第29話

side:???


 私は自室でスマホをいじっていた。久しぶりに見たあいつは、また腕がなかった。1年前、いやここは500年前と言った方がいいか、左腕がない彼に1度も勝てなかった私は……。


 生放送を見た時、思わず封印していたチャットを送ってしまった。

 どうして女の人といるのか、なぜまた左腕がないのか、レヴァテインはあの時消えたはずじゃなかったのか、龍の仮面かっこいいとか、なぜラプライラがいるのかとか、彼の隣は私なのにとか、羨ましい、とか。


 様々な感情が頭の中をぐるぐると駆け回り、スタンプで終わっているチャットを開いてしまったのだ。


 500年前の最後の戦争で、私は最後まで生き残ったうちの1人だった。人間と魔族の王が顔を合わせ話すところを間近で見ていた。あぁこれでこのゲームは終わりなんだと、次に気のいいバカ達と会うのは500年後なのだと涙ぐんだのを覚えている。


 結局英雄となった彼とは「ヒストリア」でまだ会えていない。

 王国騎士団の紋章を見ればほいほい釣れるだろうとたかをくくっていたのが間違いだった。私はずっとウノスにいたのに。


 VRグラスを装着してベッドで横になる。次に目を開けるとウノスで拠点にしている自室だった。

 昔ほど厚くはない鎧を着込み、を背負う。


 鏡で身だしなみをチェックする。肩より上に切りそろえられた金色の髪、現実世界とほとんど変わらない身長、そして最後に淡く青い光を放つ篭手を嵌めると扉を開ける。


 王城を歩けばすれ違う使用人たちが挨拶してくれる。AIではなく本当に生きているかと錯覚してしまう。


 王城に併設された修練場で槍を振るう兵士たちが集まってくる。私は絶賛クエスト中だ、この腑抜け切った騎士団を叩き直さねば。

 いくら戦争していないとはいえ、外にはモンスターがうろついている。こんな体たらくでは一体何を護るというのか。

 団長や隊長に見つかった時になんて言われるか分かったもんじゃない。


 今日も腰の入っていない突きを繰り出す隊員達をしごきあげる。この数字を背負うからには魔族の幹部と対等に戦えるようになってもらわねば。かつての私たちがそうだったように。


 現実世界での私は26歳OL佐藤 夏美、500年前で言えば恐れ多くも、化物だらけのフロンティアの末席にその名前を連ねる"しゅが"である。

 いつか彼の隣に並ぶために、古き良きバカどもと再び冒険するために、今日も槍を振るう。

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