第6話 お嬢様配信者白百合キサキとのコラボですわ〜
「まあ~、本物! 顔ちっちゃい! 肌白い! 可愛い!! 最高ですわ~」
そう言って、白百合キサキがヒナタに抱き着く。
眼福だ。
ヒナタは黒髪清楚系の正統派アイドルの容姿。
一方、白百合キサキは金髪碧眼。アニメには出てくるけれど、実生活では見かけることさえもないプラチナブロンド。
美少女が二人ならんで、きゃっきゃしている。
それも現実でだ。
明らかに、カメラ越しの向こうの世界は輝いていた。
今日のコラボ撮影は初回ということもあって、最近ダンジョンで流行っている食材を使ってお料理をしようというものだった。
おかげでカメラの向こうの美少女はエプロン姿で髪型もおそろいのポニーテールにしている。白百合に比べてヒナタのポニーテールは短めだけれど、白いうなじがはっとするほど華奢で可憐だ。
レースのエプロンとおそろいのリボンをつけることによって、二人はまるでアイドルユニットみたいだった。
「ちょっとサムネ用にポーズとってみて」
俺がいうと、二人は食材を顔の横にもってきて、ちょっとすました顔や全力の笑顔、そして変顔と一定ペースで変化させてくれる。
さすが元アイドルと未来のアイドル。
撮影に何が必要で何が求められているか、よくわかっている。
できたら、泡だて器やお玉をマイクに見立てて二人で背中合わせにして、アルバムのジャケットみたいな画もみてみたかったが、それはアイドルを完全にあきらめきれていないヒナタには酷だろう。
「じゃあ、さっそく今ダンジョンで流行っている『月の実』を食べていきたいと思いますわー」
「えっ、いきなり? ちょっとちゃんと紹介とかした方がよくない?」
キサキがありゃりゃと笑って、ヒナタを見つめた。
可愛い女の子が無言で見つめあう。
きっと、編集では「……?」とテロップを入れることになるけれど、この美少女二人が見つめあう様子は尊い。
ちょっとすっとぼけた白百合キサキにヒナタの常識人っぽい組み合わせは、なかなか相性がよい。
コラボ乱発時は、自分のキャラばかり重視して動画としてバランスがとれないなんて話も聞いたが二人の相性もよく、安定している。
それぞれのキャラを崩さずに相手を気遣えている。
とくに、白百合キサキはこの後、テレビでも人気になる理由は分かった。
初回のコラボだから、ダンジョン配信を避けようと提案してきたのも白百合キサキだった。
『普段私たちはダンジョン配信を行っていますが、ダンジョンは危険がつきものです。まず、初回のコラボはダンジョン以外で撮影しませんか?』
カメラの向こうではちょっと天然で天真爛漫なお嬢様風なキャラとしてふるまっているけれど、白百合キサキはもしかしたら俺たちよりもずっと多くのことに気遣いをしながら配信をしている。
初回なので、ダンジョンを避け、お互いのキャラの相性もあるのでリアルタイム配信という形ではなく撮影にしてお互いの満足のいく状態に編集できるようにしようなんて他の配信者はそんなことまで考えていないだろう。
そして、すごく礼儀正しい。
今回はヒナタの実家で撮影しているのだが、手土産を持参し、あらかじめ両親に挨拶もしておきたいと連絡まであった。
そして、玄関で靴をそろえる所作の美しさ。金髪碧眼という日本人離れした容姿でありながら、それは大和撫子そのものだった。
「え~と、これは『月の実』って言って、
あと、なんだっけ?
