第31話
座れそうな岩に腰を落とす。幾らか戦場を超えてきたものなら周りの傷に目を止めるだろう。
ちょうどこの空間の真ん中から球体上についた傷は鋭い刃で付いたかのように細かった。一見、木々が生い茂り陽の光が入る心地よい場所だが、その実岩が綺麗に割れていたり、昨日表面が細かく刻まれたりしている。
最初は何かしらのモンスターがここで体を擦り付けたり暴れたりしたのかと思ったが、よく見ると規則的に、それも何度も寸分違わぬ位置を傷つけているようにも見える。
「ライラ、」
「えぇ、素晴らしい技術ですね……。これが練習であっても誰かと斬り結んだとしても、美しさすら感じます。」
彼女は木についた細傷に触れる。白魚のような指が木々を撫でる。俺は木に触れてもなんにも分からんが、何か分かったりするのだろうか。
「この傷、まだ出来て浅いものもあります。誰かが日常的にここを使っているようですね。」
そう言うと俺の隣に戻ってくる。拳2つ分、それが俺たちの距離である。近すぎることはなくとも、決して遠くはない。
俺がゲームにログインしなければ彼女と会うことはない。なんとも寂しい話だがそれも仕方がない。
デュオルで買ってきたコーヒーを口に含む。どことなく苦くて、それでも癖になる味だった。
「そういえばシュルクとか転生してないかな。」
「そこまでは分かりませんね…。私の他にAiPCがいるとしか聞いていませんので。」
刀を一振り腰に下げた
その点、戦闘スタイルはライラと似ている。まずは相手の出方を見て、それに適切に対処していく。
ライラと絶対的に違うのはその勝負の終え方である。ライラは相手の攻撃をこれでもかと弾き、隙ができたところを突く。
シュルクは受けた上で押す。弾いたあと、隙があろうがなかろうが、刀一本で押していく。その守備から攻撃への反転の速さに苦しんだプレイヤーがほとんどである。
彼は元々サイドクエストの最終ボスだった。確か彼の流派が途絶えてしまうのを防ぐため、後継者、つまり弟子を探すというものだったはずだ。
結局紆余曲折あって1人だけ彼のお眼鏡にかなう人物が見つかり、ストーリー自体はそれで終わる。その後はフリーでその流派を学べたり、彼自身と戦えたりとよくあるサブクエストだった。
もちろん俺も彼の門下に入り剣術を修めた。その際スキル自体はもう枠がなかったから取らなかったが、動きは今でも覚えている。
結局決着がつかぬまま、500年前は終わってしまったな。
少し寂しさを感じながらライラと話していると、森の奥から1人のオーガが歩いてきた。
和服を着た彼女が腰に佩いていたのは、よく見慣れたものだった。
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