第8話 帽子の彼女
彼女が帽子を被っていない日はありませんでした。春夏は麦わら帽子、秋冬はベレー帽がお決まりでした。麦わら帽子もベレー帽も、彼女は様々な色形、幅広い素材のものを持っていました。どの帽子も、彼女に寄り添い、洒落た様子を作り上げていました。
いつも帽子をチャーミングに着こなす彼女は、小さな大学では目立つ存在でした。僕もすぐに彼女の存在に気付き、恋に落ちました。毎日まるでファッションショーのように帽子が変わる彼女に、地味な僕は憧れていたのです。
ところが、ある強風の日、彼女の帽子が風で飛ばされてしまいました。シニョンにまとめられていた彼女の髪も崩れてしまいました。偶然居合わせた僕は、びっくりしました。なんと、彼女は腰まである美しい黒髪を持っていたのです。帽子をなくして涙をうかべる彼女に、僕は勇気をふりしぼって声をかけました。
「帽子で隠すのがもったいないくらい綺麗な髪だね」
彼女はその目を大きく見開きました。
翌日から彼女は輝くストレートヘアで登校するようになりました。その髪の魅力は大学中の噂の的になりました。そして、その横にいる、彼女のお下がりの帽子を被る僕も、ちょっぴり話題に上っているようです。
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