第5話 装備とアイテムと、そして料理。



 冒険者登録をさくっと済ませたナクラ。

 あとはメニューコンソールからいつでも『基底世界』へアクセスできるので、オープニングセレモニーまでの間町を散策することにした。



「お、鍛冶屋なんてのもあるんだ。装備を作るミニゲームもあるって聞いたけど、ちょっとやってみようかな。……す、すいませーん」


 シャルロッテとの会話ですっかり人と話す感覚を取り戻したナクラは、鍛冶屋のずんぐりむっくりしたNPCドワーフに恐る恐る話しかける。


「ん? なんだい嬢ちゃん。鍛冶屋に用事か?」

「え、えーっと……鍛冶のミニゲーム、やりたい、です……? でいいのかな?」

「鍛冶をやってみたいだって? ん、シャルロッテ様の紹介か。まぁいいぜ、本当は1回10Gだが初回はタダにしてやろう」


 どうやらシャルロッテの紹介という事になったらしい。こんなところでも名前が出てくるとは、さすがチュートリアルお姉さんだ。


「鍛冶の仕事は難易度で変わってくる。『簡略』『イージー』『ノーマル』『ハード』『ベリーハード』『スーパー・リアリティモード』だ。どうする?」


 『簡略』はミニゲームをすっ飛ばし、そこそこの結果を得る。

 『イージー』~『ベリーハード』はミニゲームの難易度と結果で成果が変わる。

 ここまではナクラも名前を聞いただけですぐに分かった。そして、


「『スーパー・リアリティモード』……?」

「おいおい本気か? 素人がいきなりやるもんじゃないぜ。けどまぁ、やりたいってんならやらせてやる。シャルロッテ様の紹介だからな」

「えっ、あっ」



 どうやら鍛冶屋のドワーフはAIの入っていない低級モブNPCらしく、単純にキーワードに反応して『スーパー・リアリティモード』をやることになってしまった。

 ……名前順からして、最高難易度である。ナクラはドワーフのNPCにつれられ鍛冶場に入った。そのとたん、ずしんと体が重くなった気がした。


「お前のやり方で鍛冶をしろ、見ててやる」

「えっ」


 ナクラは鍛冶場を見てみる。……このペンチみたいな道具は何に使うんだろうか。材料は……この砂? 砂鉄だろうか? え、どうするのこれ。ナクラは立ち尽くした。


「あの」

「ギブアップか?」

「いやその、やり方を教えてくれたりは……?」

「お前のやり方で鍛冶をしろ、見ててやる」

「えぇ……教えてくださいよ」

「お前のやり方で鍛冶をしろ、見ててやる」


 突き放すような定型文返答。これだからAIの入ってない低級モブNPCは。

 とりあえず、ナクラにも小説家としてのうっすらとした知識がある。鍛冶ということは、鉄を溶かして、叩いたり型に流し込んだりで剣の形にして、なんやかんや出来上がりのはずだ。ナクラは腕まくりをして鍛冶場に挑んだ――





 ――結果、『粗悪な鉄インゴット』が出来た。

 頑張ったのだ、ナクラは。坩堝るつぼを見つけ、砂鉄を入れて、炉に突っ込んで溶かすところまではできたのだが……そのあと髪が燃えて、炎ダメージを受けたのをヒールで回復し、てんやわんや。NPCに「助けて!」と言ったら「ギブアップか?」と聞かれ、「もうそれでいいから助けて」と頷いた。結果出来たのが『粗雑な鉄インゴット』というわけだ。


 髪はヒールで元に戻っていた。ああ、なんて災難。どうやら『スーパー・リアリティモード』とは現実準拠+ゲームのスキルや身体能力で好き勝手やらせてくれる機能らしい。

 確かに素人がいきなりやるもんじゃなかった。


「使用した素材の代金を貰うぞ」

「えっ、タダじゃないの!?」

「払わないというのであれば、作った物を置いていけ」


 手元の鉄インゴット。しかし折角頑張って作った初めてのそれを手放すのはあまりにも惜しかった。なにせ、ナクラが頑張って挑戦した結果なのだ。

 ……ナクラは初期の所持金ギリギリで『粗雑な鉄インゴット』を買い取る。


 ……所持金が残り5Gになってしまった。



「はぁ、まぁゲームなんだしすぐ稼げるよね」


 と、そういえば満腹度が減少していることに気づいた。腹が減っては戦はできぬ、ナクラは食事処『オルタンシア』へ行ってみることにした。……5Gで買える食事があることを祈って。



「あのー、5Gで買えるご飯ってありますか?」

「あん? 金がないなら食材を用意して自分で作るこったね、お嬢ちゃん」

「あーやっぱ……り? え、料理も作れるの!?」


 まぁ、無かったわけであるが。代わりに素敵な出会い(『料理システム』との)を果たせたので結果オーライである。

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