第26話

 2人の龍化を満足そうに見る。これで俺たちの試練の目的は1つクリアできた。少年Kの時に解放が1段階目だけで終わった時は少し焦ったがな。

 レイ爺が3段階目まで出させてくれて助かった。俺たちが試練側として課された課題は2つ。1つはフィオとアルドの不安定な4段階目を発現させること。


 顔つきが完全にになった2人をみて笑みがこぼれる。以前相対したゼノとは未だ遠いものの、気高いその双眸は自分たちの限界を越えようと輝いていた。


「ライラ。」


「えぇ言わずとも。もう少しですね。少し私たちも本気を出しましょうか。」


 俺はマギボアとイビルトレントの素材でできた槍を構える。ライラも同じくいつもの構えで剣を2人に向けている。


「いくよ、ジン。正真正銘私たちの全力だ!」


 口から紫色の魔力を漏らしながらフィオが叫ぶ。アルドもフィオも、トップスピードでこちらへ突っ込んでくる。

 あぁたしかに。今まで封印していたのもわかる。こんな動きをしていたら2人の身体が持たないだろう。ランスによるただの突きのはずが肌がびりびりと痺れる。


 久しぶりに本気の立ち会いができそうだ。500年振りいや、現実世界の俺にとってはもっと浅いが、この世界の俺の身体は喜びに震えている。


 ランスを避けた先にアルド君のハンマーが。あら素晴らしい連携。頭を下げればぶつかりませんっと身体を地面に近づけて避ける。


「いい動きするじゃねぇか。」


 するとランスを振り終えたフィオが足払いを仕掛けてくる。成長してておじさんうれしいよ。別に武器を持ってるからって殴る蹴るができないわけじゃないもんな。


 俺は前転の要領で前に手を付き、アルドのハンマーとフィオの足払いを同時に避ける。まるでハンバーガーのパテなった気分だ。

 俺への攻撃が終わり一旦引くかと思いきやそのままライラへと武器を向けている。そう、これは2対2である。

 ライラも俺への攻撃で終わりだと思っていたのか、少し虚を突かれたような顔をしている。あ、にやってしてる。あいつ楽しんでやがる。


「全力で、そして本気ですね。そう来なくては!」


 そこからは見るのもやっとの攻防だった。ライラは1歩も動かず、2人からの攻撃を全て剣1本で捌いている。

 だが龍の2人も負けず劣らず、攻防を経るごとに動きが洗練されていく。

 これは竜祭。新しいの誕生を祝うもの。俺たちはその誕生パーティの末席に呼ばれているに過ぎない。この試練の最終的な目的は、2人の成長である。


 そして俺たちに課されたもう1つのミッションは「龍の力の使い方」を魅せることである。立ちはだかる壁として、向かうべき未来として俺たち龍に選ばれた者はその役目を果たさなければならない。


「ライラ、そろそろやるぞ!」


「やっとですね。ではお2人、よく見ていてください。これが龍の力です。」


 俺たちは並び立つと顔に手を翳す。何が起こるのかわかったのか、戦闘中だというのにフィオが口をあんぐり開けている。


「え……?なんでジンとライラさんが……!」


 手が顔から離れると、龍を象った仮面が現れる。


「「龍化コンバート」」


 あぁこんな感じなのか。確かに理性が持っていかれそうになるな。身体が作り替えられているのが分かる。本来の自分の魔力とゼノの魔力が混ざっていく。


 首元が鱗に覆われ、無かったはずの左腕が龍の魔力で補完されていく。真っ黒な鱗に覆われた腕は、ゼノのものと酷似していた。

 牙の伸びた口から紫色の魔力が漏れる。喋るだけで口から魔法が撃てそうだ。


「タイムリミットは3分、フルスロットルでいくぜェ。」


「人間が龍になれるなんて、」


 アルド君も目を見開いて口を開けている。おいおい白い魔力が口から漏れてんぞ。

 そろそろちゃんと自己紹介でもしておくか。戦闘前は適当だったもんな。レイ爺も正体明かしてたし、配信を見ているであろう騎士団の連中ともそのうち会いたいしな。


「改めて地獄へようこそ、元王国騎士団第七部隊隊長、ジンだ。聞き覚えはあるか?」


「改めまして。元魔族12将、ラプライラ・エルドラドよ。よろしくね。」


彼女の無かったはずの角が白く光っている。俺の左腕と同じく天龍の魔力で補完したか。あ、これこいつの最盛期と同じくらい強くない?今。


 久しぶりに使う左手で、新調した槍を構える。この槍は突くためのものではなく、投げるためのものだ。


「《ピアース》」


 龍の力を得た左腕を振るう。人間の力だけでは出せないであろう速度で槍がフィオとアルドを襲う。地面を抉りながら進む槍を2人は避ける。


「構えを解いてくれるんなら、新しい槍も投げた甲斐があるってもんよ。」


 まだ呆然としているフィオに近づくと拳を叩き込む。ここからは再び1vs1だ。俺は新たな冥龍にこの力の使い方を教えなければならない。


「こっちは楽しませてもらう。お前も存分にな。」


 ライラに声をかけ、フィオを掴み放り投げる。飛んでいく彼女に追撃をお見舞いする。

 ライラの呆れた声が聞こえた気がするが、関係ない。さぁ第2ラウンドといこうか。

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