ。ナクラハンバーグ1号が!



――――――――――――――――――――

【現在のナクラのステータス】


 名前 : ナクラ

 職業 : ヒーラー(Lv4)

 HP : 15/28    備考:なぜかわからないけど減った

 MP : 56/60    備考:ヒールでちょっと使った


 STR: 10

 AGI:  3

 VIT:  9

 INT: 15

 DEX:  3

 LUK:  6


 ボーナスポイント(残:8)


 スキル:

  光魔法 :Lv 1

  回復魔法:Lv 2


 耐性:

  呪い耐性:Lv 1


 装備:

  初心者のメイス

  初心者の服

  初心者の靴


 称号:

 「ルーキー」始めたばかりの初心者。Lv10で解除。デスぺナ軽減

 「シャルロッテの知り合い」シャルロッテと知己を得た

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