なんてすっとぼけた顔をしながら、白百合キサキはヒナタの方を向いて首を傾げた。
あれだけ、下調べや準備をしてくる白百合キサキが『月の実』が何かリサーチしてないはずがない。安全性などを含めて十分に調べてこの企画に取り組んでいるはずだ。
「もう、ちゃんとやってよー。ハイじゃあ、多分ここら辺にテロップでるので、ざっくりした説明はするけど、細かいことはこことか概要欄にリンク貼っておくので見てくださいね!」
そう言って、ヒナタはおそらく画面の左下となる部分を指さして、『月の実』について説明を始めた。
『月の実』はダンジョンでは特に珍しくない果物の一種だ。特に真新しいものではないが、最近とある植物との食べ合わせによって体の一部を発光させることができるようになったという情報がバズり、それを食べて髪や爪を光らせてダンスする動画がさらにバズったというのが流行のきっかけだ。
ただ、食べ合わせるものによって、光の色や強さが違う。
発光する一部というのはランダムだと言われている。
そんな『月の実』を食べて、体の一部を光らせてみようという企画であった。
「ヒナちゃんはどこを光らせたいんですの?」
「私は爪かなー。やっぱ可愛いし。爪とか光ってたら、暗いところでも便利だし」
「えーでも、それ洞窟探索とかするとき、ちょっとばれやすくて危ないのでは……」
「あー、確かに」
ヒナタと白百合キサキの会話はテンポよく、特別中身があるわけではないが、軽くてこの年頃の女の子らしくて好感が持てる。
「キサキちゃんは、どこが光ったらいいなとかあるの?」
「
「肌!? そっちの方が危なくない。爪はグローブで隠せるけど、肌なんて隠すの限界があるじゃん」
「でも、微発光で透明感のある色だと、たぶん肌めちゃくちゃ綺麗に見えるとおもうんですよね。ライトとか加工なくても、肌がめちゃくちゃ綺麗になるって、そうまるで骨が発光して
二人がくだらない会話して、とりあえず、生のままの『月の実』を食べてみる。
微妙な空気が漂う。
「美味しくは……ないですわね」
「うん、すごくまずいとか、辛いってわじゃないけど」
小さな林檎みたいな木の実を一口でたべた二人は、眉をしかめている。
実際、俺も食べてみたが『月の実』は美味しくはない。
何の味かと聞かれると答えずらい。というか味が薄い。
うっすら甘くて、植物の青っぽい香りが少しして、ちょっと果物の渋みが舌に残る。
まずいと言い切るには微妙な、反応に困る味だった。
ヒナタと白百合キサキはそれぞれ、食材と組み合わせてオリジナルの食べ方を提案する。
あんずのジャムを薄く塗り、その上からビターチョコレートをかけたヒナタ。
細かく切って、ベリー系の果物の冷凍とスパイスを何種類か入れて煮込んでジャムにした白百合キサキ。
どちらもそうとう女子力が高い。映える。
いつの間にかプチ料理対決みたいになっていた。
もちろん、ジャッジは俺である。
どちらも甲乙つけがたい。というか売り物にできるんじゃないかと思うくらい美味しかった。もちろん、実際に売るときにはコストとかの問題があるのかもしれないけれど、いつか視聴者向けのイベントをやるときにちょっとだけ出すにはもってこいだと思った。
どちらが美味しいと言えない場合は、普通に考えてゲストである白百合キサキに譲るべきだろう。
だけれど、白百合キサキの勝ちとしようとしたところで、彼女が口をはさんだ。
「料理は味じゃあありません。大事なのは思い。そう、思い通りの部位を光らせられるかですわ!」
たぶん、白百合キサキの気遣いだったのだろう。
いくら幼馴染とはいえども、カップルというのにはちょっと距離感がある俺たちに気を使ってくれたのだろう。俺たちがビジネスカップルであるというのは、やはりこのときばれていたというのが後に分かることになるがそれはまたあとですることにしよう。
結果から、いうとプチ料理対決はヒナタの勝ちとなった。
ヒナタと白百合キサキ双方の負けとも言えるが……。
ヒナタの料理で俺の指の第一関節までが光るようになった。爪ではないけれど、まあ合格だろう。
白百合キサキの料理を食べた俺は……どこも光らなかった。
いや、カメラの前で光らせることができた部位がなかった。
とりあえず、ヒナタとキサキにはヒナタの料理を食べてもらい
ちなみに、白百合キサキの『月の実』のジャムによって光ったのは、俺のチ〇コであった。
ダンジョン配信で死んだ幼馴染との関係を取り戻すたった一つの方法 華川とうふ @hayakawa5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ダンジョン配信で死んだ幼馴染との関係を取り戻すたった一つの方法の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます