03
――夕食の時間となり、ルシールとミミはノエラに呼ばれて大広間へと向かった。
大広間とはいっても、やはり領主の屋敷とは思えない飾り気のないところだったが、ルシールは気にせずに大きなテーブルに着く。
「申し訳ありませんが、急な仕事が入ってしまい、大したものは作れませんでした」
ノエラは無愛想に料理を並べていく。
ミミはその料理を見て、ムッと顔をしかめた。
その料理とは、干し肉と見るからに硬そうなパンのみ。
まさかこれが夕食のメニューかと、ミミはノエラに少し怒気のこもった声で訊く。
「ちょっとメイド長さん。まさかルシール様にこんなものを食べろと言うんですか?」
「あら? お気に召しませんでしたか?」
訊ね返してきたノエラ。
そんな彼女の態度に、ミミは席を立って声を荒げる。
シィベリーランド家は、王都から約一週間かけてやってきた主の妻に、こんな粗末な料理を出すのか。
これでは旅の移動中でしていた食事と変わらない――せめて暖かいスープの一つでも出してくれてもいいのではないかと、ミミは、テーブルの側に立つノエラに詰め寄った。
「あたしはいいんですよ! でも、せっかくこの家に来たルシール様には対して、これはあんまりじゃないですか!?」
「ちょっとミミ? ノエラさんも急な仕事が入ってしまったと謝罪してくれているのだから、あまり彼女を困らせないであげて」
「ですがルシール様! これはあまりにもッ!」
立ち上がったルシールは、ミミを宥めながら席に座らせた。
ミミはまだ納得してはなさそうだったが、なんとか落ち着かせ、ルシールはノエラに向かって頭を下げる。
何度もミミが声を荒げて申し訳ないと、どうか彼女の口にしたことに気を悪くしないでほしいと。
ルシールの言い分としては、本当ならばリュックジールが迎えに来て一緒に屋敷に来るはずだった。
それを、勝手に予定を変えてやって来たのだから仕方がない。
食事を出してくれただけでもありがたいと思わなければと言うのだが、ミミは気に入らない。
なぜならば、ルシールが自力でシィベリーランド領へ行くことは、すでに前もって知らせていたのだ。
豪華な食事を用意しろとは言わないが、このあからさまな料理は、どう見てもルシールのことを歓迎していると思えなかった。
「やはり王都の貴族の方には、このような食事は口に合いませんか? 気に入らないのなら、少々時間はかかりますが作り直してきますか? そこのメイドがいう温かいスープでも」
「いえいえ、ノエラさんもお疲れでしょう。それよりも明日から私が領主夫人として、この屋敷で何をすればいいのかを教えてください」
ルシールは、まるで挑発するような言い方をしたノエラに共に食事をしようと声をかけ、彼女を席に着かせた。
ノエラを誘った理由は、これからのことをいろいろと教えてもらいたかったからだったが。
人は何かを食べながら会話をすれば、自然と上手くいくものだということを、ルシールは経験から知っていたからだ。
しかし、そんな交渉で使うような会話の手法も、ノエラとミミの間にできた
ミミは話を振ってもしかめっ面で一言も発せず、一方でノエラは相変わらずの不機嫌そうな顔で淡々とルシールの訊ねたことに答えるだけだった。
そんな拷問のような食事の時間が終わり、ルシールとミミは与えられた自室へと戻る。
それは、後片付けはノエラがやると言ったのもあった。
「はぁ、もうマジでなんなんですか、あの女! 目つきの悪いメイド!
部屋に入るなり、ミミは自分のベットへと飛び込んだ。
彼女は枕に顔を押しつけながら、ノエラの文句をずっと言い続けている。
それでも、ルシールはそれでもあまり心配はしていなかった。
ミミは怒りっぽいところがあるが、けして物事を引きずらない人間だと、彼女は知っているからだ。
その証拠に、気がつけば喚く声が聞こえなく、ベットに目をやるとミミはいびきを
きっと長旅の疲れと、食事をしてお腹がいっぱいになったのもあったのだろう。
まるで冬眠したクマのように、ミミはスッと眠りに入っていた。
「本当にこの子は、昔から寝つきだけはいいんだから……」
そんなメイドに毛布をかけてやり、やれやれと微笑むルシール。
それから彼女は部屋にあった机へと向かい、ノエラから聞いた話を持ってきていた紙に書き出し始める。
リュックジールに会えなかったのは残念だが、彼が屋敷に戻るまで、領主夫人としての仕事をしっかりとこなすのだと。
朝から夜にかけてやる膨大な量の仕事内容を書いたルシールは、その後、整理して出した荷物の中から一振りの剣を手に取る。
そして、剣を見つめながら自分の長い赤毛を手に取った。
「さてと、ついに明日からが本番……。私を迎えてくれたリュックジールのためにも、張り切っていかなきゃ」
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