第30話

 今日も今日とて人目を気にしつつライラと歩く。あれ以降、少しでも見つかると声をかけられ、質問攻めにあい、フレンドになろうとごちゃごちゃ言われるようになった。

 ウォー・ロードの時はそんなこと無かったのにな。MMOあるあるだが、まだそこまでしっかりマナーが固まってないんだな。


 新しく解放されたトレアに行けば会いたい人達やフロンティアの面々に会えるだろうが、この今のありさまに辟易していた。

 そこで俺とライラは敢えてウノスに行き、少しゆっくりすることにした。


 ただ、やはり依然として4つ目の街であるフォルリンクの解放条件は分かっていない。

 まぁトレアが解放されたばかりだし仕方ないか。毎回どこからか名前だけは認識されているのはなんなんだ。


 俺たちは今、拠点にしていたデュオルを出てウノスへ向かっている。初心者を卒業したプレイヤーたちがデュオルへ向かっているのを見てほっこりする。


 竜祭が終わって数週間、公式からは音沙汰無しである。トレアでは龍の素材を使った武器が生産されているらしいが、そこまで数は多くないという。

 通常の武器の能力に加えて何かしらの龍魔法が使えたり、龍の性質そのものを付与されていたりするらしい。


 レヴァテインを撃ったあの日から、ライラの角を象ったイヤリングはうんともすんとも言わない。

 おそらくあの暖かな声はレヴァテインだったのだろう。迎えに来てと言われたからには、この世界のどこかにあの槍も眠っているはずだ。


「ライラ、ウノスに行くのはいいが何かやることを決めているのか?」


「いえ、特には…。ゆっくり観光しましょう?この前の竜祭でしっかりワールドクエストは進めましたし、ちょっと息抜きもいいじゃないですか。」


「それもそうか。でもお酒は程々にしような。この前片腕でお前のこと運んだの忘れてないからな。」


「あれはジンに会えて嬉しかったから飲みすぎただけです!次はそんなに酔いませんよ!」


 さらっと嬉しいことを言ってくれる。500年前、俺からすれば1年前に戦場で対峙していたとは思えないな。


 ウノスへ向かう道すがら立ち寄った町や村で気になる噂が流れていた。なにやらオーガと騎士団との抗争が徐々に激しくなっているとのことだ。


 元々オーガという種族は穏やかである。彼らは農業と鍛治を営み、その人間より強い力で森を開墾してきた。頭から角が伸びている魔族とは異なり、額から2本の短い角が生えている。


 彼らは魔法をあまり使わず、《身体強化》を基本に自らの力を強化し、そのフィジカルで敵を圧倒する戦い方を好む。


 ウノスの騎士団とオーガの争いの原因は昔の因縁だそうで、今では覚えている者も少ないらしい。町の人々曰く原因は分からないものの、小競り合いは何回か起きていたとのことだ。


「ジンってオーガと会ったことありますか?魔族領とオーガの里が近くにあったから私はあるんですが。」


「そうだな…。500年前に数回会ったことあるぞ。とんでもない刀使いだったな。」


「それってもしかして"剣豪"シュルクですか?」


「お!シュルクのこと知ってるのか。あいつ強いよな〜何回かりあったが、勝率五分五分だったぞ。」


「あの穏やかなシュルクさんと戦ったんですか…。ほとんど刀を抜かないで有名なのに…。」


「いや違う違う、喧嘩したわけじゃなくて。俺もこの世界に来る前に少し刀を触っていたことがあってな。話が盛り上がって気付いたらって感じ。」


 ライラがまたか…。というようにため息をつく。


 まぁ俺が昔触れていた刀は別ゲーだけどな。あのひたすらに1vs1の戦績でランキングが更新され、刀1本しか使えないゲームはキツかったな……。最終ランキング15位くらいまで登り詰めたが、あれ以上は無理だ。


 化け物じみた反応速度のおっさんについぞ勝てなかったんだよなぁ。しかしどこかで手合わせしたことある気がするな、あのおっさん。


 別ゲーに思いを馳せながらライラと道を進んでいると、森の入口にたどり着く。

 真っ直ぐウノスに行くならばこの森は抜けず、街道を歩く方が早い。しかしプレイヤーに絡まれることを考えれば、森を通る方がいいか。


「このまま森に入るか?街道で絡まれると面倒だし。」


「それもそうですね、私たちの仲を見せつけながら歩いてもいいのですが……。」


「お前竜祭の時もそうだが、自重しなくなってきたよな。」


「だって別にもう敵同士じゃないですし。2人でいられるうちにアピールしとかないと。」


(嬉しいがやりすぎなんだよ。あとどこでフロンティアの連中に見られているかわからんしな。)


 2人で森を進む。ウノス方面へ抜けるまで半分といった所で、不自然に空間が開けていた。

 座れそうな切株や岩があり、一見休息ポイントに見えるが、周りの木々には傷がついていた。


 歩き疲れた俺たちは周りを警戒しながらも、ここで休息をとることにしたのだった。

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