第11話 苺病

 私は苺を一つ食べると、そこに在るだけ食べ尽くしてしまうという性質を持って生まれました。お母さんが家族の分だけ買ってきてくれた一パックの苺を冷蔵庫で発見すると、私は即座に全て貪りました。彼氏とデートに行き、喫茶店で苺パフェを見つけると、私は十回以上注文を繰り返して、生クリームを取り除き、苺の部分だけピックアップして口に入れ続けました。

 そんなことをこの世に生を受けてから十八年近く繰り返していたところ、最近、私の両手の指先がまるで苺のように赤くなりだしました。最初はあかぎれかしら? と呑気に構えていたのですが、どんどん赤色が濃くなっていくのです。そして、私の爪の形が苺型に膨らみだしたのです。さらに、指のはらの部分にはつぶつぶが出来てきたのです。

 これは苺を食べ過ぎたからに違いありません。私は涙をのんで苺抜き生活を始めました。すると、私の指の赤味はましになっていきました。爪の変形や指のはらの異変も薄らいでいきました。

 けれども、今、私は無性に苺が恋しいのです。この身を滅ぼしてもいいから、あの甘酸っぱさを味わいたいという誘惑にかられています。家族や彼氏は、私が苺化しても私を愛してくれるでしょうか?

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