第27話 竜、転じて龍と成る
俺の追撃を躱したフィオは反撃に出る。荒々しく振るわれる爪とランスを、避けるのではなく弾いていく。鬼に金棒、俺に左腕。なんで元々あるはずのものが無いんだよ。
「見えるか?魔力はこうやって纏う。お前はまだ力に流されすぎなんだ。」
ありとあらゆる攻撃をそれよりも威力の高い攻撃で打ち消していく。
「冥龍とは地の底を統べる龍。圧倒的な力でもって敵をなぎ倒せよ。」
先程までとは違い、攻撃をいなすのではなくぶつけていく。冥龍の戦い方はこうである。
基本スペックに物を言わせた圧倒的な出力、フィオはまだまだひよっこだ。爪を、尾を、牙を使ってフィオの行動を封じていく。立ち会い続けるうちに彼女の動きはどんどん良くなる。おそらく4段階めの解放も身体に馴染んできているだろう。
それもそうだ、俺は常に冥龍の魔力を彼女にぶつけているからな。
俺のタイムリミットもあと1分、そろそろライラのもとに戻らないと。この《
もはや立つこともままならないフィオは尚も攻撃を続ける。もうそろそろ、もう出せるだろ、なぁ?龍が龍である所以を。
ライラに合流しようと目を向けると、あちらも同じような状況だった。天国から来たかのように白い魔力を纏う彼女は、フラフラと立つアルドを静かに待っていた。
「天龍とは空を遍く統べる龍、誇り高く下を向かない。常に空をめざしなさい。見える範囲全てが貴方のフイールドよ。」
ライラに合流すると俺は伸びをする。
「そろそろですね。3分とは意外にも長くて短いわ。」
「あぁ、倒すんじゃなくて見守るってのはこの能力だと難しいな。」
2人は身体中に傷をつけてフラフラと立ち上がる。こちらを見る目はそれでもまだ戦意を失ってはいなかった。
「龍は、負けない。」
呟いたフィオは喉の辺りに魔力を集中させていく。そう、そうだよ、俺たちが待っていたのは。
アルド君も喉に魔力を溜め始めている。辺りを漂っていた紫と白の魔力が2人の口に吸い込まれている。
竜と龍の違いとは人型か龍の姿をとるかか?否、ブレスの有無である。どれだけ人型であったとしても、龍の魔力を口から攻撃として吐き出すことができるなら、それはもう立派な龍である。というのはゼノ談。
俺たちも頑張れば口から出せるかもしれないが、それをここで試すほど野暮じゃない。
意識も朦朧としているであろう2人はこちらへ向けて口を開く。
さぁ俺たちのパーティもここで終わりだ。あとはあいつらの親に任せよう。どうせデバフ食らうんなら龍のブレス、人生で1発くらいノーガードで受けてみたいだろ。
咆哮と共に放たれた魔力の奔流が俺たちを飲み込む。これは凄い、細胞全てが焼かれるような感覚に襲われる。
時間にして数秒、俺たちが素の状態だったらポリゴンになっておさらばできていただろう。しかし紛い物とはいえ龍の身体、まだこの場所に留まることを許されてしまった。
HPは正真正銘ミリ、文句なしの合格だ。さて、俺とライラが課すべき試練はここで終わり。もうイベントが終わりなら見せてもいいだろう。
俺たち龍に選ばれた者は「龍から与えられた力」を使い、フィオとアルドの前に立ちはだかった。まさにそれが試練であった。龍の力を手に入れた2人に対して、俺たちは使い方を見せたのだ。
ただ、楽しくなって自分たちの力を使う者もいた。俺たちの前2人だな。ならば、ならば許されるだろう?俺がはっちゃけても。少年Kはガン・ダンスを、レイモンドは無刀を、では俺は?
さっきからイヤリングが熱い。安心しろって、今からやるから。
ブレスを撃ってなお、2人はこちらを見ていた。そう俺が、いや俺たちがフロンティアと呼ばれる所以を見せてやろう。
「ライラ、お前の記憶借りるぞ。」
もはや言葉はなく、彼女は俺の指に優しく触れると残りの魔力を受け渡してきた。
「さてフィオ、アルド。お前たちは満点合格だ。これからは胸を張って龍を名乗ってくれ。」
俺は言葉を切るとイヤリングに触れる。あぁ懐かしい、この暖かい魔力は。
「500年前を生きた人間たちは、今再びこの世界に降り立った。お前たちも見ただろう?あの力の使いどころを間違った馬鹿どもを。」
たしかに存在する鱗に包まれた腕を構える。何も無いはずの空中を、まるであたかもそこに槍があるかのように掴む。
「聞いたことはあるか、槍聖の名を。散る直前まで大剣を振っていた不届き者が最期に撃った、この世には存在しないとされている槍の名を。」
俺は空中で掴んだように見える槍を後ろに引き、投擲の姿勢に入る。
見ているか500年前の愛すべき馬鹿ども。あの戦場の風は、鼻腔を突く硝煙の匂いは、戦靴の音は未だに止んでいない。
「よぉ、久しぶりだな。」
(全く500年も待たせるなんて困った主人だよ。また迎えに来てね、ジン。)
イヤリングから柔らかな声が聞こえたと思えば、辺りは橙の光に包まれた。
「フィオ、アルド、冥土の土産にもらってくれ。またどこかで会おうな。」
左右の腕に橙色の光が集まっていく。
「秘・王国騎士団流槍術 《レヴァテイン》」
500年前と同じく放たれたそれは、竜の里を飲み込む光を放つ。
自分の身体がポリゴンとなって消えるのを感じながら、俺は彼女の手を探り当て握りしめた。
あぁそういえばこの世界で死ぬのは初めてだな。暖かい白と紫と橙の魔力に包まれて、意識は深い底に沈んでいった。
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