第7話 ひまわり
私が入院している間、毎日彼はひまわりを持ってきてくれました。外の蝉ばかりが元気よく、院内はいつも静かで退屈でした。けれども彼が病室をノックすると、たちまち私の胸は高鳴ったものです。ひまわりを一輪持って、彼は照れくさそうに「来たで」と、いつも声をかけてくれました。まだ高校生だった彼にとって、連日ひまわりを買い続けることは、負担だったのではないかと、今になって思います。しかし当時の私は子供で、幼なじみの大好きなお兄さんがくれるひまわりを楽しみにしていました。
彼はひまわりを活けかえると、必ず谷川俊太郎の詩を朗読してくれました。一日に一作だけ、彼は淡々と詩を読み上げました。私は詩に興味はなかったけれど、彼が読んでくれる声が好きでした。もう声変わりしてしまった低音が、私の全身に響くのでした。彼はきっと将来詩人になるのだろうと、私は一ミリの疑いもなく信じていました。
彼は帰り際に毎回、「こんな目に合わせてしもてごめんな」と、泣いて私に謝りました。私は彼を責めたことは一度もありませんでした。たまたま彼の家で起きた火事が隣の私の家に飛び火して、身の危険を感じた私は二階から飛び降り骨折したのです。彼の家族も私の家族も出かけていて、怪我人は私だけでした。私はただの不運だと考えていました。それでも彼は私の手を取り、何度も何度も謝罪を繰り返しました。そんな時、いつも私は彼の頭を優しくなでながら、ぼんやりとひまわりに見とれていたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます