第6話 あの子は暴君

 初めて会った時、彼は私の頭をどつきました。固く握った拳で思い切り殴ったのです。私の頭頂部は、まず、じいんと痛みが広がり、次にずきずきとした鈍痛に襲われました。私は涙目で、なにすんねん、と抗議しましたが、彼はどこ吹く風でした。

 なぜこのような目にあわされたのかは、いまだに謎です。残念なことに、担任の先生や同じ組にいた子供たちは入学式に集中しているようでした。私は誰も助けてくれない非常な雰囲気に、かくも小学校生活とは過酷なものかと、恐れ入りました。

 それからも後ろの席の彼からの攻撃は続きました。足で背中を叩かれたり、椅子を揺さぶられたりすることは日常茶飯事でした。相変わらず、みんなこの状況を無視していたので、私はひたすら耐えました。

 しかし、初めての夏休み明けに彼は突然転校してしまいました。生暖かい風に吹かれながら、ふと彼がいなくなった席に座ってみると、私の椅子の背面には、キラキラ光るシールや折り紙で作った花が貼られ、キャラクターのスタンプが押されていました。私は悲しみや怒りではなく、寂しさから泣いたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る