第32話
「ここで何してるの?」
彼女は思っていたよりも幼さの残る声で問いかける。
「すまない、森を歩く途中で休憩していたんだ。邪魔するつもりは無い。なぁ、いつもここに来るのか?」
「なぜそう思うの。」
「だって……なぁ?」
顔だけライラに向けて続きを促す。
「木々の傷はあなたの刀ですよね。」
「うん、だったらなに。」
不器用なのかぶっきらぼうな話し方だが、どこか不快感は覚えない。
「いい腕をしていますね。寸分違わず同じ位置におなじ傷がついている。」
少し照れたような彼女は、俺たちの向かい側に腰掛ける。
「ここで毎日修行してる。でも中々上手くいかない。」
ぽつぽつと彼女は語り出す。なんでも故郷で小競り合いが起きており、激化の兆候があるから少しでも強くなりたいとのこと。
彼女がオーガであること、デュオルとウノスの間ということを鑑みると相手は間違いなくウノスの騎士団だろう。
どれ、いっちょ鍛えてやるか。
「もしかして、小競り合いの相手って騎士団か?」
ライラが隣で目を見開いている。おい気付いてなかったのかよ。
「そう。鎧着てるから刀じゃ攻撃できない。」
「もしよかったらなんだが俺とライラで修行を手助けしたいんだが、どうだ。」
「いいの?あなた達は人間。オーガに手を貸したら恨まれる。」
「あぁ大丈夫だ。なぁ、ライラ。」
彼女は目をキラキラさせながら応える。
「えぇ。私も騎士団にはちょっと因縁がありますからね……。」
おいその恨みの原因、ほとんど俺じゃねぇか。
「わかった、ありがとう。お願いしたい。」
「おう、やけに素直だな。俺たちの方がお前より弱いとか思わないのか?」
「魔力を見たらわかる。私なんて逆立ちしてもあなた達どちらにも勝てない。」
魔力は見ることができるのか。本当に優秀だなこの子は。
「よし、じゃあ早速やるか。まずはどれだけ戦えるか見せてくれ。有り体にいえば、本気でかかってこい。」
そういうとライラに目配せする。彼女は俺の意図を汲んでくれたのか広場の端に下がっていく。
久しぶりに振るか、あの武器を。
「《ウェポン・クリエイト》」
そう呟くと手元に日本刀が現れる。それはまさに彼女が腰から下げている刀によく似たものだった。
このスキルは記憶を基に武器を作り出す。長期間使用したことがある、または使用者と戦ったことがある、そして記憶がこのゲームに定着しているものしか再現できない。
俺が思い浮かべた武器はもちろん、あの剣豪のものだった。
やはり前作とヒストリアは繋がっている。俺の記憶がゲームエンジンを通して目の前に現れるのだから。
俺の刀を目にした瞬間、彼女の顔つきが変わる。
「どうしてその刀を……。」
「御託はいい。後で教えてやるからかかってこい。俺は刀がメイン武器じゃないが。」
言葉を切ると、俺は腰を低くし柄を握る。
「結構やれるぞ。」
言葉を置き去りにし、《身体強化》をかけた足を踏み込む。
俺が前作で刀を使う時は抜刀をメインに戦っていた。打ち合いならば槍の方が得意だが、初動の威力や速さは日本刀に軍配が上がる。
魔族との戦争となると長期戦だったため一振りの威力が高い大剣が適していたが、殊短期戦かつ敵が1人ならば日本刀も扱える。
木にあれだけ綺麗な傷が付けられるんだ。一太刀で分かるだろう。
どさりと後ろで彼女が倒れる音がした。
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