第2話 アバターは盛るもの


 編集の田中さんからDLキーを貰い、ゲーム本体のDLを行う。

 実際にプレイできるのは明日の開始時刻からだが、先行してアバターの作成はできるようなのだ。加古は公式HPにあるゲームの情報を読みながらDLとゲームのインストールを行う。



「要するにテンプレ的ファンタジーね」


 世界樹とか魔王とか、そんな感じのなんやかんやがあるらしい。


「メインクエスト・サブクエストがあって、それを進める主人公の行動次第で世界が変わっていく……最終的に自分のセカイを作る感じだから、オリジンスターオンラインってことね。どこぞの洋ゲーっぽいシステムだなぁ。見た目はかわいいVR和ゲーだけど」


 オンラインゲームであるにもかかわらず、その半分をオフラインとすることで高い自由度を実現しているらしい。オンライン要素は『基底世界』――オンライン専用の公式共有ワールド――におけるコミュニケーション、一部クエストやイベントの協力プレイ、PvPといった決闘等。

 それと後々はフレンドの世界に行くのもできるようになる予定らしく、どこぞの箱庭ゲーを思い起こさせられた。


「ドラゴンやらクリスタルやら、古い巻物や狸の商人なんてものも出てきそうなもんね。メインクエスト放り投げて、田舎や無人島でスローライフってプレイもいいかも」


 実際そういうプレイスタイルが公式HPで推奨されているひとつにある。システムを見ただけで「あーこれ無限に遊べる奴」と加古は思った


「オープニングだけは共通、あとは展開次第でAIが調整してくれます。年齢やNSFW設定によるフィルタで不可なルートもあります、と。ふむふむ」


 しかもどうやらパイタッチRTAよりもよほど過激な事もできてしまうらしい。うわぁえっち。まぁ今回そっちの方向はNGだし加古には関係のないところだけど。



 DL、そしてインストールが終わったので、早速アバターの作成にとりかかることにした。


「プレイヤー名は……んー、宣伝も兼ねて、名倉ばっこ……いや、世界観に合わせて『ナクラ』にしようかな。種族は人族、性別はもちろん女性。JOBは……やっぱりVRファンタジーなら魔法だよね。でも攻撃型のマジシャンは他のプレイヤーがたくさんやるだろうから……埋もれないように、ヒーラーにしようかな」


 このゲームは基本的に主人公はNPCと組んで冒険に挑む。後衛回復職であるヒーラーなら戦闘中のスクリーンショットも映えるのが撮りやすいだろうとの考えもあった。


 と、データを入力し終わると、その内容に基づいて加古の前にアバターが構築される。

 なるほど、神官っぽい清楚な女性だ。デフォルトでもかなりかわいい。しかし髪の色が緑色というのがいただけない。緑髪がメインヒロインの作品は売れにくい、と以前編集さんに言われたことがあるのだ。当然例外もあるが、ごく少量だけ。サブヒロインなら問題ないのだが――


「アバターを女主人公と考えるなら、緑はNo! カスタム開始よ!」


 加古は早速調整を行う事にした。フルダイブVRの特徴として、時間の流れが現実世界の2倍に加速されているというものがある。要するに1日が48時間になるようなもの――その分疲労も2倍溜まるが――であり、明日のプレイ開始時間まであとVR時間で24時間はある。

 睡眠時間は現実で8時間は寝ておきたいので、逆算すると……VRで8時間もある。


 そのうち16時間・・・・を使って加古は自身のアバターを造り上げた!


「ってやっば! 予定よりオーバーしてる! 4時間しか寝れない……!」


 しかし頑張った甲斐が合って、ナクラの姿はとても納得がいく姿になった。

 具体的には、迷走に迷走を重ねた上に自分に似せたほうが良いと名案を閃き、どうせなら可愛かったころの自分にしようとアルバムを引っ張り出して小学生のころの自分そっくりにした上で、髪と目を金髪碧眼にし、清楚にサラサラな長い後ろ髪と、今の自分よりちょっと大きな胸を足した形に落ち着いた。

 ……金髪碧眼ロリ巨乳は、加古の考える売れ筋王道ヒロインなのである!


 尚、現実の加古はもっさいジャージの黒髪ぼさぼさ頭で、昔長かった髪は後ろにひと房しっぽのように未練たらしく残るのみ。身長も160cmはあるし、胸は猫背になれば足元が見えるといった程度。ほぼ正反対と言っても良い。おっと足でふくらはぎをポリポリ掻いたぞ。


「……フッ、これはどこからどう見ても天使だな! 決定!」


 VRで16時間、その前にリアルで起きていた時間も足して考えると24時間以上起きていて、加古は間違いなく頭がハイになっていた。


 正常な頭になって「私がだなんて不味いでしょそれぇ!?」と盛大に頭を抱えることになるのは、現実世界でほんの4時間先の出来事である。

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