第25話
side 天竜
おかしい、どう考えても普通の魔族じゃない。竜として魔族と会ったことはあるし、手合わせしたこともある。
だがこの魔族は今までのどんな相手よりも強い。もちろん力や使っているスキルならば先程のレイモンドの方が強いかもしれないが、この相手はやりづらい。
新しく与えられたハンマーは最高の1品である。驚くほど手に馴染むがそれでも尚、相手に傷つけることは叶わなかった。どんな攻撃をしようとも彼女はほとんどその場から動かずに弾いてくる。
「まるで壁打ちだ…埒が明かない。」
ちらりとフィオの方に目を向ける。あちらは激しい戦闘をしているようだった。未だにジンと名乗った男の魔力はほとんど見えない。薄く体に纏っているだけで、特にスキルも使っていないようだ。
「あら、本気を出してこの程度ですか?」
微笑みながらライラが言葉を発する。おかしい。人間でも魔族でもエルフでもドワーフでも、力だけで見れば竜の方が強いはず。近接戦闘で力比べをして勝負になるのはオーガくらいなもんだ。
「何回か割れそうなところを弾いているのに壊れない、いい武器ですね。」
そう言うと彼女は今までの構えを解き、身体を低くする。右手に持った細い剣を後ろに引き左手をはわせる。まるで今から獲物を刺すサソリのような構えを、俺は見たことがなかった。
「あちらは女の子と楽しそうにしてるので、こっちも楽しませてもらいましょうか。」
言うが早いか、彼女は銀色の光になる。今までとは桁違いのスピードに本能が反応する。
果たして、横に思い切り跳んだのは正解だった。今まで自分がいた場所は空間ごと切り取られたかのように荒らされていた。
短く息を吐いた彼女はまたしてもこちらを向く。
「あら、よく避けましたね。ただ何の考えもなしに本能に頼るのはらしくない。いいですか、龍とは気高く、そして美しい。貴方に龍を、広く壮大な空を統べる天龍を名乗る覚悟はおありですか?」
挑発に乗ると相手の思うままだ。この戦いは2対2、1人なら敵わないとしても2人ならば。
フィオの立ち位置を確認し、打ち合いながらも徐々に近づいていく。
「あら、2人なら戦えるとお思いで?やってみましょうか。」
彼女は地面を蹴ると隻腕の彼の元へ駆けていく。心なしか嬉しそうなのは気の所為だろうか。
「ジン、2対2がご所望の様子ですよ。」
「お、ライラと2人で相手と戦うのは初めてだな。」
初めて……ではあの2人はなぜ一緒にいるのか。確かさっきのレイモンドも「ありえない組み合わせ」とか言ってたっけ。だめだ、考えても分からない。魔族、片腕、なにかが頭で繋がりそうなのに上手くいかない。
「いくぞ、フィオ!」
フィオに声をかけて2人に向かって飛びかかる。何とか1人を集中的に狙えば勝利の糸口が見えるだろう。
さしあたって片腕しかない方を狙う。2人に対して迎撃手段が1つしか無ければ必然、どちらかの攻撃を受けるほかあるまい。
俺とフィオが最後に見たのは彼のにやっと笑う顔だった。
「確かに攻撃のタイミングは完璧だったけどな、甘えが出てんだよ。腕1本、脚2本あるのに何故2人からの攻撃が捌けないと思ったんだ。」
右手でフィオのランスをいなした彼は、俺のハンマーをそのままランスにぶつけ、衝撃に手が緩むその瞬間、2人に向けて蹴りを放ったのだ。
とんでもない体幹である。手と片足をあげて状態で独楽のように回転し攻撃を防いだ上で反撃する。
吹っ飛ばされた俺たちは構え直して2人を見やる。ここから先は地獄、戦ってきた少年Kとレイモンドの言葉が傷に沁みる。
「フィオ、もう形振り構ってられないな。」
「そうだね、まだ不完全だけど全力かつ本気でやらないと。」
そう言って俺たちは顔に手を翳してまだ不完全な4段階目を解放する。意識が本能に沈みそうなところを何とか引っ張りあげる。
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