第1話 お仕事ですか!


 神原加古かんばる かこは、売れない小説家だ。かつて現役女子高校生作家として堂々とデビューし、気をよくして大学にもいかず専業小説家になったものの、連載シリーズが3冊で打ち切りに。

 それからはデビューさせてくれた編集さんの御情けで、個人的に紹介してもらったライターの仕事を引き受け細々と生活しているという作家である。

 PNペンネームは『名倉なくらばっこ』、本名のアナグラムだ。


 高校のときのよれたジャージをだらしなく着こなし、その編集さん――田中さんからかかってきた電話を受け取った。


「えっ、ゲームレビューのお仕事ですか?」

『はい。名倉ばっこ先生に今後発売されるVRMMORPGのレビューをしてもらえないかと。企業案件のご指名ですね』

「わかりました、やらせていただきます」


 そしてそれは仕事の依頼だった。

 当然、加古に断るという選択肢はない。丁度――かなりの間――仕事が無く、暇を持て余していたところだし。


「……でもその、なんで私なんでしょう? 私なんかがレビューしたところで面白みなんてないと思うんですけど」

『いや、まぁそのアレですよ。先生、VR筐体持ってるじゃないですか。だからです』

「あー」


 そう。2冊目の本を出した時に、勢いで買ってしまったのだ。狭い部屋の半分を占める、当時最新型のフルダイブ型VR筐体――『Vコクーン』58万9000円(税別)を。

 (ちなみに今はもっぱらベッド代わりに使っている。高価なだけあって寝心地も良い)


 なるほど、ハードがあるならソフト代だけで済んでその分安上がりだものな。と加古は納得した。


「成程把握しました。……でも私、コミュ障ですよ? そもそもちゃんとVRMMOできるかも不安なところなんですが」

『ああ、その点は――多分大丈夫ですよ!』


 コミュ障を否定してほしかったところだが、田中さんはあやふやに言い切った。


『実はこのゲーム――オリジンスターオンラインって言うんですが、通常プレイはオフラインゲームになります』

「え? なんですかそれ」

『最近ばっこ先生みたいなコミュ……対人スキルに自信が無いという人が多いじゃないですか。だからそれを考慮した、通常プレイはオフライン、協力プレイがオンライン、ってそういうゲームが増えてるんですよ』

「はえー、なるほど。それは色々安心ですね」


 つまり、オンラインと銘打っておきながら、オフラインゲームのレビューをすればいいらしい。それなら加古にもできそうだ。ブログ記事形式なので、アフィリエイトのボーナスもあるかもしれないとか。


『まぁ、多少はオンラインプレイもしていただきますが』

「ですよねー……まぁずっとオンラインじゃないだけ良いか」

『で、仕事の内容ですが……プレイした感想やゲーム内で撮影した写真・動画を広報ブログにアップする形です。こちらとゲーム運営でチェックしてから行うので、随時メールしてください。いつでも受け付けるんで、2日に1回くらいはお願いします』

「わかりました」

『基本的には先生の好きにプレイしてもらって構いません。……あ、性的コンテンツになるのは困るのでその点だけは配慮してください』

「えっ」

『βテストでは王女パイタッチRTA――最終的にデフォルト女性アバターで全裸になり城に突撃して、兵士を引き連れトレインしつつ王女の部屋に突撃するのが最速――とかあったんですよ。女性アバターが全裸だと兵士の大半が初手固まるので安定チャートらしいですよ?』


 なにそれ超楽しそう。と思ったが、加古は大人なので口には出さなかった。


『それでは後程DLキーをメールで送りますので、早速明日からよろしくお願いします』

「えっ」


 明日からとはこれまた随分急な話である。田中さんめ、もし加古が仕事で忙しかったらどうしていたというのか――まぁ、そんな「もしも」は考えるまでも無いのだけど。


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