第33話

 仰向けに倒れた彼女はそれでも、俺の一撃を防いでいたようだった。

 刃こぼれが一切ない得物を杖に立ち上がる。


「そこまで。」


 彼女が構えようとしたところで、ライラから制止が入る。


「今の一撃を防いだのは悪くなかった。武器の使い方も上々、師がいいんだろうな。」


 俺はどかりと彼女の前に座ると話しかける。


「名前を聞いてなかったな。俺はジン、こっちはライラだ。2人で旅している。」


「私はツバキ。さっきの一撃、というか二撃かな?目で追うのがやっとだった。私はどうなったの。」


「真っ直ぐ構えていたその刀に抜刀で一振、返す刀でもう1発だな。」


「なるほど…確かに手応えは2回あった。それで、あの、その刀……。」


 彼女の目は俺が作り出した刀に釘付けだった。


「あぁ、これな。俺がむかーしに戦った最高の刀使いのものを拝借した。」


 そう言うと魔力の注入をやめる。《ウェポン・クリエイト》の難点のひとつは継続して魔力が消費されることである。

 近接戦闘を行わない完全魔法職だとただのジリ貧になるんだよな。


 魔力の注入が解かれた刀は青い光を放って霧散する。


 残念そうな顔をした彼女は語りだす。


「その刀、私のかと思ったけど多分違う。私の刀よりも刃文が綺麗。私の家は代々刀を扱ってきたからわかる。」


 どこか遠くを見ながら彼女は続ける。


「その昔、力じゃなくて技を極めたオーガがいたらしい。その人が私たちの祖先。」


 一息に話すと、彼女は言葉を切る。


「代々その人に追いつこうと皆刀を打っては修行を重ねた。でもついぞ伝説に聞く彼に追いつける者は現れなかった。」


 ライラと俺は顔を見合わせる。この流れはあれだな、テンプレのあれだ。まさかつい先程話していた人物についてNPCから語られるとは思わなかった。


「もしかして、その人ってシュルクさんですか……?」


 ライラが恐る恐る聞く。


「そう!なんで知ってるの!」


 ツバキは身を乗り出してライラに詰め寄る。ライラはびっくりしたように俺の方へ身を寄せると口を開く。


「私たちもそのオーガの話を聞いたことがあるんですよ。」


「そうなの……。これも何かの縁、よかったらその人のお墓見ていく?」


 言うが早いか彼女は立ち上がり、森の奥へと歩き出した。慌てて俺とライラは彼女の後を追う。

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