第3話 ポニーテール・ガイ

彼のトレードマークは、長い金色のポニーテールでした。彼の艶のないぱさついた髪は、無造作に頭の上で束ねられていました。頻繁に染めているようで、彼の頭頂部が黒くなることは一度もありませんでした。

 彼はライブハウスで働いていました。だからこそ許される髪型だったのかもしれません。派手な外見と対照的に、控え目で穏やかな彼は、バンドマンやお客さんから慕われていました。

 私は激しいライブは好きだったけれど、人が集まるライブハウスは嫌いだったので、いつも出口に陣取って、一人で音楽を聴いていました。

 唯一、私が他人とやり取りするのは、チケット代とドリンク代を払う時だけでした。その度に、彼は私にウーロン茶を差し出しました。化粧をしていても、私がまだ十代前半の子供だということに、彼は気付いていたのです。毎回、私は黙ったまま、伏し目がちに、彼からウーロン茶を引き取りました。

 突然、彼がこのライブハウスを辞めてしまったと知った時ですら、私は彼と目を合わせたことも、言葉を交したこともないままでした。結局、私は一度も彼にお礼を言えないまま、彼と別れたのでした。

 大人になった私は、時々、彼の高く結い上げた金髪を思い出しながら、ほろ苦い気持ちでウーロン茶を喉に流し込みます。

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