Ep005 舎弟's

 そして2人の目標を聞いた師匠は今後どう進めるかを軽く説明し、確認を2人に取っていた。そして話が一段落ついたタイミングでちょうど6時の時計が鳴ったので師匠は彼らを帰すことにした。

 「明日からお願いします!」

 と米島はなんだか張り詰めていたが。

 その後送っていくために師匠を家に残して3人で和気藹々と話をしながら道を進んでいった。そしてあるタイミングで桜木さんが僕に疑問を持ちかけてきた。

「小宮くんってスマホ持ってるの?」

「うん。持ってるよ」

「え?お前去年持ってねぇっていってたじゃねーか」

「最近買ってもらったんだよ」

「そうだったのかよ...」

「じゃあLINEとか入れてるの?」

「師匠と連絡取るためにって言われて入れたよ」

「じゃあさ...LINEのグループとか作らない?」

「グループ?」

「舎弟で、ってことか?」

「そうそう」

「いいねそれ」

「...俺も入れるんだろうな?仲間はずれは寂しいぜ」

「どうでしょう?」

「どうだろうね」

「...鬼か?」

 そんな会話をしながらスマホを取り出し、2人のLINEを友達に登録する。

 するとすぐにグループがLINEに追加された。

 桜田さんが何かのキャラクターのスタンプを送ってきたのに対し、

 米島は癖の強いネタ気味なスタンプを返した。

「あー...確かに持ってそう」

「だよね...」

「ちょっと傷つくから止めてくれホント。はっきりと言い切らない辺り、マジで」

 僕が思わず呟いたのに対し桜田さんも同調する。

「小宮は...そうか」

 米島はその先の言葉を濁す。

 この2人は僕の事情を知っている。

 この地域で移り住んできたばかりの頃に思い悩んでいた僕を気遣ってくれたこの二人には疾うの昔に事情を打ち明けた。

 2人は僕と同じく超能力保持者だったから、心の痛みもちゃんと理解してくれて、師匠の次に心を許せる人たちとなった。

 思いがけず止まってしまった会話を繋ごうと試みるが、なんとも言えない空気になってしまい何も言い出せなかった。

「...悪ぃな、思い出させて」

「いや、いいよ。もう過ぎたことだしさ」

「にしても修行結構厳しそうだったな...基礎体力着けるところから何から何まで... つか小宮すげぇな、あれを毎日、だろ?前からなんか身体がやけにガッシリしてんなと思っていたがあれが原因だったとは」

「いや、修行の途中で付いただけだよ」

「マジか...頑張ろ」

「張り合わなくても良いんだよ!?」

「運動好きとしちゃ負けられんのよ」

「そういうものかなぁ...」

 半ば呆れを覚えながら米島の話を聞く。その間桜田さんは何も言わず、なにか考え事でもしているような顔で歩いていった。

 そうして歩いているうちに米島の家の前に着いた。...こうしてみるとやはり大きいな、米島の家。

 「じゃあな!明日からよろしく頼む」

 「うん、じゃあね」

 「また明日」

 軽く挨拶をして、米島と別れまた歩き出す。

 ...直前まで話していた相手がいなくなると急に話題がなくなってしまう。桜田さんはどこか物憂げな表情を浮かべながら自分の半歩後ろを歩いていた。

 「どうしたの?」

 「えっ?いや、何もないよ」

 「そう?なにか修行で気になることでもあった?」

 「あー...特に無いよ。うん」

 どこかその様子が気になり声を掛けてみると、驚きながらも咄嗟に作ったような笑顔で返された。...何か隠しているような気もするが探っても意味がないしな。

 どこか引っかかる会話を終えた後、桜木さんの家の近くまできた。

 米島のときと同じような挨拶を交わして帰路についた。



数時間後___。



 「珍しいな家でもスマホを使ってるとは。ちゃんと使えてんのか?」

 今日作られたチャットを開きながらボンヤリと小さめな画面を眺めていたところ、師匠がガラス製のコップに7割ほどまで入った水を飲みながらそう訊ねてきた。

 チャットのことについては隠したほうが良いのか、はたまた公開して良いんだろうか。よく分からなかったので丁度スマホの通知にあった芸能人の自殺の話題を出す。

 「はい、最近芸能人の事件が多いなと思いまして...」

 「俺も見たぞ。事務所内のいざこざらしいな?大変なもんだ全く...」

 「僕は芸能人の理念はすごく良いと思っているんですが...」

 「その理念が結局事務所っつー一番近ぇとこで破綻してるんだ。人に元気を与えるのは駆除者だけでいいんだよな」

 本人が駆除者である師匠は芸能人のことを普段ならかなり批判的に捉えている。

僕は師匠ほど過激には考えないが、それでも人に元気や活力を与えるはずの存在がこんな道を通ることは疑問に思う...マズい、反らした話題に引っ張られた。師匠の注意も外れたタイミングで自分の部屋へと戻る。

 布団に倒れ込み、仰向けになりながら頭上に真新しいスマホを掲げてLINEを読む。するとリアルタイムでチャット名が変わるのを見た。見た瞬間、変な声が出た。

「......『舎弟's』?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る