第4話 六歳児のデート

ぼくは遠足を抜け出し、デートしたことがあります。六歳だったぼくの相手は、幼稚園の先生でした。おそらく、先生は二十代前半だったと思います。彼女は長い三編みがトレードマークの、小柄な女性でした。

 行き先は動物園でした。現地に着くと、組ごとに分かれて、園内を見学する予定でした。各組二十名ほどに、先生が二人付き添いました。一列に並んだ子供達の先頭と最後尾に、先生方はそれぞれ配置されていました。ぼくの目当ての先生が、一番後ろにやってきたところで、すかさずぼくは彼女の手を強く握りました。そして、そのまま二人で、行方をくらましたのです。

 先生はぼくの素早い行動に対し、抵抗する機会を失っていました。大人は予想外の出来事に弱いのです。ぼくはパンダやコアラが描かれた小さな観覧車の前まで、先生を引っ張ってきました。そして、一生に一度のお願いだから、二人で、これに乗りたいと、真剣な眼差しで彼女に頼み込みました。すると、先生は少女のように顔を赤らめて、ぼくの我儘を許してくれました。

 後で、ぼくらは園長先生からこっぴどく叱られました。けれども、ぼくは幸せな気持ちでいっぱいでした。彼女と一緒に揺れるゴンドラから見た小さな動物達を、ぼくは生涯忘れることはないでしょう。

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