第3話 シャルロッテ
頭を抱えつつも、加古は結局ナクラのアバターを作り直すことなく『オリジンスターオンライン』の世界に降り立った。
これだけの可愛い美少女を消すことなど、加古にはできなかったのだ……
降り立った場所は、森の中にある遺跡のようである。
ふわりと風が吹き、飛んできた木の葉が加古の――ナクラの頬をくすぐった。
青い草のニオイ、暖かな太陽光。済んだ空気の味とニオイ。五感をフルに使う、フルダイブVRならではの、まるで本当に異世界に降り立ったかのような心地。
「うーん、世界って感じ! やっぱりVRはいいなぁ……うぉっととと」
腕を上げて伸びをすると、小さな体に大きなお胸というアンバランスな体のせいで転びそうになった。完全に物理演算を行っているわけではないようだが、まさか胸の大きさが行動に影響するとは中々に厄介だ。足元も見えないし。
少し体を慣らそうとラジオ体操を始めるナクラ。小さくジャンプしたときにぽよんぽよんと柔らかく揺れるおっぱいに、開発者の本気を感じとった。尚、これだけ揺れても胸が痛くないあたりはやっぱりVRなんだな、と実感するナクラであった……まぁ、走るたびにおっぱいが揺れてダメージを受けても困るけども。
とりあえずここからどうすればいいのだろうか。と、足元を見ると、白いレンガがナクラを囲うように円形に並んでおり、ご丁寧に「円の外まで歩いてみよう」と光る文字が浮いていた。とりあえず指示に従ってその円から出てみると――
「おい、誰かいるのか?」
どうやら円から出るのがイベントフラグであったようで、出たとたんに声を掛けられた。声の方を見ると、そこには女騎士が居た。金髪ポニーテールの麗しいお姉様だ。ナクラは「しまった金髪ヒロインだと……くっ、髪色が被ってしまった」と嘆いた。
「こんなところにいるとは……貴様、何者だ?」
「…………あっ、そのっ、か、ナクラです」
久しぶりに対面で人と話をするナクラ。いくらVRで相手がNPCとはいえ、緊張するものはするのだ。これが。
「そうか、ナクラというのか。私はシャルロッテ。シャルと呼んでくれて構わぬ……さて、それで何故ナクラはこの遺跡に?」
「あ、えーっと」
ナクラが回答に詰まっていると、シャルロッテの手前に光る文字が浮かんできた。
『わからない。記憶がないんだ』『お前こそどうしてここに?』『そんなことよりお腹がすいたよ』……どうやら選択肢も選べるらしい。なんという親切設計、コミュ障にも優しいぞ神ゲー認定だこれは。撮影撮影。えーっと、簡易スクリーンショットの撮り方は片目を閉じ、指でフレーム作ってもう片方の目も閉じて……「ぱしゃり」っと。
ナクラはVRゲーにおける基本操作で撮影を行い、満足げに頷いた。
「おい、何をしている?」
「あっ、す、すいませんっ」
怪訝そうに聞いてくるシャルロッテ。ナクラは思わず謝ってしまう。怒らせてしまったか?……とはいえ、依然として選択肢は浮かんだままだ。とりあえずここは選択肢に従って回答してみよう。
「……そんなことよりお腹がすいたよ」
「む? 空腹なのか。仕方ない、私の弁当だが、パンを分けてやろう」
「えっ、あ、ありがとうございます」
なぜそれを選んだのかといえば、その方が面白そうだからだったのだが。アイテム「パン」を取得してしまった。はむりと齧ると、パンはふわりとポリゴンのかけらになって消えた。
驚きの食べ応えの無さだったが、VRゲームではわりとこんなもんである。そして、視界の隅にある満腹度が少し回復した。
「もっと味わって食べたいなら、食事設定を弄ると良いぞ。今の設定は『簡易』だな」
「えっ、設定? 今設定って言ったよねシャルさん?」
「――ん? 何か言ったか?」
どうやらシステム的な説明は本人の口から出なかったことになったらしい。
ちなみにシャルロッテは、βテストのプレイヤー達から通称『チュートリアルお姉さん』と呼ばれている。何気にLv50とかなりの強キャラなのだが、そのメタ説明からのすっとぼけでポンコツキャラとしても親しまれていた。
―――――――――――――――――
【現在のナクラのステータス】
※各種ステータスはイベントやプレイヤーの行動で増減します。
ボーナスポイントを使って補正することも可能です。
名前 : ナクラ
職業 : ヒーラー(Lv1)
HP : 10/10
MP : 60/60
STR: 2
AGI: 2
VIT: 4
INT: 15
DEX: 3
LUK: 6
ボーナスポイント(残:2)
スキル:
光魔法 :Lv 1
回復魔法:Lv 2
耐性:
呪い耐性:Lv 1
装備:
初心者のメイス
初心者の服
初心者の靴
称号:
「ルーキー」始めたばかりの初心者。Lv10で解除。デスぺナ軽減
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